第70話 ジャックとジョシュア
「しかし思い切りましたね」
学校の屋上から学園全体を見下ろし、ジョシュアは言う。
「生徒にニコラスのアトリエを探さすなんて」
「使いたくない手ではあったがね」
カボチャ校長、もといジャック校長は人差し指を合わせる。
「大丈夫かなぁ、不安だなぁ」
「たかがアトリエでしょう?」
「ニコラスのアトリエだぞ! たかがアトリエではない!」
「そんなヤバいんですかニコラスって。アンタはニコラスを魔王と言うけど、世間一般的には彼は英雄でしょう」
カボチャの目がギラリと光る。
「……ニコラス=フラメル。奴が何をしようとしたか、貴殿には話そうか」
「ぜひともお聞きしたいですね」
「彼女は錬金術を愛し、錬金術師を愛した。同時に、非錬金術師を酷く憎んでいた。この世界には錬金術師さえいればいいと、そう語っていた。彼女はその思想から……錬金術で術師以外を全て殺そうとしたのだ!」
「へぇ。まぁよくある話ですね」
ローテンションのジョシュアにジャック校長はため息をつく。
「そこはさぁ、『えぇ!? ホントですかぁ!? 初めて知りましたそんなことぉ!』とか言ってくれないと」
「魔女狩りが起きてから今に至るまで、錬金術師のノーマルに対する露悪感情は消えてませんでしょ。さすがに現代では数少ないですが、いまだにノーマルに憎しみを持つ錬金術師もいる。ニコラスが活躍していた時代なら、まだ相当数そういうのは居たでしょうし。そこまでの感情を持っているやつがいてもおかしくない」
「冷静だねぇ」
「そっちより、俺が驚いたのはニコラスのことをアンタが『彼女』って言ったところです。ニコラスは男だったはずでしょ。言い間違いですか?」
「いいや、ニコラスは女性で間違いない。それはそれは可愛らしい女の子だった。吾輩の初恋だったよ……そう、出会いは――」
「オッサンの初恋話程、退屈なものはありませんね」
「……まったくこの子は、昔から校長に対する礼儀がない……」
ジャック校長は暗雲立ち込める空を見上げる。
「ニコラスは吾輩の手で殺した。恋心を上回る程に、吾輩は彼女を恐れた。あの者のアトリエ……一体なにがあるかわかったものじゃない」
「そんなもんを生徒に探させるなんて、最悪ですね」
「仕方ないじゃーん。だってだって、どんだけ探しても見つからないんだもん♪」
「生徒の身になにかあったらそん時は……校長の責任ですね」
「まぁまぁ! そんなことにはならないさ。考えてもみよ。最高峰の錬金術師である吾輩が何百年と探して見つけられなかったものだよ? 生徒が見つけられるものか。見つけたとして、彼女が組んだセキュリティを破れるとも思えん」
「わかりませんよ。今年は特殊な生徒が多いんでね」
ジョシュアは屋上から、ある生徒2人を見つける。
「それでは校長、俺もアトリエ探し続行しますわ。賞金が欲しいのでね」




