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第46話 予想していたこと

「辺境伯様!」


 私が恥ずかしさに内心悶えていると、騎獣に乗ったディオールが声をかけてきた。そちらに視線を向けると、心做しか呆れているようにも見える。


「こちらには来られない予定でしたよね」

「ちょっと様子をみて、すぐ戻るつもりだ」


 するとディオールから大きなため息が出てきた。そして騎獣から下りて、私達がいるほうに近づいてくる。

 自動二輪ではなく、騎獣に乗ってきたのは、ただでさえ整備されていない荒野の上に周りが暗く、足元ばかりに気を取られるわけにはいかないからだろう。

 いつどこで敵の襲撃に遭うかわからないからな。あと、ライトが光っていると、敵にここにいるぞと知らしめているようなものだしな。


「我々だけでは心もとないと言う事でしょうか?」

「ランドルフにも言ったが、ちょっと気になったことがあっただけだ」

「だったら、我々に連絡をとっていただければ、こちらで対処いたします」


 言いたいことはわかっている。大将首は城に引きこもってドンと構えていろって言いたいのだろう?


「わかっている。わかっている。ただ、敵の思惑を見誤ってはいけないからな。ここに来てみたかっただけだ」

「はぁ、全然わかっておられません。そもそも辺境伯様が戦場に立つことは、こちらが攻勢に打って出るときのみです」

「いや、それだけじゃないと思うが」


 今の状態は防衛戦といいたいのだろう。だから、私は引きこもっていろと。

 まぁ、私の考えが外れたから、ここに来る意味がなかったと言えるのだが、そうでなかったら、後手後手に回っていたことだろう。


 私はちらりと明るい一角に視線を向ける。今は山の影になってその姿を目にすることはない。旧領都イグール。

 炎の壁が立ちはだかり、その中に侵入することができなくなった場所だ。


「もう少し様子を見たかったが、ディオールに見つかってしまったから帰るよ」

「このまま帰られるより、私の目が届くところに居てもらったほうが、こちらとしては安心できますので、第四師団の仮陣地に来てください」

「ほら、三日間の移動でランドルフも疲れているだろうから、戻ることにする」

「俺は問題ない」


 ランドルフ。ここは空気を読んでくれ。様子を見るつもりで来ただけなので、私はもう帰ってもいいのだ。


 私が帰ると言おうとしたときに、アランが含み笑いの声で話しかけてきた。


「お嬢様。当てが外れたという感じですか?」


 いや、予想は外れてくれていいのだよ。


「私も当てが外れて残念な気持ちですよ。てっきり横槍が入ってくると思っていたのに、本当に魔物が攻めてくるだけ、残念すぎます」


 そこは残念がらなくてもいい。しかし、アランがディオールについていくと言ったのは私の懸念を予想してのことだったのか。流石と言えばいいのか。好戦的だと言えばいいのか。


「第三波でくる竜種の話か? シルファがそこまで懸念することはなさそうだと言っていたが?」

「旦那様。違いますよ。私はドラゴンスレイヤーには興味はありません。どれだけ魔剣を振るえるかどうかしか、興味がありませんので」


 このアランのブレ無さは何年経っても変わらないな。


「竜種が問題ではないのか?」


 ランドルフが私に視線を向けて聞いてきた。

 いや私は確認したいことがあったが、ディオールに見つかってしまったからいいよと言ったはずだ。本来の目的は竜種の確認ではなかったのだよ。


「これが普通に魔物の襲来であれば、ただ迎え撃つだけでいいのだが、今回は作られた魔物の襲来だ。ここで一番痛手を負うとすれば、横槍が入るかどうかだった」

「お嬢様。残念なことにマルクに索敵魔術を使わせたところ、このあたり一帯に潜んでいるモノはいないという結果でした。とても残念です」


 全く残念がるところではないぞ、アラン。

 回復要員だと言ってマルクを連れていったと思ったら、ちゃっかり索敵をさせていたのか。抜かりがないな。


「そうか、そのマルクはどうしたのだ?」


 この場にはディオールとアランしかいない。マルクの姿が見えないのだ。


「マルクは陣地の防御結界を張るように言いつけていますので、当分の間は動けないですね」


 マルクが結界を張っているなら、早々に戦況が崩れることもないだろう。最悪、敵に押し戻されても、陣地の中に引きこもっていればいいのだからな。

 まぁ、そうなると作戦自体が失敗したことになってしまうが。


「それなら大丈夫そうだな。私は帰って休むとする」


 そう言って地面に帰還のための転移の陣を描き出すと、その上にディオールが踏み入ってきた。


何かな? ディオール。


「これ転移ですよね? 使っては駄目だと言ったはずですが?」

「言われたね」


 言われたけど、安全性は何度も検証して確認しているから、問題はない。

 だから、いい加減に陣を踏んでいる足を引っ込めて欲しい。でないと、ディオールの足が吹っ飛ぶことになる。


「だったら、なぜ使うのです!」

「しれっと来てしれっと帰るためだね」

「転移の魔術は危険だと何度も言ったはずです」

「それは説明しただろう? 適当に転移をするから地面の中とか岩の中に転移することになるのだ」


 転移の一番危険なところは、転移先が目視できないということだ。だから転移をした先に山があれば、山の土の中に転移されてしまうし、生き埋め状態になってしまうということになる。

 だから、アステリス国は術者から目視できない場所に人を立たせておいて、その人物と転移させたい人物の位置の入れ替えを行っているのだろうと思われる。これが一番失敗がない方法だろう。


「駄目なものは駄目です。第四師団の仮陣地に来てください」

「はぁ……」


 だからディオールに見つかりたくなかったのだ。


「わかった。わかった。歩いていくから、先に戻っていろ」


 私はディオールに手を振って、戻るように促す。ディオールは私の執事という立場だが、今は第四師団の師団長として動いているのだ。


「お嬢様。私の騎獣にお乗りください。手綱は私が引きますので」


 アランがそう言って自分が乗っていた騎獣を指し示した。これは私に行動する権利を与えておくと、ふらふらと何処かに行くと思われているのだろう。

 長年の付き合いだ。私の行動パターンは熟知されてしまっている。


「アランの騎獣は乗り心地が悪いから好きじゃないのだけどな」


 グチグチと文句を言いながら、二メル(メートル)ほどの大きさの鱗に覆われた馬型の騎獣にまたがる。

 アランは今までの言動をみてわかるようにかなり好戦的だ。この騎獣は混戦極まる戦場でも移動できるようにと好んで乗っているようだが、私からすれば、表皮が鱗に覆われていて、上手く操縦できないのだ。


「珍しいな馬竜か?」

「そうだな」


 ランドルフが驚いたように聞いてきた。

珍しい種であり、取引されている数は少ないものの、ある意味人気の騎獣だ。弱い魔物なら簡単に蹴散らすので、長距離馬車などは馬竜種が多い。


「ディオール。先に戻っていていいぞ。私は様子を見に来ただけだから」

「指揮はサイザール第一部隊長にまかせていますので、私は出番までは辺境伯様の側で控えています」


 これは見張っているから、いらないことをするなということだな。先程も言ったが私はよっぽどのことが起こらない限り、手は出さないつもりだからな。


 そして私達は第四師団が陣地として構えているところに向かって行く。


「シルファ。色々聞きたいのだが」

「どうした? ランドルフ」


 騎獣の上でゆらゆら揺られていると、眠気が誘われるなと思っていると、ランドルフに声をかけられた。

 何だが機嫌が悪いような感じがする。


「先ほどは転移は誰でも使えると言っていなかったか?」

「言ったな」

「執事が危険だと止めたことと矛盾してないか?」


 別に矛盾はしてない。それは空間を瞬時に移動するのだ。危険がないと言い切れない。しかし、安全に使おうと思えば誰でも使うことはできる。


「そんなもの、危険と言われては、どんなものも危険になってしまうぞ」

「旦那様。そういう聞き方をすると辺境伯様は、ご自分で結論付けた言い分をいい始めるので、駄目ですよ」

「ディオール。私は別に間違った事は言っていないぞ」


 私に並ぶようにディオールは普通の馬型の騎獣に乗っている。それも、私の言葉を遮ってきたのだ。


「魔術で火を出すときも、そうだろう? 術者がその火に焼かれないのは何故か考えてみろ」

「自分の魔力で作り出したからだろう?」

「ランドルフ。その考えでいくと、術者には治癒の魔術が効かないことになってしまう」

「……確かに……言われてみれば、何も思わずに普通に使っているな」


 だから考え方の問題なのだ。魔術を使うのに、己の身の安全を確保して術を施行しているのか。剣を振るうときに己の身を傷つけないのは何故か。


 最初に教えられるときに、己の身を傷つけないスベが含まれているからだ。


「転移の術は本当であれば、十ぐらいの魔術併用が出来なければ無理だ」

「それ、誰も使えないだろう……いや、だから十人以上の術者が必要なのか」

「そう、術が安定しない。だから代わりに陣に描くことで、魔術を発動させるのだ。そして、陣には想定外のことが起こった場合の転移地の変更も含まれている。今回のような割り込みがされ術が乱れても、人気がない平地に転移されるように設定を組んである」


 そんなことだから、私が思っていた場所とは別のところに転移されてしまったのだ。何事にも想定外は存在する。それに対して、どう処理するかが重要となる。


「え! お嬢様の術に割り込んだのですか! 怖いもの知らずですね」

「旦那様。そういうのを見かけたら、まずは術を解除して、何をしているのですかと問い詰めてください」


 ディオール。人の術に介入してキャンセリングすることができるのは、ほんの一握りの者だけだぞ。


「普通は人の術に介入しようとは思わないが、シルファが怪しい笑みを浮かべていたので、気になったのだ」


 怪しい笑みって、そんなおかしな笑い方をした記憶はないが?

 そこ! 二人して納得するように頷いている!


「ああ、それで何故転移をしてまでここに来たのだ? シルファ自身も転移を使った行動は止められるとわかっていたのだろう?そこまでして、この場に来なければならなかった理由はなんだ?」


 無駄足になってしまったからな。今更説明しても、無意味だろう?


「別にどうもなかったから、いいだろう?」

「そう思って、さっきは竜種のことに話をすり替えたのか?」

「私もお聞きしたいですね。まぁ、アランの言動から予想はできますが」


 私がしれっと話をすり替えたことが、ランドルフにバレてしまったか。それは、バレるよね。

 それにディオールが乗っかってきたから、これは話すまで、嫌味な言い方で聞かれ続けるのだろうな。


「アステリス国の軍の介入だ」


 先程もそれらしいことは言ったが、ここで懸念しておくべきは、侵入してきた者たちが横から乱入してくることだった。

あと、色々懸念材料がある。


「魔物相手と人の相手では戦い方が違う。基本的に第四師団は魔物討伐の専門だ。人相手の戦いは慣れていない」


 第四師団は新たに私が作った魔物被害に対する対応策だ。だから基本的に年齢層が比較的に若いのだ。ということは十二年前の戦いには参加していないことになる。

 人を目の前にした時に、手に持つ武器を奮えるかどうかの問題が生じるのだ。


「ここを叩かれると作戦自体が崩れる可能性があった。だから様子見できたのだよ」

「しかし、辺境伯様。なぜそれを皆がいる時に話さなかったのですか、そうすれば第一師団を半分に分けて、対応することも可能だったはずです」


 ディオールの言うことは正しい。だが、どうも腑に落ちないことがあって、私はそのことを口に出すことは出来なかった。


「今一番手薄なのが、この北側だ。あの場では口にはしなかったが、第四師団の動きを漏らした者がいる。恐らく第一師団の誰かだ」


 この現状になるまで、どの部隊も北から下りてきた魔物の存在に気づけなかったのだ。

 どの部隊とも接触しないとなると、どこからか情報が外部に漏れていたとしか考えられなかった。

 ということは領地の北部で連携を取っている第一師団から漏れたと考えるのが一番妥当だろうな。



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