第93話 ロアと手紙
水魚の月5日。
オープン日は盛況だった我がファクトリーも、オープン3日目ともなると静かなもので、常連客4人を捌くと暇になる。
「チェックメイト」
「ありゃりゃ」
おかげさまで、こうして俺とアランの2人でチェスを指していても問題なく店は回る。
改めて説明すると、アランは俺のクラスメイトで、男子の中じゃ1番話している相手だ。ただ、少し食えない部分があるので100%の信頼は寄せられないでいる。
「そういえばさ、アレは進んでる?」
「アレって何さ」
「賢者の石の錬成」
「あ~……サッパリだな。俺に内緒でヴィヴィが動いている可能性はあるけどな」
ヴィヴィは俺をこの錬金術師の世界へ引っ張り込んだ張本人。女子の中じゃ1番話しているけど、プライドが高くて、偉そうで、とにかく困った奴。
「君に黙って動くことは無いでしょ」
「なんでさ」
「ヴィヴィさんにとって君は、ようやく見つけた優秀な助手だからさ。大事な錬成をする際には必ず君の手を借りる。あ、チェックね」
「だから俺は助手じゃない……って、降参だよ」
コイツ、鬼のようにチェス上手いな。それとも俺が下手なのか。
本日第10回戦目を始めようとした時だった。外階段を駆け上る音が聞こえた。ドタドタドタ、と品のない音だ。
「ルチアに100ゴルド賭けよう」
ルチアもクラスメイトだ。これまたプライド高い奴で……って、俺のクラスメイト、プライド高い奴ばかりだな。
ルチアは錬金術師の名家に生まれたものの、才能が無くてかなりぞんざいな扱いを受けてきた可哀想な奴。根は素直だと信じている。
「賭けにならないよ」
両者とも来客者はルチアだと推測する。
しかし、扉を勢いよく開き現れたのはまったく別の女子だった。
顔を真っ赤にした――ロアだ。
「どどど、どうしよう2人とも!」
ロアは鮮やかな赤髪の女子で、コイツもクラスメイト。
活発で、いつも慌ただしい。俺達とは別のグループだけど話す機会は多い。幼馴染にフォックスとベルモンドという問題児が居る。
「どうしたのロアさん」
「こ、これ! これ!」
ロアが俺達に渡したのは一通の手紙だ。
「……俺達が読んでいいのか?」
「いいと……思う」
俺は封を開け、中を読む。
『拝啓 ロア=リッカ様
あなた様に渡したい物がございますので、本日18時頃、本校舎第二倉庫裏にてお待ちしております。
よろしくお願いいたします。
~■■■■■■■■■■■■より~』
なぜか最後の部分だけ滲んでいる。
「なんでここ滲んでいるんだ? おかげで差出人がわからないじゃないか」
「それロッカーに入ってたんだけどさ、私のロッカーってね……1週間前のジュースとかも入ってて、そのぉ……それが零れてて……」
「掃除しろよ」
「至極まともなツッコミしないで!」
ロアは人差し指をツンツンと合わせる。
「これってさ……やっぱりアレだよね、そのぉ……こ、告白的な……恋的なやつだよね……?」
「かもな」
「ど、どうしよう! 私、こういうの初めてで……ほら、私って、結構男子に混じって遊ぶタイプで! 女の子らしさとかそういうの無くて! ど、どうしていいかわからなくて! そ、相談乗って! お願い!」
「なんで僕らに相談するの? ベルモンドとフォックスがいるじゃないか」
「アイツらは絶対茶化すもん!」
それは確かに。アイツらが真面目に相談に答えているシーンは思い浮かばない。
「つか疑問だったんだけど、あの2人のどっちかとは付き合ってないのか?」
「え? あるわけないじゃん! あの2人は幼馴染だよ? 兄弟みたいなものだし!」
男子2人と女子1人の幼馴染か。そういうもんなのかな。幼馴染がいないからよくわからない。
「相談されてもねぇ、こんなの行くしかなくない?」
アランの言う通り。スルーは可哀想過ぎる。
「い、行くは行くけどさ、どう返事したもんかと……」
「YESかNOだろ。簡単じゃねぇか」
「えっと……正直私、あ、あんまり付き合う気ないからさ……NOなんだけど、相手を傷つけないように断るにはどうしたらいいのかなぁ……って」
「俺はキッパリ言われたいな。『お前に興味ない。去ね』ってな」
「僕は理由を知りたいかな。ここが気に喰わないってちゃんと言われたい。じゃないと次に活かされないよね」
「なんか、2人とも極端な気がする……」
「お前の心に任せろよ。相手を気遣う気持ちがあるなら、酷く相手を傷つける言葉は出ないさ」
俺が言うと、ロアは「うん……そうだね」と覚悟を決めた顔をした。
「私、行ってくる!」
ロアはまたドタドタと階段を下っていった。
「……気になるな」
「……そうだね」
「……抜け出すか」
「……そうしよう」
俺達は店に『CLOSE』の看板を掲げ、本校舎第二倉庫裏に向かった。




