第79話 彼女の選択
「それでは投票を始める。各々、投票用紙に候補者の名前を書き、この箱に投函しろ。制限時間は20分だ。投函の時以外に席を立つことは禁ずる。発言も禁止。トイレに行きたい奴は先に手を挙げろ」
ジョシュア先生の指示を受け、生徒たちは配られた投票用紙に名前を書いていく。
順当にいけばヴィヴィ15票、ルチア13票、無効票2。という結果になる。
しかし勝負は最後までわからない。ルチアが裏で手を回し、ヴィヴィの票を掠め取っているかもしれない。ブルース、スプーシー、トトは間違いなくこっちに入れるだろうが、序盤に約束を取り付けた連中に対しての強制力は甘い。裏切られる可能性は大いにある。
候補者2人の様子を見る。
ヴィヴィは――いつも通りだな。緊張している素振りは見えない。
ルチアは――機嫌が悪そうだ。仏頂面で頬杖をついている。
俺は当然、投票用紙にヴィヴィの名前を書き提出する。
投票時間20分が終わる。ジョシュア先生は手を叩き、注目を集める。
「よし、全員出したな。票を数えさせてもらう」
ジョシュア先生が投票箱を開き、中の投票用紙を見ていく。
黒板に書かれたヴィヴィとルチアの名の横に、○がどんどん書き足されていく。あの○の数が互いの票数を示す。
途中まで互角だった○の数も、終盤には差がつき始め、そして……、
「白紙の票が1票、未投函の票が1票。無効票の合計は2票。クジ引きの出番は無し……そんで、候補者の票数は……ヴィヴィ16票、ルチア12票。というわけで、ジャッククラスのクラスリーダーはヴィヴィに任せることにする」
パチパチパチ、と拍手が教室中に木霊する。
ルチア派の人間もヴィヴィに惜しみない拍手を送っている。きっと、本音の部分ではヴィヴィでもルチアでも、どちらでも良かった奴らなんだろうな。
ルチアは……意外にも悔しがっている様子じゃない。両目を閉じ、静かに座っている。真正面から現実を受け止めている感じだ。
「うっ……ぐふぅ……!」
と思ったら泣き出した。周囲の人間が背中を叩いてる。真正面から受け止めた上で耐え切れなかったようだ。
朝礼が終わり、僅かな隙間時間が生まれる。ヴィヴィが立ち上がり、ルチアの席のもとへ行った。2人の会話が気になった俺もヴィヴィの背中越しに会話を聞くことにした。
「私の勝ちだね。ルチア君」
「言われなくてもわかってるわよ!」
ずびー、っと鼻をかむルチア。
「約束通り、君にはオーロラファクトリーに……入ってもらおうと思っていたけど、強制はしない」
「なんですって?」
「金は手に入ったし、無理に勧誘する必要は無くなった。だから、君の自由意思に任せるよ。1番通り、噴水広場の前で今日の17時まで待つ。入る気があるなら来てくれ。無ければ来なくていい。以上だ」
最低限のことだけ伝え、ヴィヴィは席に戻る。
「ルチア。俺は……」
「イロハ=シロガネ! これだけは言っておくわよ!」
ルチアは俺を睨みつけ、
「私は……アンタが嫌いだ!」
相変わらずハッキリ言う奴だな。そんじゃ、俺もハッキリ言っておこう。
「そうか。俺はお前みたいに人間臭いやつ、大好きだけどな」
「んなっ!?」
「噴水広場で待ってるよ」
俺は手を軽く振りながら席に戻った。
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放課後になって、噴水広場の前にあるベンチに仲良く座る俺達オーロラファクトリー。
「来ると思うかい?」
アランが切り出す。
「ジブンは来ると信じています!」
「来るさ」
「来ないだろう。私なら、自分を下した人間の下につきたいとは思わない」
別にファクトリーに入る=お前の部下になるってことじゃないけどな。
来るか来ないか、正直の所半々……アイツがもし、前のままなら100%来ない。でも、今のアイツなら、
「ほんと、揃いも揃って華の無い連中ね」
そんな減らず口を叩きながら、ルチアは現れた。
「ルチアさん!」
フラムは喜びのあまり立ち上がる。そんなフラムに対し、ルチアは照れて目を逸らした。
「仕方ないわね。このルチア=イシスフェルが、アンタらのファクトリーの華になってあげるわ!」
ヴィヴィとフラムは頬を緩ませる。
「勘違いしないでよ。私は仲間になったわけじゃない。ただ、借りを返すまではアンタらのファクトリーに居てあげるってだけ」
ヴィヴィが立ち上がり、右手を出す。
「よろしくね。ルチア君」
「くっ……!」
ヴィヴィの手をとることに戸惑いを見せるが、ルチアは頬を掻きながらもヴィヴィの手を握った。
こうして、俺達オーロラファクトリーに新しい仲間が入った。
「一緒に働くの、楽しみです! ルチアさん!」
フラムは笑顔で右手を差し出す。
「よろしくお願いします!」
「ふん」
ルチアが無視する素振りを見せると、
「うぅ……!」
フラムが瞳に涙を溜めた。
「ぐっ……!? なんで泣くのよ!?」
「あーあ、泣っかした」
「いけないんだ~」
俺とヴィヴィが責めると、ルチアはフラムの手を握った。
続いてアランがギュッ! とルチアと(無理やり)握手する。
「ぬがあ!?」
「よろしくねルチア……一応言っておくけど、あまり余計なことはしないようにね」
アラン君はほんとルチア様の事が嫌いだねぇ。
「なんでアンタにそんなこと言われないといけないのよ……!」
ルチアは負けじと握り返す。
「アンタのせいで顔めっちゃ腫れたんだからね……! 絶対、許さないからぁ……!」
「あんなクズに体を乗っ取られた君に責任があるよ。ルチア」
ルチアには『さん』付けしない辺りガチだな。
「ルチア」
最後に俺が手を出す。
「あ、アンタ……」
ルチアは口をもごもごさせる。
「なんだよ?」
「アンタさ……ほ、本当に……私のこと、す――」
ルチアの顔に赤みが帯びていく。
「……好きなの?」
瞳に涙を溜め、いつもの強気な顔じゃなく――乙女の顔で、ルチアは聞いてくる。
上目遣いで、こちらの言葉を震えながら待っている。
どうやら、さっきの俺の言葉を深い方の意味で捉えてしまったようだ。参ったな。
「ルチア……ここだけの話な。俺……モナリザ以外に性欲を抱けないんだ」
「…………は?」
「つまりだ。俺がお前や他の女子に恋心を抱くことは無い。さっき好きだと言ったのは人間としてだ。悪いな。勘違いさせて」
笑顔で告げてあげる。
ルチアはゾッとした顔で後ずさり、宿敵のヴィヴィに顏を向ける。
「あ、アイツ……モナリザが好きって、本気で言ってる?」
「ああ。彼の夢はモナリザと添い遂げることだからね」
ルチアはヴィヴィの肩に手を置く。
「……アイツ、やっぱり頭おかしいわ」
「ああ。その点については全面的に同意するよ」
「お前らには言われたくないんだが」
ルチアはさっきと打って変わって虫を見るような目で俺に近づき、俺の手を握った。
「仕方ないわね。モナリザより、私の方がよっぽど良い女だってこと、教えてやるわ」
「楽しみにしてるよ……ちなみに聞くけどさ」
小声で話す。
「お前、ひょっとして自分の票をヴィヴィに入れたか?」
ヴィヴィの票数が予定より1票多かった。俺の予想では、あの票は――
「アンタが何を言っているか、まったくわからないわね」
そう言い放ったルチアの顔は晴れやかなものだった。
「借りは返す。アンタにも、ヴィヴィにもね」
長い髪を右手で流し、ルチアは言った。
憑き物が落ちた、ってやつだな。
自分の進むべき道ってやつが、あの1件で見えたらしい。これからのルチアは見ものだな。
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