第47話 ハウスファクトリー
月と違ってアルケーの曜日は外の世界と同じだ。
月・火・水・木・金・土・日。土曜と日曜の授業は休みである。
今日は土曜日。休日だ。
待ち合わせ場所である1番通りジャック像(カボチャ校長の銅像)の元へ向かう。待ち合わせ10分前に銅像を視認できる場所に到着した。
すでに銅像の前には私服姿のヴィヴィとフラムが待っていた。銅像の前に行きたいが……躊躇われる。
ヴィヴィもフラムも今日はミニスカートで、上半身も薄着だ。ヴィヴィは太ももまであるニーソックスを着用し、露出を抑えているがフラムは生足を晒している。
周囲の目線が2人に集中し、ナンパ予備軍が大量にできている。どいつもこいつも髪を整え、誰からナンパに行くかアイコンタクトしている。
ヴィヴィの赤と青が混じった髪色は人の目を引く。そして引いた目を逃さない容姿をアイツは持っている。フラムは低身長で愛嬌のある顔をしている。3秒見ればそのあどけない魅力に釘付けになるやつ多発だ。
あんなところにこの冴えない男代表の俺が突っ込むのか。せめて眼鏡美形男子アラン君がいれば迷いなく突っ込めるのだが。アランが来るまで待とうかな、と考えたところで、
「あ、イロハさん! こっちでーす!」
フラムに見つかった。
仕方なく銅像の前に行く。舌打ちの雨が降り注いでくる……。
「おはよフラム」
「おはようございます」
「おはようございます、団長」
「私より遅く到着するなんて部下失格だね」
「集合時間の10分前だから妥当なタイムだろ。それとお前の部下になったつもりはない」
そして集合時間より遅れること10分。
「ごめん。遅れたよ」
にこやかな笑顔と共にアランが到着。
「遅いぞお前……!」
おかげで男達の嫉妬の眼差しを俺だけが長く受ける羽目になったじゃないか……!
「気を付けたまえよ。遅刻は他人の時間を奪う行為だからね」
「あはは……ごめんなさい。朝は苦手で」
全員が揃ったので不動産屋もといハウスファクトリーに行く。
ハウスファクトリーは家具の売買から土地の管理、建設等々多岐に渡って活動するファクトリーだ。その本部は1番通りに大きく陣取っている。ハウスファクトリーの本部は自分たちの建設技術をアピールするかのような壮大で芸術的な建物だ。まるで神殿のよう。
ハウスファクトリー本部の中に入ると、窓口が20個程あった。
俺達は空いている窓口に行き、用意された椅子に座る。
「いらっしゃいませ。こちらでは土地に関しての相談を承ります」
女子生徒が応対する。
制服のサブカラーが黄色……二年生か。
「私たちのファクトリーで新しく店を出すのですが、どこか都合の良い場所は空いていませんか?」
ヴィヴィが率先して会話する。
「そうですね……まず予算はいくらほどですか?」
「予算? 土地を借りるのにお金が必要なのですか?」
「住居と違い、ファクトリーで店を出す場合は月ごとに土地代を回収しています。基本1番通りから順に土地代は高く、番号が大きい通りの土地ほど安くなります。これは通りの番号が大きくなるほど人通りが少なくなるためです」
「1番通りでいくらぐらいですか?」
「1区画の面積が160㎡で、大体月300万ゴルドです」
「300万!?」
「わわっ! た、高いですね……」
この学校に来た際に配られた金が10万ゴルドだったか。
最悪赤字になることも考えると、絶対無理だな。
「実際、店を開いたら月にどれぐらい稼げるんだろうね?」
「今の状態じゃちょっと読めないかな。黒字になるかもわからないよ」
ヴィヴィの言う通りだ。
俺たちは経営に関して完全な素人。初っ端から大きく黒字を出せるとは思えない。
こういう時、普通なら顧問の先生が一時的に金を出してくれたり、ある程度の見積もりを計算してくれると思うのだが……コノハ先生にそれは期待できない。だからヴィヴィもコノハ先生に声を掛けなかったのだろう。あるいは声を掛けたが来てくれなかったか。
「そういや、ファクトリーには学校から運営費や研究費が支給されるはずだろ? それはいくらぐらいなんだ?」
「ジョシュア先生に聞いたけれど、基本的に支給金はそのファクトリーの成績に依存するそうだ。何の実績もない場合は団員1人につき月2万ゴルド」
「4人で8万ゴルドか。全然だな」
「うん。なんにせよ、月300万ゴルドはリスクが大きすぎる」
「でも、あまり節約すると客が全然いない場所に店を開くことになるよ。1番通りと9番通りじゃ人の数が10倍近く違うからね」
アランの発言は正しい。
1番通りから4番通り、7番通りから9番通りが商業地区なのだが、7番通りから9番通りはあまり活気がない。その理由は5番通りが警備区域(警備関係の団体が集まる通り)で6番通りが医療区域(医療設備が集まる通り)だからだ。二つ特殊な通りを挟むことでピッタリと商業ラインが途切れている。
「4番通りだとどれくらいの値段ですか?」
ヴィヴィが聞く。
「大体月に100万ゴルドというところでしょうか」
それでも100万ゴルドか。高いな……。
「ちなみに9番通りだと?」
俺が聞く。
「25万ゴルドですね」
金銭的にはここがギリギリの範囲か。最初の一か月分は手持ちで払えるし、それからも月25万……月の支給額である8万引いて17万稼げば問題なし。17万稼ぐのはそこまで難しくないはず。
「わかりました。一度持ち帰って話し合います。対応ありがとうございました」
ヴィヴィが会釈する。
「いえいえ、またのご来店をお待ちしております」
俺よりたった一つしか年上じゃないのに、大人顔負けの応対だな。
ハウスファクトリーを出て、近くの喫茶店で会議を開く。
「どうする? 9番通りなら余裕だろうけど、客足は少ない。先は短いよ」
アランが言うと、ヴィヴィは頬杖をついて、
「欲を言えば1番通りだけど……月300万ゴルドは高すぎる。9番通りが本命かな。オーロラフルーツの出来次第で4番通りを狙ってもいいけどね」
「オーロラフルーツはヴィヴィの家の庭で育てているんだったな。あとどれぐらいで実はできそうだ?」
「オーロラフルーツの樹の成長は早い。恐らく実を成すのは花蝶の月50日ぐらい」
早すぎるだろ。
まぁ、錬金術師の世界の樹木だ。俺の常識で考えるだけ無駄か。
「そういえば、開店の日ってもう決めてあるのですか?」
「水魚の月の10日までにはオープンしたいものだねぇ」
店の建築、内装・外装の装飾、仕入れ。これらを学生だけでやるなんて、普通なら半年以上かかるけど……錬金術があれば問題ないと言えてしまう。建物なんて1日で錬成するからな。こいつらは。
「今日のところはここで解散とする。が、1つみんなに宿題を出す」
「宿題?」
「今月中に商品案を1人1つずつ考えてきて」
「ファクトリーで出す商品のアイディアってことですか」
「そう。私達が開くのはゼネラルストアだからね。とにかく商品の幅が必要だ。オーロラフルーツ関連の商品だけじゃ無理がある」
仰る通り。
しかしここが難しい所だよな……コノハ先生が言っていたように、食材にせよ雑貨にせよ、すでにそれぞれの分野の専門店があるからな。
「では、ここで解散とします。お疲れ様」
すっかり団長として仕切り役が板についてきたヴィヴィであった。




