第81話 店を開こう②
ハウスファクトリーで土地の契約をし、ショップで錬金窯を購入した後、9番通りに足を運ぶ。
男2人で錬金窯を運び、女子3人が先行する。
他の通りに比べてレトロチックな通りだ。
9番通りに入って10分歩いた所にオーロラファクトリーの敷地はあった。
なにもない。空っぽだ。井戸だけある。
「まずは大樹の設置だね」
ヴィヴィは敷地のど真ん中にスコップで穴を空け、そこに謎の種を埋めてオレンジの液体をぶっかけた。ヴィヴィは駆け足で敷地の外に出て、その場に伏せた。
「なにやってんだお前」
「君達も伏せた方がいいよ。危ないよ?」
ヴィヴィの忠告のすぐ後、異常が起きた。
ヴィヴィが種を埋めた位置から芽が出て、どんどん成長していく。
「うお!?」
伸びた枝が、頬を掠めた。俺は慌てて伏せる。
あっという間に、敷地の8割を埋め尽くす大木が出来上がった。
「計算通りの大きさだ」
「こういうの使うなら先に言いなさいよ!」
そう。そうだよな。まずはそれだよなルチア。
「すまない。皆が驚く顔が見たくてね」
そういうことなら許――しはしないぞ。
「それで、これはなんだ?」
「神速大樹さ。その名の通り、すぐに成長する」
「大きすぎないか?」
「ここから切って削って調整するに決まっているだろう」
これをか……マジで?
一軒家2つ分の大きさはあるぞ……。
「次に錬金窯の設置だね」
俺達はヴィヴィの指示に従い、大木の外、敷地の端に錬金窯を置く。
「とりあえずはここでいい。龍脈と窯をコネクトさせるよ」
錬金窯の底には丸い穴がある。ヴィヴィはその穴に水晶を嵌め、窯の外に出る。それからヴィヴィとルチアで俺には理解のできない作業をした後、ヴィヴィが窯のマナドラフトに手を合わせた。窯の底の水晶からメタルポーションが湧き上がり、窯の中をメタルポーションが満たす。
「さて、錬成の準備はできた。ここからはひたすら肉体労働だ。木を削り、中を空洞にして、そこにアトリエと倉庫を構築。さらに大木を剪定し、急速成長薬で調整……という作業をひたすら繰り返して理想の形にする。土台ができたら今度は店の合成だ」
自分で提案しておいてなんだけど、作業量半端ないな。
「今月中に完成はちょっと無理じゃないかな? 週明けぐらいが目標でどう? ヴィヴィさん」
「放課後の時間だけでは無理か」
「ジブン達だけではこの量は……」
「泣き言を言っている暇があるなら動きましょ」
ルチアは紐で髪を括る。
「私とヴィヴィで作業を効率化させる道具を作っていくわ。男共とフラムはこっちの指示に従ってテキパキ動きなさい!」
意外にもルチアに発破をかけられ、俺達は動き出した。
それから俺達は放課後毎日集まり、ツリーハウスの作成に励んだ。
馬車馬のように作業し、泥のように眠る日々。
体中に湿布を張り、休み時間は全て眠り、全身に砂埃をつけて帰る。
それでも、同じ目標に向かって誰かと一緒に作業するというのは、初めての経験で、楽しかった。
花蝶の月60日。土曜の今日は朝から作業開始だ。
大木の形の矯正は終了した。次に取り掛かったのは大木のくりぬき作業。アトリエと倉庫スペースの確保だ。
「現実問題、大木の中を空洞にして木はもつのか?」
「この大樹は普通の大樹に比べて生命力が強いからね。中をくり抜いたとて根を張っていれば生き続けるよ。私とルチア君が調合した防腐剤と防虫剤をまず撒いて、30分経ったら補強の木々を設置する。その後で中をくり抜けば安全だ……多分」
「多分じゃ困るぞ。大木が崩れて下敷きなんてごめんだからな」
「私の計算に間違いはない……多分」
俺とアランで防腐剤を大木全体に撒き、ヴィヴィ・フラム・ルチアで補強材を設置する。補強材は地に根を張り伸びる木で、伸びた木が支柱となって大木を支える形だ。
大木のくりぬき作業はヴィヴィの指示の下、かなり慎重に行われた。ヴィヴィとルチアが錬成したドリルでアランが木々をくり抜く。弾き出された大量の木屑を他のメンバーで処理していく。木屑の数は半端じゃなく、集めてはフラムが錬成した焼却炉に突っ込んでいく。
太陽が照り輝く中6時間作業し、昼過ぎ。俺達は1度休憩を取る。
「あんだけやってまだこんなもんか」
「大樹の改造がここまで大掛かりになるとはね」
大樹の前でブルーシートを広げ、そこで食事を摂る。弁当の製作者はルチアとアランだ。
ルチアの作ったハムサンドは意外にも美味しい。手間暇かかった味だ。
「ルチアさん、これ美味しいです!」
「当然でしょ。淑女ならこれぐらいの料理は作れないとね」
その言葉は女子2人の心に傷を付けたのだった。
「はぁ……はぁ……」
ヴィヴィは息を切らしながらサンドウィッチを口に運ぶ。
一般男性の体力を持つ俺でもかなりの疲労を感じるんだ。一般的な女子の体力も持っていないヴィヴィじゃ、肉体労働をしていないとしてもこの作業量はきついだろうな。
「今日はここまでにするか?」
「馬鹿を言え。そんな休み休みじゃいつになっても完成しない」
ヴィヴィはいつもの如く意地を張る。
「情けないわねヴィヴィ=ロス=グランデ。この程度でグロッキーなんて」
「なんだと……!」
「ルチアの安い挑発に乗るなんて、相当疲れているな。一旦、お前は日陰で休んでいろ」
「しかし……リーダーの私が……!」
「ヴィヴィさん!」
フラムが膝歩きでヴィヴィに近寄り、その純真な瞳でヴィヴィを見上げる。
「ヴィヴィさんの分もジブンが頑張りますので……休んでいてくださいっ!」
「で、でもね……」
「休んでください!!」
フラムの真っすぐな言葉に、真っすぐな瞳に、ヴィヴィも観念する。
「わかったよ……」
休憩を終えて、またくり抜き作業に入る。
アランが疲れたら俺がドリル役をやり、アランがドリル役の時はひたすら一輪車で木屑を運ぶ。
ルチアがヴィヴィの代わりにドリルで掘る箇所を指示してくれている。やっぱり、いざという時にヴィヴィの代役を出来るのは助かるな。
フラムは大樹の断面をやすりやノコギリで綺麗に整えてくれている。
時間は過ぎていき、15時を越えてきた頃、俺とフラムは同時に腹を鳴らした。
「うっ……まだ日も落ちてないのに……」
「運動量が多いからな。腹の減りも早い」
ルチアの腹も釣られて鳴る。
軽食を買ってこようか、と思った時、
「へぇ、これがお前らのファクトリーか」
「ツリーハウス……俺の故郷を思い出すな」
現れたのは狼の耳を持つ女子スプーシーと鳥人間ブルースだ。2人は巨大なイノシシを持っている。
「それはなんだ?」
「差し入れだ」
とスプーシーが言うと、ブルースが背中に背負った大鍋を見せる。
「私が仕留めたイノシシ肉だ」
「これで俺の故郷に伝わる香草焼きを作ってやる」
おお! と歓声が上がる。
「あ、ようやく見つけました!」
と今度は全身防護服の採掘屋・トトが現れた。
「トト? お前までどうした」
「錬成物を作って頂いたお礼に、ファクトリーハウス作りを手伝おうかと」
トトはノコギリやドリルなど、道具の数々をリュックサックから出す。
俺達が使っている道具より高性能っぽい。
「ファクトリーから借りてきました」
「おお……助かる」
道具がアップグレードするのは大きい。
「私達も料理を振舞った後手伝うよ。今日は暇だからな」
「見た所、人手が足りてないようだしな」
「ブルース、スプーシー……お前らがいれば百人力だ」
食事をした後、3人を交えて作業を再開。
3人が来てくれたおかげで作業効率は倍に上昇した。さらに、
「わぁ! なんか青春してる! 私達も混ぜて~!」
と、ロアまでやってきた。後ろにはベルモンドとフォックスもいる。
「お前達まで……」
「美少女いる所このベルモンド在り」
「へぇ。結構形になってるじゃん。あとひと息って感じだな」
助っ人はロア達3人では終わらず。
「イロハイロハ! 助っ人に来たよ!」
「ふわーあ。ツーちゃんは1kg以上の物は持てないのでよろしく~」
「……」
イチ、ツヴァイ、トロワ。ちっこい3人の女子だ。
「ダイスリー三姉妹……!」
「す、凄いですねイロハさん! ルチアさん以外、みんなヴィヴィさんに票を入れた人達ですよ!」
「そうだな」
「私も復帰するよ」
ブルーシートで休んでいたヴィヴィだったが、人が集まるのを見て腰を上げた。
「大丈夫なのか?」
「ああ。この展開で、私だけが休んでいるわけにもいかないだろ」
ヴィヴィは全員の前に立つ。
「みんな。あと少しだ。力を貸してくれ」
おお! と声が揃う。
俺達は作業を開始する。人数が増えた分、作業の速度が半端じゃなく上がる。
手が増えたのもそうだけど、知識幅が増えたことも大きい。作業を効率化させるアイディアがあっちこっちから湧いてくる。
「おーい。やってるかぁ? アイス買ってきたぞ」
作業中、ジョシュア先生が差し入れのアイスを持ってきてくれた。俺達は休憩してアイスを食べる。ジョシュア先生はアイスを配った後、アドバイスを幾つかくれた。残念ながらジョシュア先生は仕事があるらしく、すぐに帰ってしまった。
作業再開。
手を貸し合い、協力して作業する。14人で作業する。全員で砂まみれ、木屑まみれになる。
口には酸っぱい汗の味と、苦い土の味が広がる。だけど脳は呆れるほどに充実していた。さっきロアも言っていたが、これが青春ってやつなんだろうか。
時に談笑し、時に泣き言を言い合い、時に共に頭を悩まし、手を動かし続ける。
長いようで短いような時間が過ぎていく。こんなきつい作業早く終わってほしいけど、どこか終わってほしくない感情もある。
作業開始から半日が過ぎ、夕方。
「完成だ……」
俺達の店は完成した。
「オーロラファクトリー、1号店ね!」
「ああ。ここまで手間を掛けた甲斐があったな。――感動しているよ」
大木の中のアトリエ、倉庫。そして大木の枝に支えられる形で存在する店舗。木材で構築された外階段。
感無量……とはこのことを言うんだよな。凄まじい達成感だ。
「ヴィヴィちゃん! 店が完成したら真っ先に買いに来るからね!」
「砥石を並べておけ。そうすれば私も利用してやる」
「あ! 採掘道具も置いてくださいね~」
解散となり、全員が帰路につく。内装は明日以降に回す。
みんな店に背中を向けて帰っているのに、ヴィヴィだけはツリーハウスを見上げたまま、動かなかった。
瞳に、焼き付けていた。その姿は、初めてドレスを見た少女のようだった。
声を掛けることはしなかった。野暮だと感じた。俺は夜の闇が深くなる前に帰った。
アイツの視界に、色は無いのかもしれない。
だけどアイツの記憶の中では、あのツリーハウスは……虹色に輝いていたことだろう。そうであって欲しいと、俺は切に願う。




