第75話 古代と現代
「「イロハ君!?」」
「だああああああああああああああああっっ!!!」
そのまま穴に落ち、また地下室に戻り、黒いモヤを使って着地する。
ニコラスに接近し、俺はその胸倉を掴み上げる。
「いい加減にしろよルチア! お前、いつまでそんな奴に好き勝手やられてるんだ!」
「無駄だ小僧」
俺はニコラスに投げられる。
「くっ!」
受け身を取って、すぐに立ち上がる。
「ルチアは自ら私を受け入れた。強くなるためにな」
「ルチア……」
「クックック……コンプレックスとやらは心のヒビだな。衝けば簡単に心を壊せる」
ケラケラと嘲笑するニコラス。
「ふざけるな! コンプレックスはヒビなんかじゃない。バネだ! 自分を強くするためのバネなんだよ! 他人と比べて劣ると思う部分を、自分の一部だと受け入れられた時、人間は大きく成長できるんだ! そうだろルチア! ……そんなクズに、お前の努力を否定させるな!!!」
「……!?」
ニコラスの動きが変わる。
髪色が金髪に戻り、両目から……涙が落ちる。
「けて……助けて、よ……イロハ……!」
「ルチア……」
「嫌だ。嫌だ……私は、これまで、頑張ってきたのよ…………疎まれようが、けなされようが……私は頑張ってきたんだ…………誰かに、認めて欲しかった……誰かに、認められるために……! ずっと……!」
鼻水をみっともなく垂れ流しながら、ルチアは顔を歪める。
「……体を好き勝手にされて……ようやく、気付いた。私は! 私の手で! ……私という人間を証明したいっ……!」
「……了解だルチア。絶対助けてやるから涙拭いて待ってろ」
ストレージポーチから虹の筆を出す。
「1人で勝てるとでも?」
「やるだけやってみるさ……」
「――イロハ君!」
天井の穴から、ヴィヴィの声が響いてきた。そしてまた、穴からロープが降りてくる。
「ヴィヴィ!?」
「早く掴め! カッコつけられる実力差じゃ無いだろうに!」
「馬鹿! お前こそ早く逃げろ!!」
「そこか。風錬成【フーパ】」
ニコラスは竜巻を発生させ、天井を破壊する。
天井が落ち、ヴィヴィとアランが落ちてくる。アランは空中でヴィヴィを抱きかかえ、自身を下にして背中から着地する。
「ヴィヴィ! アラン!」
「いてて。大丈夫かい? ヴィヴィさん」
「ああ、私は問題ない」
「お前らは……バカか!!」
俺は2人をお構いなく怒鳴る。
「ば、バカだと!? この私にバカと言えるのはニコラス=フラメルかレオナルド=ダ=ヴィンチぐらいだぞ!」
「じゃあアホだアホ! 俺がせっかく身を挺して守ったってのに!」
「余計なお世話だ。君如きに守られる私ではない。自分の身ぐらい自分で守れる」
「黙れ運動音痴! ハッキリ言って、お前がここに居ても足手まといなだけだ!」
俺が言うと、ヴィヴィは珍しく、顔を赤め、僅かに瞳に涙を溜めた。俺はつい、後ずさる。
「足手まといとはなんだ! わ、私だって……この運動能力をなんとかしようと毎朝走っているんだぞ! 登下校にも空挺を使わずにだなぁ……!」
「そ、そうなのか。すまん。言い過ぎた」
「あのさぁ2人とも、いまヤッバイ敵が目の前にいるからさ、喧嘩は後にしてくれる?」
アランのガチトーンツッコミ。
ニコラスの存在を思い出した俺とヴィヴィは、敵意を互いからニコラスに向け直す。
「ん? もういいのか? どうせすぐに一言も話せなくなるのだ。思う存分言い合うがいい」
余裕ぶっこきやがって……。
「アラン、フラムはどうした?」
「できるだけ遠くに運んだよ」
「よし」
「――で、どうしよっか。僕は片腕。イロハ君は満身創痍。正直、次彼女が合成術のモーションに入ったら止められないよ」
「……アラン、アイツの合成術さえ止められれば何とかできるか?」
「うん。彼女にもダメージが入っているからね。抑え込める」
「わかった。俺とヴィヴィは下がる。お前は突っ込め」
「囮役了解」
「ヴィヴィ。俺に策がある」
俺はヴィヴィと後ろに下がり、ヴィヴィに耳打ちする。
「……君は、なんとも突飛なことを考えるな」
「できるか?」
「稀代の天才、ヴィヴィ=ロス=グランデの才能に賭けるしかないだろ」
ヴィヴィは自信ありげに言い切った。
「突っ込むよ!!!」
アランが飛び出す。すると、ニコラスが宙に合成陣を描き始めた。
「今だ! やるぞ!」
「ああ!」
俺は虹の筆で目の前の空間に触る。
「……アイツの合成陣を見てわかった。マナは浮かぶ。俺はマナを自在に引き出すことはできないが、虹の筆のインクなら自在に引き出せる。構成物質のほとんどがマナのこのインクなら、いけるはずだ!」
俺は目の前の空間に合成陣を描く。
「宙にインクを浮かばせただと……!? まさかそれは、虹の筆か!!!」
「ヴィヴィ!」
「わかっている!」
ヴィヴィはポケットからマナスティックの入った小箱を出し、箱からマナスティックを1本出し、火を点ける。
アランとニコラスの距離は約4m。そこで、ニコラスの合成陣が白く輝いた。合成術が始まる。同時に、ヴィヴィは俺が描いた合成陣にマナスティックで火を灯し、合成陣を起動させる。
「「風錬成【フーパ】!!」」
ニコラスとヴィヴィ、2人の合成陣に風が集まる。
ニコラスは合成陣に竜巻の如き突風を集めるが、ヴィヴィは微弱な風しか集められない。
アランは突風の壁を前に足を止める。
「愚か者め! 錬金術の格が違う! 私にパワーで勝てると思っているのか!」
「パワーで勝つ気はないさ。大気を操る合成術なんて、相当量の計算と緻密な操作が必要だ。私に竜巻を起こすだけの風の合成はできない。だがね、そもそも竜巻を起こす必要なんてないんだよ。私はただ、君の計算式を僅かにずらせばいいだけ。風を集めて放つ、なんてことは考えなくていい。ただ君の周囲の大気を、歪ませればそれで……」
大気が唸っていく。
「なっ……!?」
「――計算と操作を乱せる」
ニコラスの集めた風が、散っていく。
「成程。合成術の押し合いをして理解した。あなたは本当にあのニコラスのようだ。しかし、これを機に覚えておいてください」
「貴様……!」
「天才はあなただけではない。あまり現代の錬金術師を舐めるなよ」
風の壁が無くなったことで、アランがニコラスに接近する。
「時代遅れの錬金術師は、ここで眠れ」




