第86話 ラルーシェの告白
樹皮で床を作ったのは良かったものの。
「木材……木を切り倒すわけにもいかないよね」
樹皮の床に座り、俺達は話し合う。
「そこらの枝を集めるのは……効率が悪すぎるしな」
「流木とかを探すのはどう?」
「でかい木を見つけた所で運ぶ術がないだろ」
そもそも木材を使うことから離れた方が良さそうだ。
「……壁は石で作ったらどうだ? 近くに石も岩もいっぱいあるし」
「採用! ていうか、屋根も石で作ったらいいじゃん」
「無加工の石で天井を作るのは怖いだろ。落ちてきたら死ぬぞ」
「それを言うなら壁も危なくない?」
「壁はしっかり固定すれば大丈夫だろ。壁を合成する時に下に杭みたいな突起を作ってさ、その杭を地面に刺して固定するんだ」
「なーるほど! それアリ!」
「屋根は樹皮を合わせて作るのはどうでしょうか」
またもやラルーシェの名案。
「いいな。強度はちと心配だが、加工は簡単だし万が一崩れても被害は少ない」
「便利だね樹皮!」
「……」
またラルーシェは複雑そうな顔をしている。
「早速作業しよう! イロハは石を集めて。ラルーシェちゃんは樹皮集め! そんで私が合成役!」
「異論なし」
「ま、待ってください!」
ラルーシェが珍しく声を張り上げた。
「あの……やっぱり、言っておかないといけないことが……」
「聞くよ。ゆっくり話して」
ロアは茶化さず、小さく笑って言葉を待つ。
「……」
ラルーシェは俯き、黙ってしまう。けれど意を決したのか、顔を上げた。
「そのぉ……私、実は……」
唾を1度ゴクリと飲み込み、
「に、2週目なんです」
「2週目? どういう意味だ?」
「樹海を2週したってことじゃないの?」
「バケモンか」
「私……りゅ」
りゅ。まで言って、口を閉ざしてしまうラルーシェ。
「……ぅねん、してるんです」
風の音でかき消される程小さな声だった。ちゃんと聞き取れたかだって? 悪いが俺の耳は常人レベルだ。『りゅんしてるんです』としか聞こえなかった。なんだりゅんって。新しい略語か?
「りゅん! ってどういう意味かわかるイロハ?」
「いま女子の間で流行っている言葉だよ」
「そうなの!? 私、女子だけど知らないっ!」
「ち、違くて! あのですね。留年……してるんです。私」
今度は聞き取れた。
「留年か。じゃあ、俺達より1つ年上なんだ」
「ええぇ~!? 驚き! あ、そしたら敬語の方がいいかな?」
「い、いい! 大丈夫! 敬語使われたら皆にバレちゃうし……そういうの気にしない、ので」
何やらロアが俺の耳に唇を近づけてきた。
「……こんなおっぱい大きくて、真っ白な肌で、気弱で、年上って……めっちゃエロいね」
コイツの魂はオッサンか?
「私……去年もこんな感じで。ずっと席でぬいぐるみ作っていて……コミュニケーション上手くできなくて。こういう試験でいつも失敗して……それで……」
成績不足で留年したってわけか。
「まさか、お前が色々知っていたのって、去年の経験があったからか」
「はい。この課題、最後に他の班の拠点を見る時間があって、その時に色々と先生が解説していて……」
「成程ね。ズルいってのはそういうことか」
すでに1人だけ課題を経験済みで、その経験を利用しているから、ズルい。ってことか。
「……みんな初めてで頑張っているのに、私だけ2回目だから……」
「ズルいって、なんで?」
目を点にして、ロアは聞いた。
「自分の知識を全部使うことの何がズルいの?」
説教、ではない。純粋に理解できていない感じだ。
「え、だって……」
「他の人だって、先輩から色々と情報貰っていたりするでしょ。去年の経験を使うことは全然ズルくないよ。むしろ、知識を出し惜しみして、能力を渋る方が……私はズルいと思う」
「……!」
ロアにしては珍しく真面目な意見だ。
「俺も同感だな。もしかしたら先生はお前が2週目だってことを考慮して採点するかもしれないんだぞ。なのに1週目の経験を出し惜しみしたら、ただただ割を食うだけだぜ。遠慮はいらないだろ」
「……お二人は、立派ですね。私より、1つ下なのに……全然……」
ラルーシェは涙を浮かべながらも、微笑んだ。そして、パチン! と自分の頬を自分で叩いた。
俺もロアも、ラルーシェの行動に唖然としてしまった。
「作業止めてしまいすみませんでした! 全力で、が、頑張ります!」
俺とロアは顔を合わせて笑う。
「よっしゃあ! クラスで1番の成績を取るよ二人共!」
「ああ」
「はい!」
俺達はそれぞれ作業に入る。
合成はロアが、指揮はラルーシェがやり、俺は肉体労働がメイン。
11時頃。家が完成。
樹皮の床と屋根、壁は石壁。雨風は防げるし、悪くない家だろう。
次に風呂だな。
「風呂はどうする? もう時間もあんまりないし、そう凝ったのは作れないぞ」
「お風呂は石で作るつもり。水はもちろん川から引くとして、問題はどうやって温かい水を用意するか」
風呂に水を張って、その水を何らかの方法で温めるか。もしくは風呂とは別にボイラー……つまり熱い水を生成する設備を用意し、そこからお湯を風呂に供給するか。パターンとしてはこの2つのどちらかだ。
「ほい!」
ロアが合成陣を起動させる。ロアはあっさりと長方形の石風呂を完成させた。
石風呂には石のパイプが2つ付いている。
「下のパイプは排出用で、上は供給用ね。下のパイプについているレバーを倒すと、パイプが開いて湯船の水を排出できる。上のパイプも同じでレバーを倒すと開いて、ここから中に水を入れられる」
「あっさりと凄いの作るなぁ……」
「では石風呂の中心にこれを」
青く、両手でないと持てないぐらい大きい石をラルーシェは持ってきた。ラルーシェは湯船の中央に青い石を置く。
「それはなんだ?」
「水熱石です。水をかけると熱くなるんです。ちょっと待っていてください」
ラルーシェは川から手で水をすくってきて、水熱石にかける。水を浴びると、水熱石は赤く発光した。
「うお」
石風呂の外に居る俺達にまで熱気が届く。
「いいけど、これ触ったら火傷とか……」
「しますよ。なので、石で囲いを作って」
「その囲いに穴を開けて、水を通すようにするんだね」
「そ、そうです! 検証の必要はありますが、温度もちょうど良い感じになるかと」
これならボイラー要らずだな。
「後は川から水を吸い上げるポンプが必要ですね……」
「ロア、作れるか?」
「無理。ポンプの仕組みわからない」
こればかりはどうしようもないな。ラルーシェも案が出ないようだし。
「バケツで川から掬ってくるしかないな。川から水を吸い上げられる仕組みを作れれば100点だっただろうが、仕方ない。時間も無いし、これ以上は無理だ」
「賛成! お風呂より簡単に品質を上げられる料理に力入れた方がいいもんね」
「ロアは囲いとバケツを作ってくれ。ラルーシェ、俺達で料理をなんとかしよう」
「は、はい!」
ラルーシェにはまだ躊躇いがあるものの、どこか楽しそうにも見える。
時間はもう1時間を切っている。間に合うといいが……。




