第77話 入院
花蝶の月50日。水曜日。
「朝の検診はおしまい。安静にしていてね」
「はーい」
ランティス医療班。
ドクターファクトリーとは別の医療機関であり、ランティス錬金学校の精鋭のみで組まれているチームだそうだ。建物はランティス学園内にあり、見た目は病院というよりは診療所。病室も4つしかない。
俺が寝かされた部屋は4人部屋だが俺以外には誰もいない。貸し切り状態だ。
地下でのニコラスとの戦いから1日が過ぎた。
肋骨はもう痛くない。覆面の女医さんが錬成した薬を飲んでぐっすり眠ったら、あら不思議。痛みは無くなっていた。ヴィヴィが錬成した軟膏然り、錬金術師の医療技術は外の世界のそれを遥かに凌駕している。
そういやルチアの奴もニコラスに体を貸していた影響でここに泊まっているらしい。ルチアの場合は体というより精神の治療だろう。あとは経過観察か。ジョシュア先生がニコラスを除去したとは言え、まだ安心はできない。ジックリと検査して、ニコラスが完全に消滅したと確信した後に退院だろうな。
ちなみに、最後に見たルチアの顔は大きく腫れていた。アランのフルスイングを受けたせいである。あの時のアイツからは異常な殺意を感じたな。ヴィヴィが例の軟膏をルチアの顔に塗っていたから、頬の腫れはもう引いているはず。
「おはようイロハ君」
病室に来客。噂の爽やか眼鏡、アラン君だ。
アランは昨日、義手を破壊されたはずだが……両腕とも復活している。
「義手はもう修復したのか」
「修復というか、スペアだよ。家に大量にあるんだ」
アランは俺のベッドの傍に座る。
「もう大丈夫そう?」
「ああ。俺的には退院してもいいんだが、今日1日は安静にしとけってさ」
「そっか。僕もお医者さんに賛成だね。昨日はなんというか、本気の殺し合いだったしね。体は大丈夫でも精神的に参っている場合もある」
「……お前はなんつーか、達観してるな」
「え?」
「昨日のニコラスとのやり取りを見た時も思ったけど、殺し合いに慣れてるっつーか……いやわりぃ、今のは失言だったな」
アランはちょっと面食らった顔をした後、クスクスと笑い出した。
「殺し合いに慣れてる? こんな学生が?」
「いや、だから、失言だったって」
「……殺し合いなんて、慣れるもんじゃないよ」
アランは小さな声でそう言って、立ち上がった。
「そろそろ学校が始まるから行くね」
「待てよアラン」
アランは入り口で立ち止まり、無言で振り返る。
「あの時お前、ルチアを殺そうとしてたろ」
「……」
「お前がルチアを良く思っていないことは知っている。ニコラスという危険を排除したかったのもわかる。だがな、あそこでルチアを殺そうとしたことは……許せない。――二度と勝手なことをするなよ」
「……肝に銘じておくよ」
アランは病室を出ていく。
それから俺は朝食を食べて、寝て、昼食を食べて、寝て。目覚めた時には放課後を知らせるチャイムが鳴った。
それから間もなく、3人の客が来た。
「イロハ! 見舞いに来たよ~!」
「気持ちよさそうなベッドだね~。横で寝ていい?」
「……」
イチ、ツヴァイ、トロワ。ダイスリー三姉妹だ。
3人は俺のベッドの上で跳ねたり、寝ている俺の髪を触ったり、頬を引っ張ってきたり、横で眠ったりと、自由勝手に振舞った。
ひとしきり遊び尽くすと3人揃って出口へ足を向けた。
「じゃあねイロハ~! またあそぼうね~!」
「見舞いに来たんじゃないのか……」
ダイスリー三姉妹が去ると、入れ違いに、
「オスの癖に軟弱だな。骨の1本や2本で入院など」
「まったくだ。鍛え方が足りん」
スプーシーとブルース。亜人・獣人コンビがやってきた。
「お前らが見舞いに来るとは驚きだな……」
「私もブルースも、骨折や捻挫等は慣れっこだからな。当然、直し方も心得ている。お前の力になれると思ってな」
「お前は面白い。ここで死なれても困る。我々が我々の部族に伝わる治療を施してやる」
スプーシーはヤバい色の水が入った瓶を取り出し、ブルースは棍棒のような道具を取り出した。
「ただの骨折だっての! 死ぬ可能性は0だって! やめろ……お前らの治療の方が死ぬ可能性高……!?」
――中略。
「ではなイロハ。早く直せよ」
「お前にはいずれリベンジしてやる」
「……2度と来るなよお前ら……!」
全身が痛い。内も外も痛い。けれど骨折した部分の痛みはまったくと言っていいほど消え去った。効果は一応あったのか……認めたくないけど。
「……落ち着いたか」
これ以上客は来なさそう。
「……フラムとルチアの様子でも見に行くか」
俺はベッドから立ち上がり、廊下へ向かう。




