第59話 錬成対決
場所は樹海の中にある洞窟。採掘場だ。
洞窟の中に、俺とヴィヴィとフラムとルチア、そしてトトはいた。アランは用事があるらしく来ていない。
「今日はこの第2採掘場に集まって頂きありがとうございます」
とトトが司会進行をする。
「いやぁ、それにしても嬉しい限りです。ここらの鉱山は硬い鉱物が多く……」
「前置きはいらないわ。本題に入りなさい」
ルチアはその金髪をサラッと流して言う。余裕綽々。
ヴィヴィはそんなルチアに対し、なにやら怪訝な瞳をしていた。
「なんで君、そんな傷だらけなの?」
ヴィヴィが聞くと、ルチアはプイっとそっぽ向いた。
「アンタには関係ないでしょ!」
ルチアの露出した腕や脚には湿布が、頬には医療テープが貼ってある。
あれからも相当やったみたいだな……。
「改めて概要をおさらいします。トトが求めるのは『非力な人間でも硬い鉱物を採取できる道具』です。実際に作って頂いた採掘道具を使用し、勝敗を決めたいと思います。勝利した方にトトは投票します。それでは、まずはルチアさんからお願いします!」
「見なさい。これが私の作品よ」
ルチアがストレージポーチから取り出したのはツルハシだ。銀色のツルハシである。
「ゴーレムの拳を加工して刃の部分に使用し、取っ手はフロートウッドを使用したわ」
「ゴーレムって……」
「人型機械の魔物さ。動きは単調だが、好戦的で倒すのには骨が折れるよ。フロートウッドは軽い木で、しかも衝撃を散らす効果を持っている。取っ手に適した素材だ」
コイツ、もしやゴーレムと戦って怪我したのか?
「持ってみなさい」
トトはルチアからツルハシを受け取る。
「か、軽いです! しかも凄い! 地面を簡単に崩せる!」
トトは10回程地面にツルハシを叩きつけると、満足そうに笑った。
「いいですねコレ!」
「そうでしょそうでしょ! これが私の作品よ。残念だけど、もう勝負は決したみたいね」
「ま、まだです!」
フラムはストレージポーチから錬成物を取り出す。
「トトさん! これを見てください!」
「こ、これは!?」
フラムがストレージポーチから出したのは……杖だ。ヴィヴィのライトニングロッドに似た長杖である。
「これを……どう使うんですか?」
「ジブンが実演します」
フラムは杖を壁に向ける。
「まず杖の中腹部分にある凹みを掴みます。採掘したい鉱物に杖の先端を向けます。凹みにマナを込めます。この凹みの部分はマナドラフトの役割を持っているため、杖がマナを吸い取り……『ダイナマイト』を生成します」
杖の先に赤い光が浮かぶ。あの光がダイナマイトか?
「最後に着弾地点と出力をイメージし、頭の中で『飛べ』と叫びます。すると」
赤い光は飛び、壁に着弾。着弾した部分が爆発する。
頑丈な壁を、爆破で破壊することに成功する。
「強弱は細かく調整できます……い、いかがでしょうか」
ぱち、ぱち。と拍手が鳴る。
拍手しているのはヴィヴィだ。
「素晴らしい」
ヴィヴィは称賛するが、ルチアは苦い顔だ。
トトはフラムから杖を受け取り、自分でも使用してみる。いとも簡単にトトは杖を操り、小さな岩を破壊することに成功した。アレだけの力を持っているのに使うのにテクニックは必要ないみたいだ。
「す、すごいです! これなら力いらずです!」
俺のあのアドバイスでよくもここまで……いや、さすがにフラムの独力では無いと見た。
「ヴィヴィ、お前、手を貸したのか?」
「少しね。でもほとんどはフラム君の力さ」
2人の合作か。
「マナが無くなると使えなくなるので、そこだけご注意ください」
「……そんな」
勝敗は……聞くまでも無いな。
「すみませんルチアさん。ルチアさんが作ってくれた錬成物も素晴らしい出来でしたが、トトとしてはこちらの方が使いやすいです」
決して、ルチアの作ったツルハシのレベルが低いわけじゃない。だが、どうしてもツルハシである以上、振り上げて振り下ろす運動が必要だ。一方でフラムの杖は一切の運動の必要がない。ただ杖を向けるだけ。労力の差は歴然だ。
これで、トトの票は貰った。
「ふざけないでよ……! 何がロストマナよ……ムカつく……! ムカつくムカつく!!」
ルチアは、怒っているというより焦っている感じだ。顔中に汗を這わせ、顔色も悪い。
「これで票数はドローだね」
「くっ……!」
ルチアは苦い顔をした後、なぜか笑みを浮かべた。
「上等よ。次の狩り勝負……そこで白黒つけてやるわ!」
そう言うと高笑いしながら去っていった。
「いつの世も選挙というのは荒れるものですなぁ」
トトが総括する。まぁ同意見だけど、お前の言葉で締めくくるのはどうなんだ。
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花蝶の月47日。狩猟大会の日。
俺たちはスプーシーの指示の下、朝っぱらから樹海に集められた。
オーロラファクトリー4人とスプーシーは居るが、ルチアの姿が見えない。
「ルチアのやつ、遅いな」
「まさかとは思うけど、試合放棄かな」
アランとそんなことを話していると、
「お待たせ」
そんな爽やかな声と共にルチアは現れた……ゴリラのような筋骨隆々の男を連れて。
「お、おい。誰だソイツ」
「2年生のウリゴリ君よ。彼の親と私の親は交流があってね。幼少期より仲良くしてもらっているの。彼に助っ人を頼んだのよ」
「く、クラスの外の人間を使うなんて、いいんですか……?」
フラムの問いにスプーシーは頷く。
「問題あるまい。人脈も力だ」
スプーシーは褐色肌の女性で、野性味溢れる雰囲気がある。豪胆、という言葉がよく似合う。瞳は獣のようで、事実牙のようなものが見えるし、ふさふさの茶髪で隠れがちだが狼の耳のようなものも見える。
ブルース程ではないが人間と獣が混じっている。彼女は亜人種。というやつなのだと思う。
「私の一族では長は狩りで決めた。長候補はそれぞれ単独で狩りをし、より大きな獲物をとってきたものを勝者としたんだ。私は一族のルールに則り、長は狩りで決めたい。勝手な話だとは我ながら思うけどな」
「構わないさ」
と言ったのはヴィヴィだ。
「ただ、今回は私もルチア君も代理を立てるつもりだけど、それは構わないかな」
「構わない。私の集落では駄目だったが、それぐらいの譲歩はするさ」
良かった。もしもヴィヴィとルチアで狩り勝負したら……ヴィヴィは負けていただろうな。
「それでは、代表はそれぞれ前へ」
アランとウリゴリ君が前に出る。
「ふっ。機械の腕か。血汗を流し、身に着けたこの肉体に……貴様のような紛い物の体が通用するものか」
ウリゴリがアランを挑発するが、アランは全くのノーダメージのようで、
「是非とも見せて欲しいな。本物の体の力ってやつをさ」
「……いけ好かない奴め」
「武器は禁止。使って良いのは義肢を含め、己の体のみだ。制限時間は2時間。それでは族長血戦……始め!」
この勝負、そんな野蛮な名前だったのか。




