第65話 イロハvsブルース
ブルースは剣を構え、そろりそろりと小さな歩幅で間合いを測る。
俺は槍を両手で持ち、右手の手首に槍に張ったゴム紐を括る。
「……気色悪い色だ」
「そういう配色にしてるからな」
「アラン君。イロハ君の服の配色について、私に詳しく教えてくれ」
「了解」
俺とブルースは戦闘を開始する。
俺の連続突きをブルースは容易く躱し、俺の懐に入る。
「遅い」
「!?」
俺は脇腹に1撃を貰う。
「ぐっ!」
槍を振り回しながら後退。ブルースは追撃せず、俺に剣の矛先を向ける。
「お前は剣士だったはずだ。使い慣れぬ槍で来るなど……俺を愚弄しているのか!」
「とんでもない。俺はベストを尽くしてるよ」
俺は槍の矛先に着けたカバーを取る。
槍の矛先……刃の部分は青く塗りつぶしてある。彩度の低い青だ。ちなみに、俺のタイツの中心も同じ色だ。
俺は槍を両手で持ち、タイツの中心の前に持ってくる。いま、ブルースから見ると、槍の矛先と俺のタイツの中心は重なって見えているはずだ。槍の矛先の青とタイツの青が同化して見えているはずだ。
「ちっ!」
俺はその状態で槍を突き出す。同時に、槍を手放し、ゴム紐の反動で槍を飛ばす。
「っ!?」
ブルースはその左肩に槍の矛先を掠らせ、決して小さくはない切り傷を作った。
「貴様……!」
ブルースは負けじと打ち返そうとするが、その膝が唐突に折れる。
「……これは……」
「カフェイン含有量が高いコーヒーで矛先をコーティングしていた。ヴィヴィから聞いたんだよ。お前ら鳥人族はカフェインが大の苦手で、一口コーヒーを飲んだだけで酩酊するってな」
「……なるほど。詰みだな。負けを認めよう」
後ろで歓声が響く。
ブルースは俺の槍に目を向け、
「銛の如くゴム紐で槍を飛ばし、間合いを拡張したか。だが、それぐらいのトリックなら俺は対応できた。なぜ、俺はお前との間合いを間違えたのだ? その服に仕掛けがあるのか?」
「その通り。俺の服には絶妙な配置で進出色と後退色を散らばしていたんだ」
「……なんだそれは」
「進出色は前に飛び出て見える色、後退色は逆に遠くに見える色。そうだろイロハ君」
ヴィヴィが俺の横に立つ。
「ああ。ちなみに進出色は暖色系……代表としては赤で、後退色は寒色系、まぁ青系統だな」
「君は進出色と後退色を錯視を起こすように配置し、ブルース君の遠近感を狂わせ、後退色で塗った槍の矛先で彼に攻撃を与えた。しかも矛先の色と服の1部の色を同色にすることで、保護色の要素も使ったわけだ。飛ばし槍、錯視、保護色。3つの要素を使った奇襲。というわけだな」
「ご説明どうも」
「にわかには信じられんな。たかが色を使ったトリックで、この俺の目が騙されるとは……」
「他の人間が同じ戦法を取った所で上手くはいかないさ。けれど、彼には色彩能力がある。0.0001%の狂いもなく同じ色を作ることができ、最大の進出色と最大の後退色を作れる彼だからこそ、成功した戦法だ」
なぜかヴィヴィが胸を張り、腰に手を当てる。
「なんでお前が誇らしげなんだ……」
「ブルース君。君は負けを認めた。つまり、君はヴィヴィさんに投票してくれる……と思っていいんだよね」
アランの問いにブルースは頷く。
「ああ。実に良き戦いだった。こんな戦法は初めてだったぞ、イロハ=シロガネ。勉強になった」
ブルースは調子を戻したのか、立ち上がった右手を差し伸べてくる。俺は右手を取り、握手する。
「それにしてもお前は強いな。脇腹の1撃……1週間は引きずりそうだ」
「ふっ。殺す気で打ち込んでいれば、骨の2、3本は持って行っていたさ」
「おいおい……」
背筋がゾッとする。
「ルチア」
ブルースは暗い顔で座っているルチアに近づく。
「お前のガッツも素晴らしかったぞ。誇れ。お前は強き戦士だ」
「……見下ろさないでよ亜人が! アンタの評価なんていらないってば!」
ルチアはブルースから差し伸べられた手を払い、草原を去っていった。
「ヴィヴィさん。本当に彼女をファクトリーに入れるのかい?」
「ジブン……ちょっと怖いです」
「最悪幽霊でいいさ。欲しいのは金だからね」
ファクトリーの面子はやはりルチアに良い印象を持ってないらしい。それもそうか。あんだけ悪態ばかりつかれたらな。




