第53話 3つの課題
イロハ君と別れ、新たに4人の勧誘に成功した私たちは『マイニングファクトリー』に足を運んだ。そこにいるクラスメイト、トト君に接触するためだ。中はかなり混みあっていて、多人数で入ると迷惑になると考えた私は、フラム君とアラン君には外に待っていてもらい、1人で中に入った。
マイニングファクトリーは採掘代行&鉱物売買を請け負うファクトリーで、そのファクトリーハウスは岩で出来ていた。中はつるはしを持った汗臭い男たちがうようよしていて、窓が少なく換気性も悪く、私にとっては地獄のような空間だった。ただ売られている鉱物は一般市場には出回らない物ばかりで目を引かれた。苦汁と美酒を同時に飲まされている気分だったね。
トト君は防護服で頭からつま先まで身を隠した女子で、目立つからすぐに見つかった。
「トト君。ちょっといいかな?」
「はい。いいですよ。って、ヴィヴィさんじゃないですか! まさかヴィヴィさんも鉱物に関心が!?」
「落ち着きたまえ。確かにここにある鉱物は興味を引く物ばかりだが、今回は別件だ」
私に投票してほしい、とトト君に伝えると、トト君は難色を示した。
「すみません。トトは誰の名前も書かないで投票するつもりです。下手に火種を生みたくないので……」
「だがそれでは最悪クジ引きで決められてしまうよ? もしも君が選出されれば、余計な仕事を負うことになる」
「そうなったらそうなったらで仕方ないかと」
他人との関係が悪くなるぐらいなら、面倒を背負う方を選ぶ。というわけか。
「それならば、何か欲しい物とかないかな?」
「欲しい物? あ、買収する気ですか?」
「ああ、うん。そうだね。ハッキリ言うとそうだ」
でもハッキリとは言ってほしくないワードではあった。
「買収されてヴィヴィさんに投票したなんて、余計に角が立ちますよ」
「しかし……」
「待ちなさいよ」
そこで現れたのがルチア君だ。
「無効票がこれ以上増えると困るわ。アンタには必ずどちらかに票を入れてもらう」
無効票3票による無効選挙が最も避けるべき事態だとルチア君は言う。もしもクジ引きで適当にクラスリーダーが選ばれればクラスの質は間違いなく下がると、そう力説した。
ルチア君の言葉は半分嘘で半分本音だろう。彼女にとって最も避けるべき事態は無効選挙ではなく、私に敗北することだ。私に敗北すれば彼女はファクトリーを変更し、私の傘下に入らなくてはならないからね。
「私から提案がある」
ルチア君が提案したのは錬成勝負。私とルチア君で錬成物を造り、出来の良さを競い合う。勝利した方がトト君の票を手に入れる、というもの。錬成物の優劣はトト君が判断する。
「もちろん、結果が悪かったとしてもアンタを恨むことはしない。公平な勝負よ。恨みっこなし」
「そこまで言うなら――わかりました。それでいいです。ですが、トトはポーションとか作られても良し悪しはわかりません。錬成物のテーマはトトから出してもいいですか?」
ルチア君が私に意見を求める。私は「どうぞ」とジェスチャーする。
「最近、トトの力では採掘のできない鉱物が増えてきて困っているのです。そこでお2人に、『非力な人間でも硬い鉱物を採取できる道具』の作成をお願いしたいです。もちろん、材料費と報酬はお支払いします」
「へぇ。面白いじゃない。私は構わないけど、アンタはどう?」
ルチア君は挑発的な目で私を見る。やれやれ、血気盛んで可愛いものだ。
「いいよ。だけど条件がある。私は助手を1人つけさせてほしい。もちろん、ルチア君も必要とあらば助手をつけてもらって構わない」
「なによ、私と1対1で競うのは不安なの?」
「ううん。絶対勝てると思うよ」
私が淡々と言い放つと、ルチア君は「ぐっ!?」と唇を噛んだ。
「トト君の依頼……それを最大限叶えるためにはある人物の協力がいると判断したんだ」
「……イロハ=シロガネでしょ」
「さぁて、どうかな」
「別に。私はアンタが助手を百匹つけたって構わないわ」
ルチア君は助手の件を承諾する。
私とルチア君、トト君はスケジュールを合わせ、その場は解散となった。
外に出ると、フラム君の姿はあるがアラン君の姿がなかった。
「アラン君はどこに行ったのかな?」
「アランさんならスプーシーさんを見かけて、後を追いかけていきました」
スプーシー君も非ルチア派の人間。狼の耳を持つ亜人種の女子。彼女を取り込むために後を追ったのだろう。助かるね。
私もアラン君の後を追おうとしたのだが、探しに出る前にアラン君が戻ってきた。スプーシー君の姿はないので交渉はもう終わったのだろう。
「勝手に離れてごめんね」
「構わないさ。それで収穫は?」
「微妙、かな。厄介な条件を出されたよ」
「おやおや君もかい」
お互いに情報を交換する。
アラン君がスプーシー君に出された条件は『狩り』だった。ルチア陣営とヴィヴィ陣営でそれぞれ1人を選抜し、狩り勝負を行う。より大きな獲物を倒した方に投票してくれるらしい。勝負は6日後。ちなみにトト君に錬成物を披露するのは5日後だ。
さらに――
「実は途中でブルース君にも会ってね。彼にも課題を出されたんだ」
ブルース=ゲイル。学生にしては大人びている男子生徒だ。スプーシー君のような亜人種より、さらに獣の気が強い獣人種。戦闘訓練でアラン君やスプーシー君に並ぶ戦闘力を披露していた。彼もまた非ルチア派の人間だ。
「『俺を倒した者の言うことを聞く』、だってさ」
「それはつまり……ブルースさんを倒せれば、票を入れてくれるってことでしょうか?」
「そうだろうね。アラン君なら倒せるんじゃないかな」
「無理だよ。手合わせしたからわかる。本気でやればボコボコにされるさ」
傍から見る分には互角に見えたけど、実際に戦ったアラン君がそう言うならそうなのだろう。
「ブルース君の件は後回しだ。まず片付けるべきはスプーシー君、トト君の課題だね。また明日、イロハ君を交えて話し合おう」
・ブルース君をルチア陣営より先に倒す。
・ルチア陣営に狩り勝負で勝つ。
・ルチア君より優れた錬成物を造る。
今の我々の課題はざっとこの3つだ。




