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【書き出しコンテスト受賞作/未書籍化】色彩能力者の錬金術師  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第2章 クラスリーダー総選挙

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第54話 俺のアトリエ

 ヴィヴィと話した後、俺は速やかに家に帰った。

 もう夜の7時だったため、着替えて食事を済ます。その後で庭に繋がる窓を開き、外に出る。


「やるか」


 生徒1人に与えられた敷地面積は広く、俺が建てた一軒家は面積の半分しか占領していない。残りの半分のそのまた半分、敷地面積の4分の1を使って、俺はアトリエを作ることにした。


「……錬金術師イロハ=シロガネのアトリエ1号だ。自分のアトリエ……ずっと憧れていたからな。ワクワクする」


 とは言っても、昔憧れたのは錬金術師のアトリエじゃなくて美術家のアトリエだけどな。

 庭には大量の木材、鉄材、ガラス材、ランプなどが置いてある。昨日、日曜日に揃えた物だ。木材は樹海で集め、ガラス材とランプは私財で買った。


 庭に虹の筆で合成陣を描き、マナスティック(1箱30本1000ゴルド)を使って合成術を行使する。扉と窓ガラスを合成し、最後に木材・鉄材・窓ガラス・扉・ランプをまとめて合成術にかけ、小屋を作り上げる。


 出来上がった小屋を眺める。良い出来だ。文句なし、イメージ通り。


 扉を引いて開ける。扉の設計も問題なし。窓も引っかかることなく開く。天井から鉄棒で吊るされたランプ、これは『マナランプ』といって、ランプの底についたマナドラフトに手を合わせることで灯りがつき、もう一度手を合わせると灯りが消える。マナを消費して燃えるため、電力などのエネルギーは必要ない。


 ランプをつけ、なにもない部屋で横になり天井を見上げる。この秘密基地感……堪らない。鼻の穴が広がり、ゾクゾクと鳥肌が立つ。無音の空間、夜風だけがたまに聞こえる。

 錬金釜とか錬金術に関する本とか持ってきてカスタマイズしていこう。今日はこの木材の香りを堪能しようか。


「この静かな夜がずっと続けばいい――」




――ドーン!!!!




 強烈な爆発音が聞こえた。体が自然と跳ね起きる。


「……フラムの家の方か?」


 梯子で俺の家の屋根に上がり、フラムの家を見る。

 フラムの家……の屋根が突き破られ、そこから黒煙が漏れていた。


「ちょいとやばいか?」


 俺はフラムの家に直行する。

 チャイムを鳴らすが反応なし。玄関扉のドアノブを掴み、力を込めるとドアノブが下がった。鍵は掛かっていないようだ。女性の家に無断で入るのはどうかと思うが、最悪の事態を考え突入する。


「フラム!」


 玄関から名前を呼ぶも反応なし。1階を探してみるが誰もいなかった。

 階段で2階に上がる。2階は1つの大部屋のみで、大部屋には錬金窯を始めとして錬金術関連の道具が多数あった。恐らくフラムは2階をアトリエにしているのだろう。


 そのアトリエの中心で、フラムは倒れていた。フラムの周囲には鉄片が散らばっている。


「こいつはまずいだろ……!」


 フラムの服は破片に切られたのかズタボロであり、水色の下着が見える程だ。

 これは予想だが、フラムは錬金術をして、爆発物を作り、その爆撃によって気を失った。いつものようなコミカルなリアクションじゃ済まない規模の爆発だったんだろう。


 俺は破片に気をつけつつフラムの元へ行き、その体を抱き上げ破片の散らばった2階から1階に降りる。


 俺は1階のフラムの部屋の寝室に一旦フラムを寝かせ、ボロボロになった服を脱がせる。下着姿になったフラムの体の隅々をチェックする。


 胸に耳を当てる。心音は問題なし。顔色もそこまで悪くはない。呼吸もOK。


 目立った外傷はない。切り傷が幾つかあるだけだ。でも内臓にダメージがあるかもしれないし、病院に連れて行きたい。しかし6番通りはここから結構距離がある。まずはヴィヴィに助けを求めるべきか? 


「……いたた……」

「フラム! 大丈夫か!」


 フラムの瞼が開く。


「イロハ……さん。どうして?」

「隣の家から爆発音がしたからな。そりゃ気になって見に来るさ」

「あはは……すみません。大したことないです。爆発の音が大きくてびっくりして気を失っただけです」


 フラムは体を起こし、自分の体を見る。


「え」


 フラムは自身の下着姿を見て、顔をワインレッドに染めていった。


「フラム。一応言っておくが……俺は、モナリザ以外の女性に興味はない」


 なんて言い訳虚しく手痛いビンタを受けた。



 --- 



「す、すみません! 助けてくれたのにビンタだなんて……」

「いいんだ。俺も、もう少し気を遣うべきだった」


 フラムが私服に着替えるのを待った後、俺はフラムと一緒に2階の掃除を始めた。2人で箒を動かしながら会話する。


「本当に体は大丈夫なんだな?」

「はい! 切り傷は染みますが、それだけです」

「ならいいんだ。そんで、一体なにを作ってたんだ?」


 散らばっているのは鉄片と木片ばかりだ。木と鉄で作る物……候補が多すぎて絞り込めない。


「ツルハシです」

「ツルハシ……あの地面とか掘るやつか?」


 簡単に言うと木の棒の頭部に先の尖った鉄の棒を連結させたものだ。


「はい。錬金術師は採掘にツルハシを使いますから……」

「まさか、トトの件で使うための……」

「そうです。でも、ダメでした。なんとかこのマナの特性を抑制して、ツルハシを作ろうとしたけど……結果はあの有様です」


 箒を動かすフラムの手が止まる。


「ホント、ダメダメです。今回ぐらいは役に立とうと思ったんですけどね。ホント、役立たずです、ジブン」


 フラムの両目には涙が溜まっている。


「……少し、昔話をしてもいいですか?」

「ああ」


 フラムは顔を下に向ける。


「むかしむかし、あるところに、何の取り得もない錬金術師の女の子がいました。その女の子は勉強ができず、運動能力も秀でた部分がなく、手先も器用ではない。しかも、その女の子が錬成して作るものは全て爆発物になる……とんだ欠陥品です」

「……」


 俺は黙って聞く。


「なにをやっても上手くいかない。そんな中、ある素敵な女の子を新聞で見たのです。その女の子は色がわからないという欠点を抱えながら、とても凄い賞を取りました。女の子はインタビューでこう聞かれました。『色がわからないという欠点を抱きながら受賞するなんて凄いですね』と。女の子はこう返しました。『私に欠落している点などございません。私は生まれつき色がわかりませんが、私という人間はこれで完成形なのです。なにも欠けてはいません。プラスもマイナスも含めていまここに立っているのです。だから、これが完成形なのです』――と」


 アイツらしいな。


「ダメダメな方の女の子はその言葉にとても励まされました。プラスもマイナスも含めて自分なのだと……女の子は彼女の堂々たる姿に憧れました。自分も、あのようになりたいと。でも」


 フラムは顔を上げ、だ~と泣き出す。


「やっぱりダメダメのダメでしたぁ~!」


 今日の失敗はかなりショックだったみたいだな。


「ダメダメかどうかはまだわからないだろ。採掘道具の作成にお前の特性を使えばいいのが作れるんじゃないか」

「ジブンのなんでも爆発物にする力がですか?」

「ああ。まずはそのマナをマイナスに捉えるのをやめろって。個性は力だ」

「イロハさん……」

「ほら、ダイナマイトだってさ、本来は土木作業を早く終わらせるために開発されたもんだろ。物は使いようさ。そうだな……火力を自由に調整できるダイナマイト、みたいなのを作れたらルチアに勝てるんじゃないか?」

「火力を調整できるダイナマイト……」


 フラムの目に輝きが灯る。


「イロハさん! ありがとうございます! ジブン、閃きました!」


 フラムは興奮のあまり、その小さな両手で俺の箒を持つ右手を包む。フラムの温かい手の感触が右手を包み込む。


「そ、そうか。完成を楽しみにしてるよ」

「はぁい!」


 フラムはぶんぶんと俺の手を上下に振る。

 俺だからまだいいけど、コイツは無自覚に男子を勘違いさせるタイプだな。距離感が近い。

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