第73話 魔王のアトリエ
門番は倒した。
もう邪魔者は現れそうにない。念のため井戸を確認したが、そこにはメタルポーションしか無かった。
「さっ、アトリエへ行くわよ」
一足早くルチアがアトリエへ行く。
「フラム。俺達も行くぞ」
「は、はい!」
俺とフラムもルチアに続き、小屋に入った。
「こいつは……」
見慣れない実験器具の数々。鼻につく鉄の匂い。
「おいおい……」
血の跡が壁にある。
「い、イロハさん……変です。ここ!」
フラムがガタガタ震えるのもわかる。
いるだけで精神が冷たくなる。ここは……このアトリエは、やばい。本能が『逃げろ』と訴えかけてくる。
『逃げろ』
いや、本能じゃない。これはシロガネの声だ。
『イロハ……ここはやばい。早く逃げろ!』
「って、言われてもな……」
ルチアは、奥でフラスコを持って呆然としていた。
「ルチア……?」
「見なさいイロハ。これを」
ルチアは液体の詰まったフラスコを見せてくる。フラスコの中の液体は、青かった。けど、ただの青じゃない。見たことの無い、色の底が見えない青だ。
ぞわっと、全身に鳥肌が立った。アレは、触れちゃいけない色だ。
「ダメだ……それは……ルチア、なにかやばい。触らない方がいい! 置け!」
「馬鹿言わないでよ……アンタには聞こえないの? 私を呼ぶ声が。『私を飲め、そうすればお前は天才になれる』と……聞こえる。そうよ、この声は、私をここまで呼んだ声だ」
ルチアは、フラスコを口につけ、中の液体を飲み干す。
「よせ!!!」
「……ねぇ、イロハ」
ルチアは力なく笑う。
「……私はただ、認められたかった」
ルチアの体が青く光る。俺は咄嗟にフラムを抱き寄せ、背中をルチアに向けた。
ルチアを中心に強烈な突風が巻き起こった。俺は突風に耐え切れず吹っ飛び、小屋の外まで飛ばされた。
俺とフラムは団子になって転がる。フラムにダメージがいかないよう、俺だけが地面に接地するようにする。
アトリエから10m離れた場所で、ようやく止まった。
「いっつ!」
「イロハさん!」
倒れ込む俺を、フラムがさする。
「戦闘態勢に入れ、フラム!」
すぐさま立ち上がる。
俺はストレージポーチからクリスタルエッジを出す。フラムもストレージポーチから爆発する投擲輪を出した。
「イロハさん、一体なにが……!」
「さぁな。俺が聞きたいよ。とにかく、今から出てくる奴は……敵だ!」
アトリエから、髪を白く染めたルチアが出てくる。瞳の色は紅く塗られていた。
「久しいな、この場所も。まさか、気まぐれで残していたマナポーションが功を奏すとは思わなかったぞ」
ルチアの声に重なって、別の女性の声が聞こえる。
「お前……誰だ」
ルチアの口角が上がる。
「ニコラス=フラメル。この錬金術世界の……神だ」




