第55話 飛行訓練
花蝶の月42日。火曜日の朝が来た。
トトの開く品評会が46日。スプーシーの開く狩猟大会が47日。ブルースの決闘については期限なし。ま、選挙までにブルースを説得する必要があるから期限は選挙の日である55日と考えていいだろう。
家を出ると、ちょうど同じタイミングでフラムが家から出て来た。フラムはまったく同時に家を出たのがおかしかったのか、くすっと笑って右手を振ってくる。俺は右手を上げて応え、自然と2人で並んで通学路を歩き出す。
「驚きました」
「なにが?」
「イロハさんの顔を見たいなって思ってたら、すぐに会えたので」
モナリザが好きで良かった。もしも俺が一般男子だったら、今の一言&邪心の無い笑顔で落とされている。マジで。落とす気のない口説き文句程恐ろしいものもないな。
「ジブンは……このマナが大嫌いです。人を傷つけることしかできないこのマナが。でも、イロハさんのおかげで少しだけ好きになれそうです」
「俺なんかしたっけ?」
「『個性は力だ』って言いました」
「別に言い尽くされた言葉だろ」
「少なくともジブンは初めて言われましたよ。そして救われました」
フラムは右手を額に当て、敬礼のポーズをする。
「ジブン、頑張りますから!」
「……また気合入れ過ぎて事故起こすなよ」
「うっ……気を付けます」
フラムは二つ結びの髪を振り、小走りで俺の正面に回り込む。
「もしも上手くいった時は……」
フラムは少し照れたような顔で、
「褒めていただけると、気持ちつよつよです!」
「……その、お前がたまに言う『つよつよ』ってどういう意味だ?」
「つよつよって言うのは、『爆上げ』って意味です!」
ピカピカの笑顔でフラムは言う。
なんというか、フラムは素直で、嫌味なくて、おまけで少々小柄だから……可愛いんだよな。うん。異性に向ける可愛いじゃなくて、もっと別の、小動物に向けて使う『可愛い』。
妹とかいたらこんな感じなんだろうか……。
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火曜日の一時間目は空挺飛行訓練。
戦闘訓練と同じで外でやる授業だ。俺たちは空挺ダーツを行った〈ランティス競技場〉に集められた。
空挺の授業は人気なのか、クラスメイト達のテンションが高い。浮つき、喋り、今か今かと授業開始を待っている。
「静粛に!」
全員の前に立ち、その子は大声で命令した。
その子、と表現したことから察して欲しいが、大人ではない。小さな女の子……身長130cmほどの女の子だ。紫の長髪で、頭にはとんがり帽子を被り、体にはローブを纏い、背には杖。錬金術師というより、魔女っ娘って感じだ。
「わたしが空挺飛行訓練を担当するオードリー=マッケシェルトです! 出席番号順に並んでください!」
と言われても、誰も動かない。なんせ相手は子供だ。
「なによアンタ、迷子?」
ルチアが魔女っ娘オードリーに近づく。
「『アンタ』と呼ばないでください! そして迷子でもありません! わたしはあなたより10は年上ですよ!」
「ばっかばかしい。ほら、一緒にお母さん探してあげるからついてきなさい」
本心からの善行か、票稼ぎのための善行かわかりづらいが、ルチアはオードリー少女の手を取った。
オードリー少女は無言で背の杖を抜く。
「風錬成、【フーパ】!!」
竜巻が起こった。
竜巻はルチアを巻き上げる。
「うわあああああああああっっ!!!」
巻き上げられたルチアは上空より地面に落される。
地面に落ちたトンガリ帽をはたき、オードリー先生は被り直した。
「もう一度言います。並んでください!」
と涙目でオードリー先生は言った。
生徒たちは恐怖心からおとなしく並んだのだった。




