表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『迷宮殺し』レインの英雄証明 ~勇者に憧れた少年、元勇者と大罪人の道を往く~  作者: 立華凪
光の章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/35

#021 『処刑後の一幕』


 どれぐらいの時間、その場で立ち尽くしていたのか。

 処刑を終えて執行騎士(エグゼナイツ)の面々が去り、人がまばらになった頃、カシュアが恐る恐るといった様子で声を掛けてくる。


『……大丈夫かい、レイン君。やはり今の君にとっては刺激が強すぎたかい』


「……確かにそれもある。……けど、それよりも……あの男が残した言葉が気になって……」


 幾ら覚悟を決めたとは言え、先ほどの処刑は目を逸らしたくなる程の凄惨な光景だった。

 だが、そんな凄惨な光景を目の当たりにしても、思考を塗り潰してしまう程、男の遺言の方に衝撃を受けていた。


『……イカれてんのはお前らの方だ、って言っていた事かい? 元より彼らはただの犯罪者集団だ。市民を混乱させる為に言い放った、狂人の戯言の可能性だってあるんだよ』


「分かってる。……分かってるんだけど……それでも、引っ掛かるんだ」


 どうして、最後の言葉にわざわざそんな言葉を選んだのか。

 ただ迷宮を愉快犯的な目的で破壊して回っている狂人なら、そんな言葉は選ばない……と思う。

 カシュアは少し考え込んでから、口を開いた。


『【迷宮殺し(ダンジョンスレイ)】がどういう目的で迷宮を破壊して回っているのか、か。……考えた事も無かったな。世間一般では【迷宮殺し(ダンジョンスレイ)】は残虐極まりない犯罪組織という認識で、ボクもそれを鵜呑みにするしか無かったから……』


「それを言ったら、カシュアだってそうじゃないか。魔王に挑んだ勇者だってのに、今は『腰抜けカシュア』だなんて言われてるし」


『……む、言うじゃないか。確かにボクを引き合いに出されると一理あると思ってしまうな。……君が思うように、【迷宮殺し(ダンジョンスレイ)】にも何かしらの目的があるんだろう』


「なら……」


『だけど』


 一度話を聞いてみるだけでも、と思った俺の思考を読んでか、カシュアは険しい表情で詰め寄った。


『絶対に自分から近付くべきじゃない。火の無い所に煙は立たないように、【迷宮殺し(ダンジョンスレイ)】は問題を起こしているからこそ世間から犯罪組織と呼ばれているんだ。そもそも、国単位で追って、足取りすら掴めていない組織を君一人だけで探し出せる訳が無いだろう』


「う……」


 カシュアの言う通りだ。俺一人で出来る事なんて限られている。

 それに、世間で言われているように、迷宮で人を襲ったりしているのであれば、それは昨日出会った冒険者狩りのような存在なのだ。

 人の悪意を目の当たりにしている上で、それを信じてみたいというのは余りにも愚かな発言だろう。

 カシュアの正論に言い返せず黙り込んでいると、カシュアは頬に人差し指を添えながら。


『でもまあ、確かに気にはなるね。──彼らの目的からして、迷宮を破壊して回れば、否が応でも鉢合わせする場面だってあるだろう。その時、様子を伺ってみるのもアリかもしれない。勿論、君の命が最優先だから、襲ってくる気配があったら逃げる、もしくは戦う事も視野に入れておこう』


 俺の内心のもやもやを汲んでか、カシュアがそう妥協案を提案してくる。カシュアの目的を達成する上で【迷宮殺し(ダンジョンスレイ)】という組織に関わる利点は現時点ではほとんどないと言える。俺も我儘を言っている自覚があるので、すぐに頷いた。


「分かった」


『よし、そうと決まればまずは休息だ。いくらあのポーションで見た目上は回復しているとは言え、疲れも相当な物だろう。宿に戻って、一度色々と話がしたいからね』


 話がしたいと言った時のカシュアの表情は至って真剣な物だった。

 恐らく、俺が小さな死神(リトルリーパー)と戦闘した時の無茶に対して怒っているんだろうな、と思いながら宿屋に向けて歩いていった。





 これまで張り詰めていた緊張の糸が宿屋の自室に辿りついた途端に切れて、どっと疲れが押し寄せる。

 今すぐにでもふかふかのベッドに倒れこみたい所だが、その前に。


『きゅ、急に脱がないでくれ! びっくりするから!』


「あ、悪い」


 一度身体を綺麗にしないと、と思い一度服を脱ぐと、カシュアが顔を覆いながら叫んだ。

 そうだった。疲れてたからあまり気配り出来て無かったけど、一応カシュアも女の子だもんな。

 実体の無い身体なのになんで顔が赤らんでいるのはどういう訳なんだろう、とぼんやりと思っているとカシュアは恐る恐る指の隙間からこちらを見るなり呟いた。


『ん、レイン君、意外と鍛えてるんだね……?』


「……ああ。孤児院に居た時も、本を読むか身体を鍛えるぐらいしかやることが無かったからさ。と言っても、普段はまともな食事じゃなかったから、しっかり筋肉が付いているかって言われたら微妙なんだけど……」


 俺の言葉を聞いて、ふむふむとカシュアが頷く。


『……なるほど、ようやく納得したよ』


「何が?」


小さな死神(リトルリーパー)と接敵する前、君にも説明しただろう? 歴戦の冒険者が何故強いのかって話を。魔力を取り込み、己の血肉とするにはその為の土台が必要だ。だけど、君は昨日初めて迷宮に挑んだんだろう? 幾らパラサイト・タイタンボアを倒したと言えど、急成長出来た事を少し不思議に思っていたんだ』


 確かに、俺も昨日と今日で明らかに身体能力が違っている事を不思議に思っていた。

 思わず両の掌を見つめながら、小さく吐息を吐く。


「結果的にだけど、孤児院を出るまで身体を鍛えていたからこそ、俺は小さな死神(リトルリーパー)と渡り合えたのか」


『そうだね。その時の君の努力が実を結んだと言うべきだろう。でも、適切な食事を取れていなかったとなれば、出来ている土台もそこそこだろう。だから、きっとすぐに成長も頭打ちになる。これからは食事方面にもしっかりお金を使っていこうか』


「分かった」


 孤児院を出てからは日々を食いつなぐだけでも精一杯だったというのに、たった二日で随分と余裕が出来たものだ。恐らく、一昨日の自分に伝えても嘘だと言われてしまうだろうな。

 こちらを真っすぐと見つめるカシュアの言葉に頷いてから、「あ」と声を漏らす。


「そうだ。お金で思い出したけど、小さな死神(リトルリーパー)の魔石はどうした方が良いんだ? パラサイト・タイタンボアみたいにギルドに買い取ってもらう方が良いのか?」


『……本当は、隠しておきたかったんだけどね。Fランクに上がったばかりの君がDランクの魔物である小さな死神(リトルリーパー)を倒したなんて、本来であれば有り得ない事なのだから』


「……そうだよな。悪い、ちゃんとカシュアに確認すべきだった」


『いや、あれで良いんだ。むしろ、迷宮で執行騎士(エグゼナイツ)ちゃんに見られている以上、どこかでその事が露見してしまう可能性もあったんだ。嘘を吐いたり、隠してしまった方が怪しまれる。……それに、有効活用する手段は既に考えてある』


 執行騎士(エグゼナイツ)ちゃんって癖あり過ぎる呼び方だろ、と内心思いながら、首を傾げる。


「その手段って?」


『ボクの古い知り合いがこの街に居る。その知り合いにその魔石を預けて、君専用の()()を作ってもらおうと思っている』


「武器!?」


 思わずカシュアの顔に触れるかというぐらいの距離まで詰め寄ると、カシュアは大きく仰け反った。


『ち、近いよレイン君』


「悪い、専用の武器って聞いて舞い上がって……」


 自分専用の武器、と聞いてテンションが上がらない方がおかしい。市販の武器であればまだ安価で入手出来るが、オーダーメイドともなると素材を用意しないといけない上、かなりの大金が必要になる。

 俺からしたら縁遠い存在だったのだが、まさか専用の武器を打ってもらえる機会が来るなんて。


「けど、カシュアの古い知り合いって言っても、10年以上前に会ったっきりなんだろ? 向こうはカシュアの知り合いって言って通用するのか?」


『それもそうなんだけど……まだ彼が鍛冶業を営んでいるのかが分からないんだよね。だから、明日の朝一に彼の家に行ってみよう。ボクの弟子だって言えば請け負ってくれるかもしれない』


「カシュアの弟子……」


 確かに、今の現状を見るに相棒と言うよりも師と弟子の関係に近いかもしれない。

 元勇者であるカシュアに直々に指導してもらえるという事にしっかり感謝しないとな。

 会話がそこで途切れ、カシュアはわざとらしく一つ咳払いをする。


『……さて、話も一段落した所だし、そろそろ本題に入ろうか』


 と、弛緩しかけていた空気が、張り詰める。広場を離れる前、彼女が言っていた話とやらだろう。

 カシュアは軽く息を吐き出すと、こちらを真っすぐに見つめた。


『──君の、無茶についてだ』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ