第63話 そんなお前だからこそ
「よう。元気か?」
「……アンタか」
ルチアは病室のベッドに座っていた。体はもう大丈夫のようだが、顔色は優れない。
「ほい。これ、フルーツ。俺達からだ。遠慮なく食ってくれ」
俺がフルーツの入った籠をベッドの傍にあるテーブルに置くと、ルチアは唇を噛みしめ、籠を右手で振り払った。
籠とフルーツが床を転がる。
「あらら。せっかく色味のいいの選んだのに」
「情けのつもり? 外部生の無血統が、この私に情けをかけるか!」
「そりゃかけるだろ。病人なんだから」
散乱したフルーツを拾い、また籠に詰める。
「そういや部屋の前ですげぇ造形美のねーちゃんに会ったぞ。彫刻でもあそこまで見事なプロポーションは作れないな。お前の友達か?」
「……私の姉よ」
「イシスフェル……そういやお前のファミリーネームも同じだったか。妹の見舞いに来たんだな」
「見舞いなんかじゃない。アレは介錯よ」
介錯? とどめ?
「……お前姉に殺されかけるって……マジで人格直した方が良いぞ」
「違うわたわけ! あの人がもし私に殺意を持っていたら、まだマシだったでしょうね。あの人は……私に対して何の感情も持っていないのよ。あの人が興味を持つのは自分にない力を持つ人間だけ。究極の才能主義。才能を持ちえない私に興味なんてあるはずない」
ルチアは俺に背を向けベッドに寝転がり、布団を被る。
「……私はあの人を、1度も振り向かせることはできなった。とんだ出来損ないよ」
病気になると気が滅入る。なんて当たり前の話だが、
「うざい」
俺はルチアの頬をつねる。
「いだだだだっ! な、なにすんのよ!!」
ルチアは飛び起き、俺の手を払う。
「自信の無いルチアに用なんて無いんだよ」
「はぁ!?」
「なんもしなきゃお前が順当にクラスリーダーになれたのに、お前はわざわざヴィヴィを選挙の舞台に上げた。お前程クラスリーダーの席を欲しがっている人間がだ。それに俺達が基本4人で行動しているのに対して、お前は1人で動き回って支持者を増やした。お前の人脈ならグループで動くこともできたはず。お前は自分の成長のために、敢えて苦難の道を選べる人間だ」
「……イロハ……」
「俺はお前のそんな気概を、尊敬する。そんなお前だからこそ、ファクトリーに欲しい」
「!?」
「だからあんま腑抜けるなよ。勝ちを譲る気はないが、勝ちを譲られる気もない。きっと、俺だけじゃなくアイツもな」
ルチアは顔を背ける。
「な、なによ……アンタ。アンタこそ、うざいわ。死んじゃえっ! 帰れ!!」
「語彙力が退化してるぞ。ゆっくり寝て治すんだな。じゃあな」
言い残して病室を出る。
ちょっと偉そうだったか。人を励ました経験が無さ過ぎて正解がわからない。
人間関係ってのは難しいな。
『難しいならやめればいいだろ。人付き合いなんて』
シロガネが心の内から語り掛けてくる。
(俺はお前が人らしく在ろうとして作った人格だぞ。俺が人らしいことをしてるんなら応援するのが筋ってもんだ。違うか?)
『前提から間違っている。イロハ、お前は俺が切り離した人情だ。お前は俺の願いから生まれた存在じゃない。白銀の心はあらゆる色を受け付けない。たとえ一時的に心の内に不純物が混じっても、すぐに弾き出す。お前はそうやって、俺が弾き出してきた不純物の塊だ。垢や糞と変わらない』
(白銀の心は何も受け付けない、ねぇ。それは本当か?)
『なにが言いたい?』
(俺にはお前の心の中に1つの色が混じっていると感じるぞ。白銀じゃない、キラキラとした金色……好奇心って感情がな)
『……あったとしても、そんな不純物はすぐに取り除かれる』
(取り除かれても、何度だって色を差してやるさ。お前の心が色変わりするまでな)
外に出ると、すでに空は紅く染まっていて、綺麗な夕陽が目に映った。
空挺に乗って空を飛ぶ生徒達、きっと帰宅中だろう。ともすれば、知らない乗り物で疾走する生徒もいるし、羽の生えたライオンに乗って移動する教員もいる。
この世界は異常が日常で、常識が非常識だ。だからこそ面白い。
俺も、そしてシロガネも、この世界に来て少しずつ変わってきている。
この世界が、俺達に色々な色を見せてくれる。
ヴィヴィも、フラムも、アランも、ルチアも、スプーシーも……みんな違って面白い。
「……生きてる内に、アンタからこの世界のことを聞きたかったよ。爺さん……」




