第82話 店を開こう③
「僕はこれ。狩りで収穫した獣肉や山菜。あと樹海で採取した天然水と僕オリジナルの調味料」
「ジブンはいまお庭で栽培しているピーマン、ナス、イモ、サンチュです。BBQとかにぴったりかと」
「俺は前に言ってた通り、絵画だ」
「私は錬金術に使えるアイテムを揃えたわ。魔素水、インゴット、クロース! どれも一級品よ」
「私は得意分野であるポーションをメインに、薬品系を揃えた。風邪薬や傷薬等だ」
空っぽの店の中、俺達は商品を持ち寄った。
満遍なく物品は揃っており、何でも屋に相応しいラインナップができるだろう。
「イロハ君の絵画は外壁に飾ろう。見栄えが良くなる」
「アンタのガチの絵、初めて見たけど……ど、どこで美術を学んだの? 目の肥えた私から見ても、綺麗な絵だわ……」
「ありがとさん」
「いや、ホント凄いよイロハ君。この風景画とか僕が欲しいぐらいだ」
「美術家で錬金術師……か、カッコいいです!」
「美術家は卒業したけどな」
ま、それでも絵を褒められるのは悪い気はしない。
「そういや、肝心のオーロラフルーツはどうなったんだ? ウチの目玉商品だろ」
「言われると思って今日、実を持ってきたよ」
ヴィヴィはストレージポーチからフルーツを出す。
形はビワが近いか。楕円の形だ。赤・緑・青・ピンクの4層の色合い。表面にはツヤがあり、美味そうだ。
「実食しよう」
「僕が切り分けるよ」
アランがナイフでオーロラフルーツを切り分ける。果肉はシンプルな白色だ。
ヴィヴィが端材で木皿を合成し、俺が木皿にフルーツを分けて皆に配る。
「いただきます」
と全員で手を合わせ、手づかみで食べる。
「んっ!?」
口の中で果汁が弾ける。イチゴのような酸味とハチミツのような甘味が溢れる。3回ほど咀嚼すると更に味が変わり、喉から腹まで染み渡る芳醇な旨味が溶けだした。最後に喉越しだ。透き通っていて、それでいてエネルギッシュな感触。全身にエネルギーが漲る。
「口がとろけそうです……つよつよですぅ……」
「体の渇きを一気に潤してくれるね」
「……認めるのは癪だけど、これに勝るフルーツは無いわね……」
「素晴らしいフルーツなのだが、生産数があまり無くてね。量産ラインを確保するまで1か月はかかりそうなんだ。そのまま出すとすぐに品切れになってしまう」
「それなら果汁10%ぐらいでジュースにしたらどうかな? これだけ芳醇な味わいなら、薄く感じないはずだよ」
アランが提案する。
いま食べた物より味気は薄くなるだろうけど、それでも他のフルーツジュースよりは断然美味いだろう。
「わかった。オーロラフルーツの管理はこっちでやるけど、調理はアラン君に任せるよ」
「お任せあれ」
「では店の内装作りにかかろうか。私とルチア君で棚や買い物カゴ、カウンターの製作。他3人で備品の設置・取り付けをお願いするよ。最後に商品を飾れば……完成だ」
「ようやく終わりが見えてきましたね……」
まったくだ。さすがに疲れた。
「始めよう」
ヴィヴィが手を叩き、作業が始まる。
「ヴィヴィ。冷風炉と暖風炉を先に作るわよ。こう暑くっちゃ作業にならないわ」
「それもそうだね。ただし作るのではなく買おうか。さすがにアレは構造が複雑だからね。今から錬成するのは骨が折れる」
冷風炉というのは冷たい風が出る壺のことだ。マナで起動する。暖風炉はそれの温かい風が出るバージョン。最近、俺も冷風炉を家に取り入れた。快適だ。
ヴィヴィとルチアが作った棚を釘で固定していく。この辺は外の世界と変わらないな。
壁に取り付けた棚には雑貨を置き、中央に設置した冷蔵木箱(内側が冷たい木箱・錬成物)には食品や飲料を入れる。
カウンターにはオーロラフルーツ関連の商品を置ける場所を設けた。
加えて値札の設置。値札の製作は俺がパパっと手書きで済ませた。
それと俺の絵画は店内にも飾ることにした。雰囲気づくりのためだ。壁に貼り付ける。
日が落ち始めた頃、俺は外に行き、残った絵画を店の外壁に貼る作業を開始した。すると、
「ふん。これはお前が描いた絵か」
嫌な奴が来た。
一応、このオーロラファクトリーの顧問……コノハ=シロガネだ。
「手伝いに来たんですか? コノハ先生」
「そんなはずがないだろう。無駄な質問をするな」
コノハ先生は俺の絵をひとしきり眺めると、苦虫を噛み潰したような表情をした。
「くだらん」
まぁ、褒められるとは思わなかったけど、こんな露骨に嫌な顔をされるとはな。
「風景画はミレーを、人物画はブグローを手本……否、真似ているのか。モネやゴッホも真似ているようだが印象派の真似は酷いものだな。構図はフェルメールか。ふん、まるでキメラだな」
「なんだと……」
「過去の美術家の技術を模倣し、寄せ集め、構成しているに過ぎん。お前自身のオリジナルが何一つ無いんだよ。絵画を見慣れていない者なら騙せるが、目の肥えた人間は欺けない」
それだけ言って、コノハ先生は階段に足を掛ける。
「……何一つ、己から零れ落ちたモノがない。お前にピッタリな絵だな」
コノハは階段を下っていく。
なんだアイツ、嫌味だけ言いに来たのかよ。
「……くそ」
壁に掛けた絵画に手を掛け、見つめる。
「……オリジナリティが無いだと? んなこと、俺が1番良くわかっている……だーっ! くそ! アイツの言葉はなんでこんなに癇に障るんだ!」
気を取り直し絵画を設置していると、また階段から足音がした。
「なんだよ。またアンタ――」
振り返ったら、思いもよらない人物が立っていた。
クラスメイトのシオン=クロードだ。黒髪の女子で、なんとなく俺に対して敵意が見えるやつ。
「その絵……」
シオンはなぜか、頬を赤らめている。
「売りに出すのはいつですか?」
「え? あ~……来週中にはオープンできるだろうけど、正確な日時はまだ決まってないな」
「そうですか。予約とかはできますか?」
「できる……と思うけど、なんだ。気に入った絵でもあるのか? 値段はそれなりだぞ」
「選ばせてください」
シオンは前のめりに絵画を見だした。玩具コーナーにいる子供のように、生き生きとしている。
「……なぜです?」
「ん?」
「なぜ、これだけの絵が描けるのに、美術を辞めてしまったのですか」
あれ? これ俺が描いたって言ったっけ?
別に俺が元美術家だってことは隠してないし、誰かから聞いていても不思議ではないけども。
「……悔しく無かったからかな」
正直に俺は答える。
「あるコンクールで、俺は負けたんだけどさ。悔しく無かったんだよ。渾身の出来だった。自信はあった。賭けていた。なのに、負けた時悔しく無くて、むしろサッパリしちゃったんだ。美術家のプライド? ってやつが俺には無かったんだ」
「……そうですか」
どこか、シオンの背中は寂しげに見えた。
「好きではあるんですか? 美術」
「少なくとも見るのは好きだよ。お前もさ、相当美術が好きみたいだな」
「……私が好きなのは……」
シオンは言葉を詰まらせる。
俺は改めて、シオンを観察する。
シオンは黒髪で、髪は短く、等身大の女子学生。
なぜだろう。彼女を見ていると……少し、懐かしい気持ちになる。
「これにします」
シオンが選んだのは、1番多くの色が使われた絵画だった。偶然にも、この中で1番自信があった作品だ。
「理由を聞いてもいいか?」
「色が、1番上手く使われています」
「そっか……持って行っていいぞ」
「え? いいんですか?」
「ああ。特別サービスだ」
シオンに絵画を渡す。シオンはペコリとお辞儀して、階段に足を掛ける。
「ありがとうございます。大事にします」
シオンは最後に、俺の顔を見て、小さく笑った。
「おやすみなさい――先輩」
先輩? 俺とお前は同級生だろうに。
「イ~ロ~ハ~く~ん」
悪魔の声が聞こえた。
俺の後ろには、笑顔(怒り)のヴィヴィが、今にも長文で責め立ててきそうな面をしていた。
「女性に贈り物をするのは勝手だが、物は選びたまえよ。君が作った物だとしても、この絵画はすでに店の所有物であり、売り物だ。それを君の性欲のために利用するとは何事かな? 副団長がその有様では」
「わかったわかった。悪かったよ。今後はしない」
強引に話を打ち切ると、ヴィヴィは不機嫌そうに目を細くさせた。
「……いいね。彼女は」
「なにが?」
「君の『色』がわかってさ」
ヴィヴィは踵を返し、店内へ戻った。
「たまに言い回しがややこしいんだよな。アイツ」
俺もヴィヴィの後に続いて店内へ入る。
それからまた作業に戻って、時刻20時。
「かんせーい!」
フラムは両手を上げて腰を下ろす。
「ぬはぁ! つ、疲れたぁ……汗びしょびしょ」
「そうか。この酸っぱい蒸れた匂いは君だったかルチア君」
「ち、違うわよ! 男連中でしょ!」
「生憎、俺の汗は清涼感溢れるクールな匂いだ」
「僕のは無臭」
「適当抜かしてんじゃないわよ!」
俺はヴィヴィの肩を指でつつく。
「団長殿。わたくしはショップの完成祝いに食事会を開くことを提案いたします」
じゅるり。と涎を垂らすルチアとフラム。
「いいだろう。近くに串焼きの店があったはずだ。そこへ行こう」
「やったー! 串焼きつよつよです!」
「そんな下賤な店、本来ならお断りだけど……付き合ってあげるわ」
「僕は肉が食えるならなんだっていいよ」
その日の夜は食事をして解散となった。
次の日、月曜日の放課後はオープンを知らせるビラ配りと最後の調整。そして、来たる火曜日。水魚の月3日。
――オープン初日。
俺達5人は店の中で、客を待っていた。
「『いらっしゃいませ。オーロラファクトリーへようこそ』、だからな」
俺が挨拶の確認をする。
「わかっている。やれやれ……緊張するものだね。労働というのは」
「もっと緊張すること散々やってきただろうに」
「うるさい。『他人に尽くす』というのは初めての経験だ」
「やや、やれやれ……この程度のことでき、緊張するなんて、底が知れるわねヴィヴィ」
「お前もいい加減震えを止めろルチア……」
「ねぇイロハ君。やっぱり、両腕が義手の僕は接客しない方がいいと思うんだけど……」
「そのことについてはもう結論出しただろ。お前の義手が嫌で出る客ならこっちから願い下げだ」
「いいい、イロハさん……緊張を、緊張を薄める薬をください……!」
「ないよそんなの」
「ではジブンが錬成します!」
「やめろ。緊張ごと爆散するぞ」
まったく、俺だって緊張しているってのに、世話のかかるメンバーだよ……。
「ん? 階段の音だ! 来るぞ!」
扉が開き、ドア・ベルが鳴る。入ってきたのはスーツを着た老紳士だ。
俺達は声を合わせる。
「「「いらっしゃいませ。オーロラファクトリーへようこそ!」」」
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