第63話 メッセージ
「護衛である我々を置いて行かないと何度言えばわかるのですか!」
「いや、マルクも私の護衛部隊だからな」
「マルクは補助要員であってリリア様の護衛を単独で務められないと言ってありますよね!」
でも今回は自分の周りだけじゃなくて、それなりの広範囲の結界を敷いていたじゃないか。マルクも成長しているぞ。まぁ、タコに結界を張ったは謎だが。
私はザッシュに上から威圧的に見下されながら、叱られている。
一応被害を最小限に抑えるために、私は自爆する瞬間に相手を結界で覆ったではないか。それにより、被害は地面の一部が陥没しているだけにとどまった。
敵からよくしてやられたから、条件反射で動いたんだぞ。っと言い返せば小言が増えるから止めておく。
「それに護衛である我々に来るなとはどういうことですか! 護衛がどういう者かと、いつになったら理解されるのですか!」
巻き込まれる人を減らすためだ。と答えてもザッシュが求めている答えではないから気に入らないんだろうな。
「リリア様! 聞いているのですか!」
「聞いている。被害は私が抑さえたのだから、良いではないか」
「それは結果的にです。先程のこともそうです。護衛である私の前に出るなどあってはならないことです」
わかっているのだけどな。ザッシュが動けなくなると私が困るし、なんというか身体が動いてしまったというものだ。
「ザッシュ。私は母の様に守られるのが当たり前という考えではない。私が出て解決できるなら動く。この考えは変わらない」
「はぁ」
大きなため息が降ってきた。私につけられたのが運の尽きだと、その辺りは割り切って欲しい。
「お説教は終わりましたか?」
ディオールに声を掛けられた。その背後には疲れた顔のレントとご機嫌のアランがいる。アランの機嫌がいいのはなんとなく予想できるが、レントはどうしたのだろうか。
「報告を聞こうか」
廃坑の方で戦っている気配があったので、ディオールに様子を見に行くように言っていたのだ。その間、ランドルフに無茶をするなと言われ、ザッシュにお説教をされていたのだ。
「はい。廃坑の中からアンデットが湧き出ており、それをアランが始末し、レントが発生源と思われる物を始末していました」
アンデットを発生させるものってなんだ? そんな物があるのか?
「どうやら我々が見た転移の扉と同じものが、アンデットが発生している場所と繋がっていたようです。それからレントから報告があるそうです」
あの扉は固定化ができるものだったのか。ということはアステリス国の転移は転移の扉の固定化を行っていたのか。ならば、軍が突然現れて消える理由にもなる。
しかし、目の前で逃げられたときに、転移で去って入れ違いのように我が領の領民が現れたのも事実。
もしかして複数の転移の術を使い分けているのか?
いや、驚くことではない。あの男が背後にいるのであれば、失われた魔術も復元されている可能性がある。
「辺境伯様。実はミゲルカルロ様が……」
「ああ、わかっている」
「そうですか……お二人いたこともわかっていらしたということですね。それなら私から報告することは何もありません」
……二人?
「ホムンクルスか! あの男、何を考えているんだ? ということは、ミゲルは無事? いや、あのまとっている魔力はミゲルの魔力だった。ちょっと二人目はどうしたのだ!」
あまりにもの予想外の言葉にレントに詰め寄って聞き出す。
「お……お二人目? ……もう一人のミゲルカルロ様は怪しい魔道具を壊そうとされていましたので、気絶させようと首に手刀を打った瞬間にスライムのように溶けてしまいました」
それを聞いて、廃坑に向かうべく、崩れた岩の山を乗り越えようと……できなかった。
「シルファ。皆で行こうか」
「ランドルフ。下ろしてくれないか?」
何故かランドルフに抱えられていた。くっ、ここ数日でよく思うが、ランドルフの気配が読めないのだ。
「ランドルフ様。そのままリリア様を捕まえておいてください」
「ザッシュ!」
「レント、その場所に案内しなさい。リリア様、また我々を置いていこうとしていましたね」
いや、別に置いていこうとは思っていないぞ。それに私が動いてもレントとアランが背後からついてくるだろう?
そして、私はランドルフに抱えられたまま、廃坑の中に入っていったのだった。
入り口からさほど離れてないない場所にそれはあった。
銀色の水銀のような水溜まりをレントは指示した。そして中にはガトレアールの青の魔石が沈んでいる。
ランドルフに下ろしてもらい、銀色の水を観察していみる。
これ自体は魔力の塊と言っていい。肉体を構成していたようには思えない。ということはこの魔石に何か仕掛けがあるのか。
その魔石を拾おうとすれば、私の腕を掴まれてしまった。
「そういうのは誰かに命じればいい」
「ランドルフ。効力は既にない。あるとすれば、エーラシモスの置き土産だろう」
「余計に駄目ですよ。マルク。拾い上げなさい」
「ひぃぃぃぃ! ディオール様! 嫌ですぅぅぅぅ!」
マルクに取らせるのか? まぁそれなら、それなりに魔術の耐性を持っているしいいか。しかし、マルクが素直に納得しないと思う。
「マルク。貴方、捕虜の魔力封じを怠りましたね。お陰で辺境伯様のお手を煩わせることになったのですよ?」
「ひぃぃぃぃ! それはごめんなさいって謝ったよぉぉぉぉ!」
「おい、マルク。それは謝ってすまないぞ」
「マルク。素直に拾った方が身のためではないですか?」
「二人共、僕の味方をしてくれないぃぃぃぃ!」
嫌だと否定していたマルクは、アランから魔剣を突きつけられて泣きながら、青い魔石を銀色の水から拾い上げる。
すると青い魔石が光りだした。
「ひぃぃぃぃ!」
「マルク。そのまま持っていろ。発動しているのはメッセージの魔術だ。あと黙れ」
周りに展開している陣を読み取ると見覚えのあるメッセージを発信するものだ。
そして弟のミゲルの声が魔石から発せられた。
『姉上。ご機嫌如何ですか? 今頃この廃都を破壊しているところですか? 私を殺したときと同じように』
イラッとした。ミゲルの声だが、内容はエーラシモスからだとわかってしまった。
『貴女には辛酸を嘗めさせられましたからね。色々贈り物を送りましたが如何でしたか? お気に召していただけましたか?』
贈り物で気に入ったのは一つだけだよ。あれは美味しかった。……ザッシュ。何故に何も言っていないのにジト目で見てくる。
『私に情報をもたらしてくれるのは一人ではありませんからね。そして、ここに居た王弟は捨て駒です。能力喰いは他にもいますよ』
王弟。先程自爆した者は以前から調べており知っている。あれはアステリス国王の二十四番目の王子。いや、五年前に王が代替わりをしたので王弟になるな。
しかし、能力の譲渡ができるというのか?
それにエーラシモスに情報を渡しているのがサイザール第一副師団長のみではなかったということだ。いや、考えればわかることだ。それも私の残念な趣味嗜好を把握できる人物ということだ。
特にあのゾンビドラゴン! 私にドラゴンが食べられるかもっという期待をさせておいて突き落とすやり方。あの落胆は本当にない。
『これだけ情報を提示した意味がわかりますか?』
ちっ!
『そうですよ。貴女は所詮私の手のひらの上で踊っていただけに過ぎない。私が死んでから何も成長していないのですね。ローズシオ……』
バキッ。
マルクから魔石を取り上げ、握り潰す。あの男、何を口にした?ローズシオンと言ったよな?
どこまで知っている。どこまで何を知っている。
「シルファ?」
これを知っていると言いたいがために、メッセージを残したのか。相変わらず性根が腐っている。
これはアステリス国に情報が渡っていると考えていい。
「ふふふふ。これは流石に聴き逃せない。伯父上に報告を上げなければならないな」
「リリア様。早急に王都に行きますか?」
「いや、領地の混乱を収めるのが先だ。あっちはまだ準備にかかるのであろう」
「ひと時の平和と言っておりましたからね。しかし、先程の言葉はいただけない。これは王族にも裏切り者がいそうですね。これは我々グラーカリスの一族の召集も必要ですね」
エーラシモスのメッセージにザッシュは静かに怒りの炎を瞳に灯し、ディオールは笑っていない笑顔を浮かべている。
「怖い。怖いよ。辺境伯様が魔石を僕から取り上げなかったら。絶対に僕の手が無くなっていたよね?」
「そうだな。隊長に魔石ごと手を叩き切られていたな」
「ディオール様から影の槍で貫かれていたでしょうね」
こんなところで時間を潰している暇はない。
「『遷化の破鏡』はここにはないのか?」
「これのことですか?」
レントが髑髏に咥えられた黒い玉を差し出してきた。見た感じ手をだしてはいけないものだとヒシヒシと感じる。
恐らくこれを使用するには相当の対価を支払わないといけないと思われる。
いったいどれほどの対価をこれに与えたのだ?
しかしこれがあれば死者を死者に戻せる。
「では父の元に向かおう。少し話がしたいからディオール。到着したら直ぐに洗脳を解いて欲しい」
「かしこまりました」
あとはエーラシモスの手にかかったものが身近にいるから、その者をあぶり出さないといけない。
いや、能力の譲渡が可能であれば、再び洗脳される可能性がある。これは早急に何かを考えなければならない。
ちっ!『アラエル』とは一体何だ。ここまでして手に入れたいものなのか。




