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【書き出しコンテスト受賞作/未書籍化】色彩能力者の錬金術師  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第2章 クラスリーダー総選挙

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第45話 春の日

 花蝶の月38日。俺の国の日付で言うなら4月8日。


 この国の四季がどんな感じかは知らないが、肌に感じるこの優しい風と陽の柔らかさは俺の知っている春日和と違いない。

 正直、この国へ来てからもう一か月ぐらいは()っている気分だが、まだ一週間しか経っていないのだから驚きだ。それだけ濃密な一週間だった。


 今日から本格的に授業が始まる。


 昨日の夜、教科書をまだ買っていないことを思い出し、パーティーを抜け出して慌ててブックファクトリーで『キメラ図鑑』やら『鉱物錬金学Ⅰ』やらわけのわからない本を買い集めた。教科書についてはヴィヴィの責任もある。アイツが教科書リストを俺に渡し損ねていたのだ。その点について責めても『色々あって忘れていたのだから仕方がないだろう』と反省しないのだから腹が立つ。


 教科書をストレージポーチ(なんでも入る袋)に詰め込んで準備完了。


 空は快晴、春の風が通り抜ける11番通りを軽い足取りで歩いていく。ただの勉強は好きではないが、錬金術の勉強なら別腹というものだ。錬金術師は何を学ぶのか、楽しみだな。



 ---



 朝のホームルーム。

 基本、ジョシュア先生が連絡事項を伝える時間だ。所要時間は10分。


「今日から授業が始まる。どの教科も大切だが、特に鉱物錬金学・植物錬金学・生物錬金学の3教科は重要だから、よく授業を聞くように」


 時間割を確認したが、確かにその3科目は授業数が多かった。

 それからジョシュア先生は他愛ない世間話をして、ホームルームを締めくくった。ジョシュア先生が出て行ったあとで生徒たちは授業の準備を始める。


 時間割を確認。


 今日の1時間目は生物錬金学キメラ科(略称:キメラ学)となっている。


「なぁヴィヴィ。生物錬金学キメラ科とただの生物錬金学はどう違うんだ?」


 隣の席のヴィヴィに聞く。


「生物錬金学は生物全般を対象とした授業で、キメラ学は生物の中でもキメラに限定した授業だよ」


 生物全体を広く浅く学ぶのが生物錬金学で、キメラ学はキメラに限定する代わりに深く掘り下げる……ってことかな。


「悪いな。多分これからも授業のことで色々と聞くことになる」

「構わないさ。君をここへ呼んだのは私なのだから、私には君の面倒を見る責任がある」


 ならば昨日の教科書の件は責任感が足りないと言わざるを得ないな。


「嘘……」


 右隣の席、フラムから落胆の声が聞こえた。 

 続いてアラン、ヴィヴィが同様の驚きの声を漏らす。全員、視線は教室の前方――1時間目の担当教員に向いている。


「嘘だろ……」


 思わず、俺も声を出してしまった。

 なぜならとても嫌味な人物がそこにはいたからだ。


「私語を慎め。この授業内で俺の許可なく喋ることは許さん」


 1時間目キメラ学――担当教員、コノハ=シロガネ。コノハ先生の隣には例の如くメイドのラビィさんが居る。


「そういえばあの人、一応肩書き教師だったな。そりゃ、授業も受け持ってるか」


 と俺はガッカリ全開の声で呟く。

 ヴィヴィは口を開きかけたが、コノハ先生の視線を感じて口を閉じた。


「イロハ=シロガネ、減点1」


 と名指しで言われた。


「私語は減点1、居眠りは減点2だ。減点が10になったら強制的に退学処分とする」

「なっ!?」


 文句を言おうとも思ったが、それでまた減点されても困る。俺は黙ることにした。

 この授業の支配者は奴だ。抵抗はできまい。


「それでは授業を始める。キメラ学Ⅰの12ページ、図鑑の8ページを開け」


 こうして最初の授業が始まった。最悪の滑り出しと言わざるを得ない。

 それから淡々と授業は進んでいった。ずーっと座学だ。

 睡魔が教室内を漂う。その睡魔に特に目を付けられたのは俺の左隣、フラムだった。フラムは振り子のリズムで首を上下に揺らしている。瞳は半開きで、口角からは涎が垂れていた。俺はフラムを起こそうと手を伸ばすが、


「フラム=セイラー。減点2」

「はうっ!?」


 一歩遅かった。すまんフラム。

 授業の終わりを知らせるチャイムが鳴り、コノハ先生は手に持った教科書を閉じた。


「今日の授業はここまで」


 コノハ先生が扉を開き、廊下に出たところでジャッククラスの生徒たちは一斉にため息を漏らした。


「必要最低限って感じだな。つまらない授業だった」

「説明はわかりやすかったじゃないか」


 優等生のヴィヴィ殿はコノハ先生の授業が肌に合ったようだ。

 フラムはウトウトしており、アランは何食わぬ顔でノートを机にしまった。

 あっという間に10分休みは終わり、2時間目がやってくる。


 教室にやって来たのは――


「さっきぶり。鉱物錬金学の担当を務めるのは俺だ」


 ジョシュア先生だった。

 クラス中で安堵のため息が漏れた。


「いきなり座学もつまらないだろうし、今日は錬金術の実習をしよう」


 2時間目の授業では全員に重い紙袋が配られた。

 紙袋の中を覗くと、石が紙袋いっぱいに詰めてあった。

 どれも何の変哲もない、俺の国にもある普通の石だ。


「この配った石を錬金術で加工して、自由に石像を作れ。どんな石像でもいい。動物でも人間でも、好きに作ってみろ」


 教室の前の水道で合金液(メタルポーション)を小型錬金窯に入れて、席に戻る。全員がまばらに石像の錬成を始める。


「錬金術師にとってもっとも必要な能力はイメージ力と言っても過言ではない。目の前の石の構成物質、どういう材質でどれくらいの重量かをしっかりと確かめ、完成形の姿形・重量を細部までイメージしろ」


 石像か。これは俺に利があるな。

 美術の勉強の過程で多くの石像を見てきた。造形勝負なら錬金術師相手でも負けない。


「自信あり、って顔だね」


 ヴィヴィが挑発的な顔で言ってくる。


「どっちが先生を唸らせる石像を作れるか、勝負するか?」

「いいねぇ。面白そうだ」


 元美術家として負けられん。


 窯に20個近くの石を突っ込む。

 イメージ……イメージ……鎧や剣を身に着けた老騎士の石像のイメージだ。

 石にはそれぞれ色がある。その多種多様な色を頭の中で整え、まとめ上げる。


 よし、OK。いける。


 マナドラフトに手を合わせ、錬成を始める。小型錬金窯の筒から錬成物がシャボン玉に包まれ打ち上げられる。シャボン玉付きの落ちてくる石像を手に取る。


 イメージそのままとはいかない。イメージの70%ぐらいの完成度。まだまだ錬金術のレベルは低いってことだな。ヴィヴィの方を見る。ヴィヴィは神秘的な女神像を作っていた。俺の石像に負けず劣らず美しい出来だ。色合いが少々悪いが、それを補って余りある造形美だ。


 ヴィヴィも俺の石像を見る。


「むぅ」


 と悔しそうな顔をした。

 正直、両者の石像の出来は互角。後はジョシュア先生の趣味だな。


「へぇ。2人とも良い出来だな」


 ジョシュア先生は俺とヴィヴィの石像を交互に見る。


「ジョシュア先生、どちらの石像の完成度が高いと思いますか?」

「そうだな~。イロハの石像は力強さを感じるし、いま作ったのにまるで古代から存在しているかのような厳かな空気を感じる。ヴィヴィの石像は女性らしい柔らかい体つきが細かく再現されていて、神々しさを感じるほど美麗だ。甲乙つけがたい……」


 その時、ゴォン!! と右の席から爆発音がした。


「え? フラム?」


 ジョシュア先生がフラムの方を見る。

 フラムは黒こげの顔で振り向き、「こほ……」と小さく煙を吐いた。


「おいフラム。俺は石像を作れと言ったんだが」

「はい……立派な石像爆弾ができました……」


 フラム=セイラ―は錬成するものすべてが爆弾となる。石像爆弾を作って、爆発させたのだろう。


「これもイメージの問題ですかね? ジョシュア先生」

「イメージで爆弾は作れねぇよ」


 ある意味、このクラスで一番ジョシュア先生を唸らせたのはフラムであった。

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