第61話 才能の壁
錬金術師の才能はマナで決まると言っても過言ではない。
私の家、イシスフェル家では特にマナを重視する。生まれた時にマナの性質を測られ、子供のランク付けが行われる。
私は7人兄弟でもっとも低ランクに位置づけられた。私のマナは平凡だった。
一方で、1つ上の姉、イライザ姉さんは最高ランクだった。なぜなら彼女はイシスフェル家に代々伝わるロストマナ、冰結のマナを継いでいたのだから。家を継ぐ人間は間違いなくイライザ姉さんだ。生まれながらに決定した序列だ。
両親から私に対して期待なんてものはなかった。それでも、イシスフェルの名を背負っている以上無様を晒すことも許されなかった。できて当たり前。できなければクズ。それが私の人生だった。
努力して努力して努力して努力して……その末に錬金術師として非凡な成績を収めることができた。段々と、同世代の中で私の存在感が強くなっていった。なのに……そんな時、アイツが現れた。
ヴィヴィ=ロス=グランデ。
最年少でニコラス賞を受賞した彼女の名は錬金術師の世界に轟いた。私を推してくれてた先生も、私を敬っていた同級生も、私を見直し始めていた家族も、全員がそっぽ向いた。全員がヴィヴィに引っ張られた。
勝ちたかった。ヴィヴィに勝ちたかった。そして証明したかった。私という錬金術師の能力を! 資質を!
その結果があのザマよ。ヴィヴィを一歩も動かすことできず、その仲間達に負ける始末。
力が欲しい。ただ力が欲しい――誰にでも認められるだけの力が! 才能が!
誰でもいいから、私を……認めてよ。
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起きると、そこは医務室だった。
学校じゃない。きっと、医療系錬金術師の集まるファクトリー『ドクターファクトリー』の施設だ。私が目覚めるとすぐ、団員の女子生徒が現れた。
団員の話によると、私はヴィヴィ一味によってここへ運ばれたそう。私は熱中症で倒れ、ヴィヴィのポーションによって救われ、今に至るらしい。
団員はヴィヴィのポーションを延々と褒めていた。ヴィヴィのポーションのおかげで、私の体調はみるみる治ったそうだ。
惨めね。本当に……なんて――
「惨めね。ルチア」
「え……」
私の病室に現れたのは、青い制服を羽織った女性。
あの制服は首席の証明。その学年でトップの人間に与えられるもの。
「イライザ姉さん……」
私の姉であり、2年生のトップだ。
「団員から連絡が来たのよ。あなたの妹が熱中症で倒れたと。いい迷惑ね」
「す、すみません……姉さんにご迷惑をおかけするなど……」
動悸が強くなる。
冷たい瞳。人形みたいな白い肌。
昔はもっと感情豊かな人だった。優しい人だった。なのに今は……、
「聞いたわ。いま、あのヴィヴィと勝負をしているらしいわね。それでヴィヴィに敗北し、ここまで連れてきてもらったと。もう勝負はついたも同然ね」
「ま、まだ終わってません! 私はまだやれる……イシスフェルの名に傷は付けません!」
「思い上がらないで。あなたが敗北したぐらいでイシスフェルの名に傷は付かない」
「!?」
「もはや誰もあなたには期待していないし、ゆえに誰もあなたに失望することもない。ルチア、あなたは自由よ……ほんと、羨ましい限りね。縛りの無い人生を送れて」
血の気が失せていく。
目を背けていた現実を、この人は容易く叩きつけてくる。
「好きに生きるといいわ。それがあなたのためよ」
そう言って、イライザ姉さんは病室を去っていった。
結局最後まで、私を心配するようなセリフは言わなかったな……。




