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女辺境伯の結婚事情  作者: 白雲八鈴


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第59話 タコヤキが食べれそう?

旧領都イグール内部への侵入2 Side


「僕、一人で置いていかれるなんて、辺境伯様みたいになんでもできるわけじゃないから無理だよ」


 マルクは一人結界内に残ってグジグジと言っている。しかしその視線は南の方向に向けられていた。


「そもそも死んだ人が生き返るっておかしいよ。そういうのはゾンビドラゴンだけで、いいと思う」


 時間稼ぎのためにゾンビドラゴンの相手をさせられたマルクは、グジグジと言ったまま、地面にしゃがみ込む。

 いくらマルク自身が結界内にいるとはいえ、どこに敵が現れるかわからない現状では、不用心ではないのだろうか。


「それにアレ何? 見たことないけど。気持ち悪い」


 凄く嫌そうに言うマルクの視線の先には、まだら模様の触手を伸ばしながら這ってくる姿が見て取れる。しかし、柔らかい身体なのか、骨が無いのか、柔軟な動きをしている筋肉質のまだらな物体が向かってきている。


 マルクはしゃがんだまま振り返って叫びだす。


「アレって何! 見たこと無いけど!」


 岩の残骸の上で、何者かと交戦中の二人に向かって聞いたのだ。

 マルクからはよくわからないが、少し上にいる二人からその姿が確認でき、どのようなものか心当たりがあるかもしれないと思ったようだ。


「私は魔物には興味ありませんから知りません。お嬢様ならご存知でしょう」


 アランは知らないと答えた。そして魔物に関して食用にしようと、何かと考えているリリアシルファなら知っているだろうと。


「恐らく、それはレククラークだと思う」


 レントがその名を知っていた。


「それは何!」


 うねうねと近づいてくる十メル(メートル)はありそうな物体に、マルクは恐怖を感じながら聞き返す。


 しかし、レントは立ち止まって考え始めた。いや、記憶を思い出そうとしているのだろう。


「タコヤキが、食べられそうとか言っていた記憶しかない」

「辺境伯様の食用ペットが脱走してるぅぅぅぅ!」

「「そんなペットは誰も許可しません」」


 マルクの言葉にレントとアランが否定する。いくらなんでも十メル(メートル)はありそうな魔物を飼う許可は誰も出さないと。


「そもそもそれ、南方の海に生息しているから、海がない領地では飼育不可だ。あと爪に毒があるらしいから気をつけろ」


 レントはそれだけを言って、岩の残骸の中に消えて行った。


「爪? 爪があるように見えないけど? それに海の生物がなぜこんなところに?」


 向かってくるまだら模様の物体に、爪があるようには見えないが、地面に接している部分には丸い吸盤のような物が見える。

 しかし、毒を保有しているというのであれば、獲物を捕獲する時に使用するため、隠しているのかもしれない。


「海かぁ。行ったことないけど、大きな泉らしいよね。しょっぱいらしいというのも聞いた。……うーん。燃やすと辺境伯様に怒られそうだよね。食べたかったのにとか……うん。絶対に怒られる」


 マルクはグチグチと言いながらも、先ほどとは何一つ体勢が変わっていない。


「南の温かい海なら、寒いのは苦手かな?『氷原極地(グレイトゥルム)』」


 突如、マルクの前方に巨大な魔力の陣が発現した。それは全体像がまだわからないレククラークの一部が侵入している。


 侵入してきている一部が徐々に白っぽくなっていっているように見えた。いや、うねうねと動いていたまだら模様の腕の動きが鈍くなってきてる。


 そして端の方から徐々に凍りついてきていた。


「ふぅ〜。僕の命はこれで繋がった」


 マルクは安堵と共に大きく息を吐き出した。まだレククラークは完全には凍ってはいないが、この状態から更に攻撃されることはないとたかを括っている。

 それが隙となっていることも知らずに。



 マルクの強固な結界が突如として瓦解した。

 何も攻撃を受けてないにも関わらず、崩れてしまったのだ。


「え?」


 驚くマルクの背後から忍び寄る影がある。その者から一言が発せられた。


「『私に従え』」


 脳を揺さぶるような声がマルクを支配した。


「『こちらを向け』」


 そう命じられマルクは地面にしゃがんだまま、振り返る。

 そこには金髪金眼の壮年の男性が立っていた。この地域では見たことがない顔つき。そして服装からそれなりに地位がある者に見受けられた。


「『何人でここに来たか答えろ』」


 その声質は何者にも否定を許されない絶対的な支配を感じさせた。口音の術。執事ディオールが使う血統の術だ。


「三人だよ」

「本当に三人だったのか『ならば、お前の仲間を殺し、自害しろ』」


 マルクは心得たと言わんばかりに立ち上がり、男に視線を合わす。そして、手を前に掲げ口を開いた。


「『深淵の眠り(アルプシュラーノ)』」


 低くマルクの声が響いたかと思うと、目の前の男が膝から崩れ、地面に倒れていく。


「あ……あと動けないように『捕縛カプペルノ』」


 マルクが相手の質問に答えていたのは、術にかかったふりをしていたのだろうか。


 いや、魔道具の効果が効いていたため、マルクに影響がなかったのだ。

 もしかすると、その魔道具の効力をものともしない、ディオールの術を受けていたため耐性ができているのかもしれない。


 ただ気になるのが、なぜディオールは躊躇することなく、マルクに口音の術をかけるのか。それが何度もあるかのように。


「僕が弱そうだからって油断しすぎだよね。普通に話しかけてくるなんて。それも人数なんて見ればわかるじゃなか」


 これはマルクはただ単に質問に答えていただけだったようだ。


「それで、この人は何がしたかったのかな?」


 術で両手両足を縛られた者を見ながら言葉を漏らすマルク。この男に何をされたのか全く理解していなかった。

 術をかけられている認識すら無かった。


 きっとこのような鈍感さが、ディオールの癪に障ることになったのだろう。





一方その頃、アランとレントは数の多さに苦戦を強いられていた。


「これは流石に多い」


 レントは苦虫を噛み締めたような表情をしながら、黒い小さな玉を投げつけ、辺り一帯を爆破している。


「三十人って嘘じゃないか!」


 これは索敵をしていたマルクへの文句だ。現状、レントは周りを囲まれていて身動きがとれず、辺りを爆破して、なんとか距離を保っているという状態だ。


「最初は三十体でしたよ。スケルトンが」

「三十は倒したぞ! だったらこの現状はなんだ!」


 アランの言葉にレントは間違ったことは言っていないと言い張る。

 現状。それは多種の魔物のゾンビに囲まれている状況だ。倒しても倒しても廃坑の出入り口から次々と湧き出てきている。


 アランは新たに取り出した魔剣を大きく横一線に振り、大きく後方に距離を取る。切られた魔物のゾンビたちは次々の炎を吹き出し燃え上がっていた。密集していたため、それは炎の壁となり、更に後方から襲ってくるモノたちも炎が呑み込んでいく。


「そのことで疑問があるのです」


 アランが大きく後方に距離を取ったのは、レントの近くで現状の把握をするためだった。


「マルクの索敵は、お嬢様直伝ですので、ほぼ誤差はありません」

「確かに今まで、そのことでは文句を言ったことはない」


 マルクの魔術に関しては、レントもアランも口を出すことはなかったようだ。それはかなりの精度をほこっているからだろう。


「ならば、マルクが把握していた時点では三十体で、それ以後次々と湧き出てきていると考えた方が無難です」

「それこそあり得ない。次々と魔物の召喚など、召喚にはそれ相応の対価が必要だ」

「召喚とは言っていませんよ。湧き出てきている何かがあるのではないのかと言ったのです」


 レントはアランの言いたいことがいまいち掴めてないのか、わかったようでわからないという表情をしている。


「以前から疑問に思っていたのです。アステリス国の転移魔術です。集団で現れて集で消えるとは些か都合が良すぎますよね」

「都合がいいのは以前から思っていたが、それは辺境伯様が位置替えの転移を用いているのではと言われていたはずだ」


 それはリリアシルファの予想であって真実ではない。なぜなら実際にアステリス国の者が転移を使用しているところを見てはいないのだ。


「例えば転移の固定……転移門なるものが存在していればどうですか?」

「転移門。しかしそんなものありえない。そんなものが簡単に出来てしまうのであれば、この戦いは負け戦だ」


 無尽蔵に敵が投入されてくるのであれば、こちらは徐々に疲弊していき、対処しきれなくなり、敗者となる未来しかないと。


「何か条件があると思いますよ。その湧き出てきている根源を、あの廃坑の中で探してきてください」

「あの廃坑は凄く広いのだが?」


 真剣に話しているとアランが突然動き、レントに背を向けて駆けてくる。先程足止めとして炎の壁を作っていたがそれが崩れ、再びレントとアランに向かって襲ってきたのだ。


「私は魔剣のデータ収集に忙しいので、副隊長一人で頑張ってください」


 それだけを言ってアランはゴブリンやオーク、オーガなのど人のかたちをした魔物のゾンビに向かっていった。

 魔剣のデータ収集というのは、アランの魔剣へのこだわりなのだろう。


「はぁ、アランのように嬉々として敵を屠っていくタイプじゃないからなぁ。辺境伯様が言うところの適材適所っていうやつか」


 そう、呟いたレントは言葉だけを残して、その姿は消えていた。


 姿を消したレントは旧領都イグールの背後にそびえ立つ廃坑の入り口に立っていた。

 坑道への入り口は一つではなく、魔物が吐き出されている出入り口ではないところから、中の様子を窺い、坑道内にその身を滑らせた。


 レントは、今でも魔物を吐き出している入り口の方に向かっていっている。そこに何があると確信があるかとような足取りだ。


 そして、坑道の一番大きな出入り口がある場所にたどり着き、壁に背を当てながら、出入り口の方を覗き込んだ。


「っ〜…………」


 思わす声がでそうになり、レントはその口を片手で押さえる。予想外のモノが目に入ってきた。


(あの方がなぜ?)


 レントの疑問に応える声は、誰も居ないのだった。


次回からリリアシルファ視点に戻ります。


参考資料図

https://33361.mitemin.net/i901953/

参考資料イラストなので画像貼り付けはしません。

タコじゃないの?の参考資料です。

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