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第2話 庶子であることの差別

「辺境伯様。これを先程ファンヴァルク王弟閣下のお使いの方から、お預かりいたしました」


 侍女のアイラが私に白い封筒を差し出してきた。

 ん? どこから私が王都に来ていることが漏れたのだ?

 私はエリーに王都に来いと言われて渋っていたが、執事に言われて渋々、護衛のザッシュを引き連れて王都に来たため、誰にも言っていないのだが?


「……アイラは私と会うことがなかったということにしないか?」

「辺境伯様の背後に黒騎士の方がいらっしゃるので、その言い訳は無理だと思われます」


 アイラの指摘にガクッと肩を落としながら、白い封筒を受け取る。

 そのファンヴァルク王弟殿下は黒騎士団をまとめ上げる団長の地位にいる方だ。はぁ、何故に私の背後に黒騎士がいるのだろう?


「絶対に母に挨拶に行ったのかと言われるじゃないか」

「王都にこられたのですから、言われると思われます」

「あの人、苦手なんだよ。私がこんな格好しているとグチグチ言ってくるし、ドレスを着ろとか言ってくるし」

「辺境伯は女性なので言われると思われます」

「自分はこんな田舎は嫌だと、辺境の地から去って行ったくせに」

「……あまりそのようなことを、外で……言われるのは」

「ふん! 別にこんなこと、誰でも知っていることだ」


 母は私の幼い頃、辺境の地に嫌気が差して、王都に帰ってしまったお姫様だ。王族の血を私という者に受け継がせたのだから、役目は終わったと言わんばかりにだ。


 王弟の姉。国王陛下の妹。それが私の母の立場だ。


 そう、辺境伯の妻にはなりたくなかったお姫様なのだ。


 私はグチグチと言いながらファンヴァルクの名を示す赤い封蝋を手でミシッと剥がす。普通はペーパーナイフで封を切るのだが、ここは外なのでそんなものはない。


 封筒の中に入っている紙を取り出して、二つ折りにしてある手紙を開くと『来い』とだけ書かれていた。


 あ? 何様だ?


 と言いたいのを我慢して、手紙を握りつぶし、火の魔術で燃やしつくす。


「アイラ。エリーには用事が出来たと言っておいてくれ」

「かしこまりました」


 頭を下げているアイラを見ていて、ふと思いついた。その考えにニヤリと口角が上がる。


「その前にアイラ。今日は家族との面会が可能という話だったよな」

「テオリーゼン様とでしょうか?」

「そうそう」


 テオは今年騎士団に入団したばかりで、二年ほどは集団生活を強いられ、家族との面会は年に二度しかない。その一度が今日だったはずだ。


「テオにちょっと顔をかせと、言って連れ出してきてくれないか?」

「辺境伯様。それは裏に連れて行ってボコるときのセリフです」


 いや、ボコらないから。その言い方だと、私がよく人をボコっているように思われるじゃないか。


 アイラは直ぐに連れてきますと言って、闘技場の方に向って行った。

 そして、私は振り返る。何故か未だに私の背後にいる人物に向って口を開いた。


「護衛は必要はもうないので、貴殿は職務に戻ってくれていい」

「いいえ。団長閣下の元に行かれるのでしたら、ご一緒いたします」


 何故に私が王弟殿下の元に行くことを知っている。もしかしてコイツか? 私が王都にいることをチクったヤツは?

 ……いや、私の顔を知らなかったから、それはないな。


 あ、そうか。私の背後にいたってことは、手紙の内容が見えていたということか。


「別に貴殿に付き合ってもらう必要はない」

「王都が安全かと言われれば、そうとも言えませんので」


 ……私の噂を聞いたことは無いのか? 王都にいる弟たちから、私の噂が酷いから自重するように言われているのだが?


「私は自分の身ぐらいは守れるが?」

「……いいえ、団長閣下の姪にあたる辺境伯様をお一人にするわけにはまいりません」


 ああ……王族の血が入っている自分が憎い。王都にくると、こういうのが面倒なのだ。

 私は別にあの母の子である必要はないのだが、王族を示す赤い瞳が邪魔をする。


「はぁ。好きにしろ」

「はい」


 叔父に当たるファンヴァルク閣下は王城の敷地にある離宮にお住まいだ。

 私はここから徒歩で行くつもりなのだが、ついてきたければ勝手にしろという感じだ。


 ここまで徒歩で来たのかと?

 いや、それはエリーがいるので、勿論魔道車で来ている。


 魔道車は最近の流行りものだ。馬車だと馬に客車を引いてもらわなければならないが、魔道車は魔石で動くため、騎獣の維持費が必要ないと貴族の間では流行している移動手段だ。

 とは言っても、魔石のコストと魔道車のメンテナンスにお金がかかるため、貴族の中でも乗れる者は決まってくる。一種のステータスのようなものだ。


 そのような流行りものが何故必要かといえば、弟たちと妹のためだな。

 貴族に名を連ねている家の子供は、必ず十三歳から十五歳までのエルヴィー学園の初等科に通わないといけない。よっぽどの理由がない限りはだ。

 そこから十六歳から十八歳までの中等科は家を受け継ぐ者か、文官か、軍部の幹部候補を目指す者が通うことができる。

 そして十九歳から二十一歳までは高等科となり、この国を支える者たち……いわゆる当主候補の者たちが通うことになる。


 ただ勉強しているのに、金持ちを表すステータスが必要なのかという話になるのだが、問題が私の母だ。


 母は私を産んで、役目が終わったと王都に帰ってしまったということは、私以外の兄弟の母親は違うのだ。

 そして、私はある事情で初等科にすら通ってはいない。


 本妻の子である私が学園に通わず、愛人の子である兄弟たちが学園に通っているとなると、色々言ってくる者たちがいるのだ。


 だから目に見える形で、ガトレアール辺境伯の力を見せる必要がある。魔道車を維持する力ぐらいあるのだと。喧嘩を売る前に相手をよく見ろと。


 とは言っても、色々やっかみを言ってくる者たちがいるのは変わりない。


「おねーさーまー」


 ガチャガチャと音を鳴らしながら、フルプレートアーマーがこちらに駆けてくる。魔鉄の塊に姉と言われたくないが?


 それに何故にまだフルプレートアーマーを着ているのだ!


「私は顔をかせと伝言を頼んだはずだが、何故にまだ鎧を着ているのだ」


 私は目の前にいるフルプレートアーマーに尋ねる。すると、ビクッと肩を揺らし、ガタガタと震え始めた。

 いや、私はただ疑問に思ったことを聞いただけなのだが?


「おおおおお」

「お?」

「お姉様に……今回、ぶぶ無様に負けたことを…………ぼぼぼボコられると……思いまして」


 そうか、ついさっき褒めたことはリセットされてしまったのか。テオの頭には何が詰まっているのだろうな。


 私はニコリと笑みをテオに向ける。


「ひっ!」


 一歩下がるフルプレートアーマー。なんだ? 私は軍服を着ているが、帯剣はしていないぞ。


 私はカツカツと石畳を鳴らしながら、フルプレートアーマーに近づく。そして近づくほどガタガタと震える具合が酷くなっていくフルプレートアーマー。


 目の前の金属をコツンと軽く小突く。


「がはっ!」


 身体が大きく揺れたものの、倒れることはなかった。領地から離れて訓練をサボっているかと思っていたが、意外にも続けていたようだ。


「テオ。ファンヴァルク王弟殿下のところに向かうので、着替えてきなさい」

「……はい。おねえさま」


 返事は返ってきたものの、ヨタヨタとしながら、フルプレートアーマーが闘技場の方に戻っていく。

 うーん。やっぱり騎士団にはもったいないなぁ。今からでも軍部に鞍替えしてもいいのではないのか?





 そして、軍服を着た私が、黒い隊服を着た黒騎士と、灰色の隊服を着た見習い騎士を引き連れて王都の中を歩いている。ということは、とても人々の視線を集めてしまっているということだ。


 まぁ、ここが王城の区画内でまだよかった。王城の周囲二キロメル(キロメートル)は一般人の通行が禁止されているので、この西の四区画にいるのは、騎士団に入っているものと軍部の者が殆どだ。


「テオ」

「はい。お姉様」

「何故騎士なのだ? テオほどの腕があれば、軍の幹部候補ぐらいにはなれるだろう?」


 一年前、初等科の後に中等科に進むかと聞いたときに言われたことは、騎士になるだった。理由を聞けば、かっこいいからという子供らしい答えだったが、今日私が見た光景がかっこいいかと言われると首を傾げてしまう。


「え……あ……おれは……庶子なので、幹部候補には……」


 その言葉に私は足を止めて、振り返った。


「あ? 誰かに馬鹿にされたのか?」

「ひっ!……いいえ……これは、軍部の内々で決められていることらしいので」


 はぁ。結局、貴族という者はプライドを維持させるために、弱い立場のものと区別したがるということか。 


 私はため息を吐きながら再び歩き始める。


「騎士という奴は結局、王都の護りを任された者たちだろう? 叔父上にも一度言ったが、騎士団と軍部に分ける意味がないと思うのだが?」

「いわゆる棲み分けというものですよ」


 私の斜め前からクソみたいな答えが返ってきた。


 貴族というものは血を残すことが大事だとされているためか、本妻以外に複数の奥方がいたりする。

 そして、子供たち全てが貴族位をもらえるかといえばそうではない。ということはだ、貴族位を与えられない子どもたちは自分たちで食い扶持を稼がなければならない。


 ここまではいい。だが、本妻の子と庶子が同じ扱いだと機嫌を損ねるのが貴族という生き物だ。

 だから棲み分けが必要だと。


「クソだな。だから王都に来るのは嫌なんだ」

「お姉様。言葉遣いが……」

「あら? テオはいつでも辺境に帰ってきてくれていいのよ」

「ぐはっ! 凄い衝撃が……お姉様、丁寧な言葉に威圧を込めないでください」


 昔は普通にお嬢様言葉を話していたが、そんなものは邪魔でしかなかった。私がぞんざいな言葉遣いをしているのは必要があってのことだ。いや……ほぼ地だが。


「ガトレアール辺境伯様はご兄弟方を区別されないのですね」


 そのような言葉が私の耳に聞こえてきた。

 アルディーラ公爵家で庶子として扱われてきた者からだ。


「アルディーラ黒騎士副団長! それはお姉様が素晴らしいからです!」

「テオ、別に自慢することではない」


 私からすれば、当たり前のことだ。


「羨ましい限りです」


 羨ましい。その言葉の中には、何が込められているのだろうな。

 そう言えば、昔に王城でお茶会があると母に連行されたときに、いじめられていた子がいたな。

 子どものいじめは案外エゲツナイなと思ったものだ。


「貴族という者は面倒くさいことこの上ない。まぁ、それももうすぐ解放される」

「え? どういうことですか?」

「直ぐ下の弟が、今年高等科を卒業する。そうすれば、弟に爵位を渡して、私は晴れて自由になれるのだ」


 楽しみだな。今までできなかった好きなことが存分にできるのだ。


 女が当主に立っていると色々面倒なのだ。大抵が他の貴族共から馬鹿にされる。だから、馬鹿にされない為に、ガトレアール辺境軍の軍服を着て、ぞんざいな言葉を話しているのだ。


「おおおお……おねえさま」

「ん? なんだ?」


 振り返ると、真っ青な顔色のテオがいた。青い髪に青い目に青い顔をされると、寒々しいな。


「あ……いいえ。なんでもありません」


 そう言ってはいるものの、私の耳はテオの独り言を拾ってしまった。


『兄上が殺される』と。

 何、物騒な独り言を言っているのだろうな。 





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