第84話 サバイバル開始!
後日。水魚の月4日。
宣言通り、今日は丸々サバイバル演習だ。
まず樹海に向かう前にジョシュア先生が教室で演習内容を説明した。
「つーわけで、3人1組でサバイバルしてもらう。1人登校してないから、一班だけ2人になる。その班は甘めに採点するから心配するな。そんじゃ、班分けだが、すでに能力面を考慮して考えてある。この表を見ろ」
ジョシュア先生が手に持った杖を振ると、黒板に一瞬で文字列が出現した。
全十班の構成メンバーが書かれている。
「俺の班は……」
ラルーシェとロアか。
ロアは赤毛の活発娘で、ベルモンド&フォックスという男子2人といつもつるんでいる。ちゃんと絡んだことは無いが、ロアは錬金術の腕が上位の方だったはず。
ラルーシェは……謎だ。肌白くて、髪は肌より白いショートヘア。目は明るい黄色。だけど右眼は白い眼帯で隠している。眼帯はジョシュア先生がつけている海賊のようなものではなく、医療用のシンプルな眼帯。
いつも自分の席でぬいぐるみを縫っている。誰とも話さず、ひたすらぬいぐるみに針を通している。席の横を通ると、いつもビクッとして視線が左右に揺れ動く。だからみんな自然と彼女の席の近くを通らなくなった。
人となりも、何も知らない。きっちり話す良い機会かもな。
「ほれ、早速班で集まれ」
俺とロア、ラルーシェは教室の後ろにあるスペースに集まる。
「女の子2人と一緒だからって、変な事考えちゃダメだよ! イロハ!」
「お前の方こそ、隙を見てラルーシェに手を出そうとか考えてないだろうな」
「ぎくっ!? なんでわかったの!? エスパー!?」
「……」
「とりあえずラルーシェちゃんに日焼け止め塗る役は私がやるね」
「そんな役はねぇよ」
「……」
「い、イロハ! 好きな食べ物とかある?」
「特には無いけど、飲み物だったらコーヒーが好きだ。もちろんブラックな」
「かっこつけちゃってぇ。ホントはミルク入れたいんでしょ? このこのぉ! ラルーシェちゃんはブラックで飲める?」
「……」
ラルーシェはぬいぐるみを抱きしめ、俯いてしまっている。
ロアはなんとかラルーシェを会話に引き込みたいみたいだけど、うまくいかない。
「今日はいい天気だね~。イロハ、好きな天気は?」
「話題尽きたか」
ロアは俺の胸に肩を寄せる。
「……い、イロハ……なんとかしてよぉ……私、ラルーシェちゃんと喋りたいよぉ……」
コイツ、男子2人とずっと居るせいか、距離感近いな。
「無理に会話を引き出すこともないだろ」
俺はラルーシェが抱えているぬいぐるみを観察する。
「そのぬいぐるみ。お前のオリジナルか?」
「……! は、はい」
ようやく声が聞けたな。
「名前はあるのか?」
ラルーシェはぬいぐるみの頬を引っ張る。
「ムーマーって言います……」
「へぇ。かわいいな。特に目のボタンのセンスが良いよ。生地の色合いに合ってる」
「あ、ありがとうございます……!」
声は小さいけど、少し会話が成立した。
「改めてだけど、イロハ=シロガネだ。よろしく」
俺は右手を差し出す。
「ら、ラルーシェ=ウェントゥスです……よろしく」
ラルーシェは俺の右手にそっと触れる。気温は高いのに、冷たくて細い手だ。
ロアは「うんうん」と頭を上下に動かした。
「イロハは1流のナンパ師になれるよ」
今のやり取りで俺が得る評価はそれか。
「持ち物は服以外全部教室に置いていってもらう。ストレージポーチも全部な。塩と水とマナスティックだけはこちらから支給する。あと班に1つ腕時計もプレゼントだ。それ以外は全部現地調達」
「うぅ……」
ラルーシェが呻いた。
ラルーシェはぬいぐるみを見つめ、涙を浮かべる。ぬいぐるみと離れるのがツラいのだろうか。
「課題は3つ。風呂、家、飯。時間は12時半まで。それから査定とか色々して、15時には教室にて解散する。以上、質問あるか?」
ルチアが手を挙げる。
「なんだルチア」
「それぞれの課題の評価点を知りたいです。どんなお風呂、家、ご飯の評価が高いのか教えてください」
「風呂は『楽さ』だな。どれだけ簡単にお湯を張れるかを見る。家については、屋根は必須だな。後は大きさと頑丈さか。飯は単純、美味さだな」
「なるほど……わかりました。ありがとうございます」
ルチア以外に質問者は無し。
「よし。他にはいないな。そんじゃ班のリーダーは塩と水とスティックを取りに来い」
俺はロアの方を向く。
「イロハがリーダーやる?」
「いいや、ガラじゃないな。ラルーシェは」
ラルーシェは高速で首を横に振る。
「ロア、頼む」
「りょーかい」
ロアが水と塩とマナスティックを取りに行く。
「全員準備できたな? 移動するぞ」




