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女辺境伯の結婚事情  作者: 白雲八鈴


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第51話 人は人以外になれるのか

「シルファ。この辺り二キロメル(キロメートル)範囲を索敵したが、人がいるのはここと、仮陣地しかいない」


 三十分後、ランドルフが戻ってきた。


「もう少し時間をかければ、遠くまで探せるのだが……」


 そう言いながら、ちらりとゾンビドラゴンの方に視線を向けている。

 そうだなぁ。囮役のマルクの悲鳴が、段々と悲壮感が出てきたから、戻ってきたのだろう。


 それにこの辺り一帯が毒の大地に変貌してしまっている。


「いや、これ以上時間をかけるのは得策ではない。この場にはいないことも考慮はしていたが、それだと本当に噂が真実だと思わざる得ないな」


 人を改造して、人以上の力を手に入れられるという魔人化計画。いったい何が目的でそのような計画をしたのか。


「アラン! 食えない肉は処分していいぞ」


 マルクの囮役を監視しているアランに、始末していいという許可を出す。


「辺境伯様。未練がましいですよ」

「煩いぞ。ディオール」


 私の許可を聞いたアランは、空中を飛びながら逃げ惑っているマルクを足蹴にして高く飛び上がり、魔剣を抜いて上から一刀両断するように地面まで振り下ろした。


「魔剣でゾンビ系が倒せるのか?」

「まぁ、持っている魔剣ならいけるだろう」


 ゾンビ系は元々死したモノだから、普通の剣で斬っても動き出す。だから、浄化するか徹底的に潰す必要がある。


 振り下ろした魔剣を鞘に収めて、文句を言っているマルクを回収してこちらに戻って来るアランが見える。


 そう見た目では、ゾンビドラゴンに傷一つ与えてはいない。


 動きが怠慢なゾンビドラゴンは何をされたのかは分かっていないのだろう。逃げ去るアランとマルクの方に首を向けた。


「ぎゃぁぁぁ! こっちをみた!」

「耳元で騒がないでください」


 騒ぐマルクをアランは毒の大地に投げ捨てて、更に騒ぎ出すマルク。

 騒ぐ前に解毒しろよ。


 そして、ゾンビドラゴンが動き出した瞬間。その身は泥のように崩れていった。


「え? 崩れた?」


 まぁ、ランドルフが驚くのも無理はない。まさかゾンビドラゴンがスライムのように粘液物になるとは思わないだろうな。


「アランの持っている試作品は魔力の回路を断つという剣だ。だから別に肉体を斬るようなものではない」


 生き物は魔力が無いと生きていけない。

ゾンビのように、動くという行動が生命活動で行われておらず、魔力によって動く物体と成り下がっているモノは特に有効だろう。


「今回は魔核を斬りましたので、形を保てなくなったようですね」


 核自体を斬れば、ゾンビは身体を維持することができずに、崩れ去るしかない。


「この魔剣の特徴は、斬った先が動かなくなるというところなのです。剣なので当たり前なのですが、腕があるのに、肘から先が動かない。視覚と感覚の乖離に混乱するのですよ」


 アランが魔剣のことを語りだしてしまった。こうなると長い。だからさっさとぶった切るにこしたことはない。


「そこで追い打ちをかけるのが……」

「アラン。ランドルフには後で語ってやるといい」


 時間がある時に存分に魔剣自慢をするといい。


「失礼しました」

「これから、如何なさいますか辺境伯様」


 ディオールが次の行動を確認してきたが、さてどうするか。

 私は明るく光っている山を見る。正確には山に隠れた旧領都イグール。


「第三師団の一部を北側を巡回させるように指示。恐らくひと目をさけるように移動してきているようだから、被害は無いだろうが、領兵の遺留品の捜索も含めて、調査するようにと」

「はい」

「あと、サイザール副師団長のように、術を掛けられた者が他に居ないか再度調査……いや、一度皆に捕獲の首輪をつけさそう」


 すると無言でなんとも言えない視線が突き刺さってきた。


「いや、私の周りの者には屋敷に入る通行証に状態異常の解除を仕込んでいるだろう?」

「そうですね。お陰で一つ作るのに、私の一年間の報酬と同等の金額がかかっていますね」


 凄く嫌味な言い方をディオールからされた。まぁこのこともあるから私は持ち歩かないと言っているのだ。

 これで無くした日には、どれほどグチグチと言われるか目に見えている。


「え? この仮でもらったやつにもそれぐらいかかっているのか?」

「いや、それは使い捨てだから、他の領軍の者たちが持っているものと変わらない」


 ランドルフが持っているものは、見た目がいいだけの通行証だ。時間が経てば崩壊するように設定しているものに、それほどお金はかけていられない。


「それに信頼している者を疑うのは面倒だしな。まぁ、そうなったら、ブサっとグサッとヤるのは躊躇はしないが」

「ひぃぃぃぃぃ! 殺される!」


 あ、マルクが復活したようだ。


「マルクが生き返ったから戻るか」

「死んでないよぅぅぅぅ! 辺境伯さまぁぁぁ!」


 地面からよたりと立ち上がったマルクをアランが首根っこを持って引っ張り出した。途中で疲れたと駄々をこねてもアランがなんとかしてくれるだろう。


「これは一旦、魔力を遮断して、強制的にかかっている術を解除するためだ。相手を洗脳するにしろ、命令を聞かすのも、維持をするのに使うのは術者の魔力ではなく、施行された者の魔力だ。生命維持だけに必要な魔力まで低下すれば、必然的に解除される……はずだ」

「それは予想ということですか?」


 予想かと言われたら予想でしかないが、理論的に考えれば、危機的状況に陥れば、身体は自ずと生命維持を優先するだろう。


「わかった。私で試してみるか?」


 私は期待感を込めて後方を振り返れば、呆れた声が聞こえてきた。


「そもそも私の術は、辺境伯様には効きません」


 そうだった。とても残念だ。


「あとで、マルクとアランで試してみます」

「いやだぁぁぁぁ」

「え? 私もですか?」

「一人では本当に解除されても信憑性にかけますからね」


 マルクとアランは実験につきあわされることが決定したようだ。

 あと今できることは、休息をとることだな。




 仮陣地に戻ってきてみれば、ザッシュの隣にレントがいた。

 レントまで来てしまったのか。


「レントは休んでいて良かったのだぞ」


 私がそう言うと、レントは苦笑いを浮かべた。


「辺境伯様が動いているのに、休むことなどできません」


 私が悪いような言い方をされた。心外だな。


「それから『空気キレイちゃん3号』を持ってきました」


 なんだレントに持って行くように頼んだのか。あのジジイは。

 しかし、敵に行動を感知されないように動くのであれば、レントに頼むのが一番いい。


「それは夜が明けたら、戦闘跡を浄化するように、ここの見張りに言っておいてくれ」

「かしこまりました」


 そう言ってアランは第四師団の者がいるところに向かっていった。そして明るくなった場所で見渡すと、マルクの酷い状態に思わず目をそらしてしまった。


 確かに毒の地面を転がっていたから、ところどころ毒に侵食された跡がある。

アランに視線を向けて、マルクを回収させた。

 最低限の身なりは整えようか。


「ディオール。私達はここから引き上げる。帰還の準備ができ次第、領都に戻る」

「かしこまりました」


 ディオールもこの場を離れていった。だからこの場に残っているのは、ランドルフとザッシュのみだ。


 私はポケットからタバコを出して、咥えて火をつける。

 肺を紫煙で満たし、吐き出した。


「残念なことに敵を捕獲することができなかった」

「そのようですね」

「300体のオーガにゾンビ化したドラゴン。それを遠距離で操作できる存在だ」

「それは人ですか?」


 ザッシュもそこに疑問をもったか。


「そう思うだろう? 人体魔人化計画。あの噂が本当だったようだ。魔人化に必要なのは……」

「良質な魔石ですね」

「敵の目的はガトレアールの青石か」


 確かにガトレアールの魔石は良質だ。そして高魔力を保持している。普通の魔石とは格段に質が違う。

 それが採掘して取れるとなると、このガトレアールの地を手に入れようと画策するのは理解できなくもない。だが、そうなると旧領都イグールを占拠した意味が理解できない。


 あそこの鉱脈は取り尽くして、ほぼ何も採掘できない廃坑だ。


「シルファ。それが先程言っていたことなのか?」

「そうだな」

「良質な魔石をどうするのだ?」

「噂を調べさせたところ、人体に埋め込むというところまではさぐれたが、所詮噂だったので信憑性は半々だな」

「半々? ゼロではない?」


 噂がゼロでないのは、証拠というには不確かさな話がでているからだ。


「隣国との小競り合いが続く中で、異様に魔術が突出した者がいるんだ。ただ一様に全身を黒い外套に身を包んでいてな、戦った者いわく、人の様相では無かったというものがいた」


 しかしこれは戦いの中で冷静だったかと言われたら、そう見えたという話だった。

人の心が見せた幻覚ということも否めないが、それを全否定する要素もない。

 だから半々だった。


「そのような意見が沢山あったら信憑性もあるだろうが、戦いの中で一人二人から出された話だけに、保留状態だったというものだな」


 しかし、その魔人化された者が攻めてきたら対処しきれないな。

 敵の目的がガトレアールの魔石なのか。それとも他にあるのか。


 結局ここだ。


 全く敵の意図が見えない。


「駄目だな。頭が回らないな。私の帰路を邪魔したのは何のためだ? それも南の魔物でだ」


 これはただ単に肉……私への足止めと考えていいのだろうか。


「そして東の端のマルメイアに、星が降ってくるという普通ではあり得ないこと」


 これも足止めと考えていいのだろうか。

そして以前から用意周到に計画されていたと思われる今回の魔物の襲撃。


 はぁ、何度考えても、何かが足りない。


「辺境伯様。第四師団の者に後のことは頼んでおきました」

「お嬢様。取り敢えず、着替えさせましたよ」

「帰還準備整いました」


 レントは二頭の騎獣を引き連れて戻ってきて、アランとマルクとディオールは自分の騎獣を引き連れて戻ってきた。

 それでは帰ろうか。


 私は地面に魔力で陣を描く。


「あっ」

「リリア様!」

「まぁ、それが一番早いですよね」

「僕は遠慮しますぅぅぅぅ!」

「辺境伯様! 私が言った意味わかっていらっしゃらないのですか!」


 私の護衛たちが、口々にいい出したが、非常事態だ。今回は目をつぶっていれば、直ぐに済む。


「『転移!』」


 大きめに敷いた陣を発動させて、私は領都の屋敷の前に転移をしたのだった。



読んでいただきましてありがとうございます。

次回から最終戦に入ります。

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