第57話 特別と異端
3時間目・鉱物錬金学ウェポン科。
鉱物錬金学の中でも武具の作成に特化した分野……だと思う。教科書を見る限り。
「持ち物の中にフライパンがあったけど、これ何に使うんだ?」
この授業の持ち物リストの中には教科書などの他に、なぜかフライパンがあった。
武器の錬成に使うのだろうか? これを剣に変えるとか?
「きっとこれを何らかの武器に作り直すんじゃないか?」
ヴィヴィは俺と同じ予想をしているようだ。
「すぐに答えはわかるさ」
先生が教室に入ってくる。
俺は先生の容姿を見て、驚いた。
「ゲホゲホッ! ――えー、僕はレンゼン=マートと言います。見ての通りリザードマンです」
トカゲ人間だ。へぇ、初めて見た。
って、おいおいマジか……鳥人間も驚いたけど、それ以上だな。全身が鱗だ。牙もある。背の高さも2mより上だ。
どうやら俺だけが特別ではないらしい。クラスの半数ぐらいが驚いている。リザードマンは当たり前の存在じゃないようだ。
「……錬金術によって生まれた魔物、モスキメラ。そのモスキメラの一種であるドラゴン。そのドラゴンが人間と交尾して生まれた獣人種の1つ、竜人種……それが僕の種族です。亜人種は人類の遺伝子が50%以上のものを言い、獣人種は人類の遺伝子が50%未満のものを言う……とこれは生物学の領分かな。あはは……」
見た目のインパクトと裏腹に真面目……いや、気弱そうな雰囲気だ。
「アレを錬金術の光と見るか、闇と見るか、意見は分かれるだろうね」
ヴィヴィが俺にだけ聞こえる声で話す。
光……人間の新たな可能性を見出した、と解釈すれば光と言える。身体能力は見るからに人間より上だし、人類の上位種とも言える。
一方で、まぁ闇という意見もわからなくはない。人間でもなく、ドラゴンでも無い存在。錬金術によって生まれた獣人。恐らくそのどちらの種族にも受け入れられず、苦しい環境に置かれたであろう。差別……もされてきたんだろうな。この教室の空気を見るに。あの外見を個性として捉えられない人間からすると闇なんだろうな。
俺個人としては『面白い』。人間との生活様式の違いとか、食の好みの違いとか、是非とも聞いてみたい。
「ゲホゲホ……すみません。僕、風邪気味でして……ゲホォ!!」
次の瞬間、レンゼン先生が炎を吐いた。火炎の息は教室の天井を一瞬覆い、すぐに消えた。
「たまにこういうことがあるのでお気をつけて」
どう気を付けろと……。
「自分に降りかかりそうな時はフライパンで防御してください」
このフライパンは防御用かよ!
さすがのヴィヴィも顔を引きつらせている。
「さて談笑はこれぐらいにして、講義に入ろうか。まずこの授業でやることについて説明しますね~。この鉱物錬金学ウェポン科では、名の通り武具錬成の仕方や武具錬成の歴史について学んでいきます。全員がただの岩から剣や盾を作れるぐらいにはしますよ。では教科書を――」
始まってみると意外や意外。まともだ。
その辺の岩とか木を使って即席の武器が作れたら、いざという時役に立つだろうな。あらゆる素材を武器に転用できるようになりたいもんだ。
「武具の錬成には大きく2パターンがあります。鉱物や魔物の牙や爪を用いて行う『開発錬成』。それともう1つが……せっかくだし指名しますか」
ピン。と最前列で右手を挙げたのはルチアだ。
「元気がいいね。それじゃルチアさん。答えてみて」
「ハイ! もう1つはすでに出来上がっている武具と強化素材を使って錬成し、武具を強化する『強化錬成』です!」
「正解だよ」
継ぎ足しみたいなものか。俺の家の倉庫に眠っているクリスタルエッジも強化素材とやらがあればパワーアップできるのかな。
「先生!」
とフラムが元気よく手を上げる。
「フラムさんだったね。なにかな?」
フラムは「はい!」と立ち上がる。
「強化錬成のコツとか、教えて貰ってもいいでしょうか……!」
なるほどね。
いまフラムが取り掛かっている難題にもきっと強化錬成が役立つ。それゆえにコツを知りたいんだろう。
「それは――」
「先生。解説するのは危険かと思いますよ?」
ルチアが口を挟む。
「なんせ彼女はなんでもかんでも爆弾に変える爆弾ガールですから。爆弾を強化されてしまったら一体どうなってしまうことやら……学校ごと吹き飛ばしてしまうかもしれませんよ? 恐ろしや恐ろしや……」
ルチアが言うと、クスクスとクラス中で笑い声が木霊した。
フラムは顔を赤く染め上げ、椅子に座ってしまった。俯き、体を小刻みに震わせる。
「え~っとね、フラムさん、説明すると長くなるから、授業後に説明するね」
そう答えるとレンゼン先生は解説に戻った。
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3時間目も終わり、今日の授業全て終了。
ふと右隣の席を見ると、フラムが凄い勢いで落ち込んでいた。
「……爆弾ガール……ジブンは爆弾しか作れない能無しですよハイ……」
またネガティブガールになってしまった。
「……まぁまぁ。頑張ればいつか爆弾以外を作れる日も来るって」
「そう簡単にはいかないさ」
俺の慰めに水を差すは我らが最優の錬金術師ヴィヴィ様だ。
「フラム君が爆弾しか作れないのはマナの影響によるものだからね。マナの性質を制御するとなると相当な努力が必要だよ」
「マナの癖ってやつか。でも爆弾しか作れないなんてふざけた癖が本当に存在するのか?」
「彼女のマナは天異魔財というジャンルに属する物だ。癖というレベルを超越している」
ヴィヴィは右手を青白く光らせる。アレは多分、ヴィヴィのマナ……だと思う。
「みんなそれぞれマナには特徴がある。鉱物の錬成に有用なマナ、植物の錬成に有用なマナ、全て満遍なくこなせるマナ、逆に全ての錬成が苦手なマナ。ロストマナはその中でも特に尖った特徴を持つマナのことを言う。基本的に合成術においてはマナの影響をほとんど受けないが、ロストマナは合成術ですらその特徴を反映させる。それほどに強烈なマナだ」
「マナを改造とかはできないのか?」
「無理だね。マナには精神エネルギーも含まれている。魂の欠片と言い換えてもいい。マナを改造するというのは魂を改造する行為に等しいというわけだ。もしも彼女の持つロストマナを通常のマナに改造しようものなら……フラムという人格そのものを壊さないとダメだ」
「治しようのない欠陥というわけです……」
さらに落ち込んでしまうフラム。
「治しようはないけど、特別なカリキュラムを履修すれば制御は可能さ。ロストマナの特性のオンとオフを自在に変更できる錬金術師は多くいる。それに、欠陥だなんてとんでもない」
意外にもあのヴィヴィがフォローする。
「ロストマナに目覚めるのは100万人に1人といった確率。君の持つそれは間違いなく『才能』だよ。君のマナを嘲る人間はその真価をまったく測れていない……それこそ能無しだけさ」
ヴィヴィは別に慰める意図ではなく、普通に本心を語っただけだろう。だからこそ響くものがある。
フラムの顔からは不安や劣等感は消えていた。
「へぇ。物は言いようね」
いつの間にかヴィヴィの席の前に居たルチア。
「やっぱアンタをクラスのリーダーにするわけにはいかないわね。コイツのような危険分子を評価するなんて」
「危険、ねぇ。危険なのは君のように『特別』と『異端』を履き違え、才ある者を腐らせる存在さ」
ヴィヴィは立ち上がり、ルチアを真っ向から見る。その表情は余裕に溢れていた。
「例の錬成物勝負、こっちのメインはフラム君だ。必ず、君より優れた採掘道具を彼女は作る」
「ふふっ! 片腹痛いわ。私の錬成物が爆弾女の作る錬成物に劣るはずがないもの」
バチバチと火花散らす両者。
これじゃフラムが怖気づくんじゃ……と思ってフラムの方を見るも、フラムも瞳の中で火花を散らしていた。
「ヴィヴィさんの顔に泥を塗るわけにはいけません……ジブン、頑張ります!」
こっちは大丈夫そうだな。




