第69話 廃校舎に潜む宝
玄関は開いていた。
廊下に足を踏み入れると、ギシギシと木の床が軋んだ。鼓動が早くなる。この廃校舎に入ってからというもの、冷や汗が止まらない。本校舎でも感じていた不吉なオーラが、強く深くなっている。
俺達は玄関に1番近い教室に入る。教室に先客を発見した。廃校舎1階の教室で、ルチアは掃除ロッカーを探っていた。
「やっぱり居たか」
「むぎゃあっ!?」
後ろから声を掛けられ、体を跳ね上がらせるルチア。
「ホントにルチアさんだ……」
フラムがキラキラとした目で俺を見つめてくる。髪の毛の持ち主がルチアだということを証明したからだろうけど、そこまで驚くことか?
「あ、アンタら……なんでここに!」
「なりゆきで。お前こそなんでここに?」
「……私は」
ルチアはなぜか考え込む。
「呼ばれたのよ……誰かに、ここへ来いって」
「手紙とかで呼び出されたってことか?」
「も、もしかして、告白の呼び出し……?」
「違う。頭に響いたの。女の声で……森の奥にある廃校舎へ来いと。そこにアトリエがあるって……」
「ひぃ!?」
フラムは俺の背後で丸まってしまう。
「そんな作り話でウチの団員をビビらせないでくれ」
「作り話じゃない! ホントのホント!」
「はいはい。俺達もアトリエを探すぞ、フラム」
「は、はぁい……」
俺とフラムも教室の探索を始める。もちろんルチアは良い顔をしなかったが、それでも邪魔はしてこなかった。
俺は教室にある本棚と机の中を確認し、最後に黒板を見つめる。
ダークグリーンの黒板……いや、薄っすらと、色に『濁り』が見える。
「……嘘だろ……」
目を凝らしてみると、黒板に図形が浮かんできた。
「どうしたのよ? なにかあったの」
ルチアとフラムが俺の横に来て、黒板を見る。
「なにもないですよね?」
「ないわね」
2人には見切れないみたいだが、
「薄っすらと、黒板にニスみたいなもので絵が描いてある。いま、俺がそれをチョークでなぞってやるよ」
俺は落ちていた白のチョークを拾い、ニスのような透明の液体をなぞる。
「イロハさん、これって……」
絵が完成していくにつれ、2人の表情が変わる。
「完成だ」
様々な図形を組み合わせた一枚絵。これは、
「合成陣だな」
合成を行うための陣。
「授業で合成陣の解説でもしてたんでしょ」
ルチアは肩を竦める。
「わざわざこんな見にくいインクで描くか? それに、通常の合成陣と違う部分もある。合成陣の中の小さな円4つにそれぞれ絵が描いてある。釘と札と髑髏と鍵だ」
「この鍵……」
ルチアは制服のポケットから、黒板に描かれた鍵とそっくりの鍵を取り出した。
「どこにあったんだ、それ」
「玄関のカギ穴に差さっていた」
ルチアは何かを閃いたのか、ニターっと笑みを浮かべた。
「わかったわ! ズバリ! それら4つをこの校内から見つけ出し、黒板の合成陣を使って、合成術を行えば……」
「隠されたアトリエが見つかる、というわけですね!」
「多分、な」
このヒント、俺のような色彩能力者じゃなければ発見は不可能だ。
ありがたいけど不公平と言わざるを得ない。学校全体を使ったレクレーションだ、公平でなくちゃならない。違和感だな……。
……一旦置いとくか。
「ここは休戦よ。協力してこのアイテムを揃えるわ」
「アトリエを見つけた場合の報酬は三等分な。手分けして探すぞ」
「手分けして!? あ、あの、ジブンはなるべく明るい所を探させてください!」
俺達は分かれてこの廃校舎の中を漁る。
「あったぞ。ロッカーの裏に札だ」
「こここ、こっちもありました! 壁に、釘が打ち込まれていました!」
最後の1つ、髑髏が見つからない。
「もう全部探したわよ」
「あと探してないのは……」
俺達は外に出る。
「地面だな」
「床下という可能性はないかしら?」
「さすがに無いと信じたい。土の下に無ければ探すしか無いけど」
虫とか大量に湧いてそうだ。できれば触れたくない。
「どうやって掘ります? スコップとかは見当たらなかったですけど」
「手掘りだろ」
「ふふん。これを使いなさい」
ルチアがストレージポーチから出したのは品評会の時に持ってきたツルハシだ。
「ああ、コンペで負けたやつか」
「言い方があるでしょ言い方が!」
ツルハシは俺に手渡される。
「……俺か」
「男の子でしょ?」
別に肉体労働は得意じゃないんだけどな。
「つーか、ツルハシで地面って掘れるのか? 手掘りより効率悪そうだが……」
俺はツルハシで地面に叩きつける。
「おおっ」
俺はツルハシの手応えに驚いた。
ツルハシで2度、3度と地面を叩く。
「使いやすいな。めちゃくちゃ軽い」
「で、でしょ! そうでしょ!」
「それに先っぽから衝撃波が発生してるのか、打ち付けた場所周辺の土が柔くなってる」
「そうなのそうなの! ショックストーンっていう強化素材を組み込んでるのよ!」
よく使い手のことが考えられた錬成物だ。
ルチアは鼻息を荒くし、俺の誉め言葉を今か今かと待ち構えている。まるで餌を要求する犬だな……。
「……取っ手も何か塗ってあるな。これのおかげで手が痛くならない」
「私が錬成したジェルよ。リバウンドダメージを軽減してくれるわ! 他には他には!?」
「……もう勘弁してくれ。目的は髑髏探しだろ」
地面を片っ端から掘り返す。ツルハシを打ち付けること30回目、カツン! とツルハシの先から硬い音が返ってきた。
俺は手で地面を掘り、土の中に紫の髑髏を発見する。髑髏を掘り返し、上に掲げる。
「見つけた」
「これで全部揃いましたね!」
「ふん! 私の錬成物のおかげね!」
俺は校舎に足を向ける。
「そんじゃま、扉を開くとしようか」




