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色彩能力者の錬金術師  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第3章 千面道化襲来

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第133話 無人島試験④

 ルチアとロアに合成してもらった木製台車を引いていく。台車の上には木樽を積んである。

 ガタン! と台車が木の根に引っ掛かって浮いた。


「うおっと! ……このガタガタの地面を台車で行くのは無理ないか?」

「そうだね。引っかかると大変……!」


 アニスは木の根に木の車輪の噛ませてしまった。


「よっと」


 俺はアニスの台車を蹴り上げ、木の根から脱出される。


「ありがとイロハ」

「どういたしまして」


 台車を押して森の中を進んでいく。


「ねぇ、イロハはさ、ヴィヴィ=ロス=グランデって知ってる?」

「ん? そりゃ知ってるさ。同じクラスで、しかも成績優秀者だからな」

「ヴィヴィはさ、学園生活……楽しんでる?」

「? まぁ楽しんでるんじゃないか」


 悩みつつもな。


「それがどうかしたか?」

「ううん。別に」

「お前はヴィヴィに興味があるのか?」


 後ろから返事が来ない。 

 ふと、後ろを見ると、アニスは両目を見開いていた。口元だけ笑っている。


「うん。興味ある」

「そ、そうか」


 ま、同世代でトップレベルの錬金術師だもんな。ヴィヴィのこと、気になっている奴は多いだろうな。


「イロハは家族いる?」

「もう誰もいないな。お前は?」

「お姉ちゃんが1人居るよ」

「へぇ。仲いいのか?」

「良かった。って言うのが正しいかな」

「仲違いしたか」

「うん。でもね、アニスは悪くない。お姉ちゃんが全部悪いんだ」


 これは踏み込んでいい話か判断が難しいが、


「仲違いの理由は?」

「裏切り」

「端的過ぎるな」

「アニスはね、お姉ちゃんが一緒なら、どんな地獄でも耐えられたんだ。お姉ちゃんが一緒なら、どんな人生でも満足だった。でもね、お姉ちゃんは居なくなったの。アニスを置いて」


 声が怖いな。しかも急に饒舌だ。

 姉の話題は地雷か? つついてみるか。


「部外者がこんなこと言っても余計なお世話かもしれないが、1人の人間に依存するってのは危険だと思うぞ」

「……」


 返答が無い。地雷を踏んだかな。


「そういう君は誰かに依存したことあるの?」

「……それは……ないな」

「依存って気持ちいいよ。やってみなよ」

「やってみなって……」

「アニスに依存していいよ。アニスの事、好きにしていいからさ」


 俺はさすがに足を止め、アニスの方を向く。


「お前、正気か? さっき会ったばかりの人間にそんなこと言うもんじゃないぞ」

「そうなの? 別にいいじゃん。好きにしてよ。髪も、顔も、体も。好きにしてよ。アニスに溺れてよ……」


 深く、暗い、真っ黒な瞳。

 不気味に吊り上がる両口角。

 こりゃまた見たことの無いタイプだ。

 俺はアニスの頭に手を置き、撫で回す。


「え……?」

「好きにしていいんだろ」


 そのまま髪が乱れるぐらい撫でまわす。


「ちょ、ちょっとイロハ! そういうのじゃないんだって! アニスが求めてるのは!」

「うるさい。いいかアニス、よく覚えておけ。俺はな、お前みたいな小娘に興味は無いんだよ。もっと穏やかで、母性があって、ミステリアスな女じゃないと俺は落とせない。依存できない。さっき言ったこと訂正するよ。俺にも依存している女が居る」


 俺はアニスの頭から手を放す。


「それって、もしかしてヴィ――」

「モナリザだ!」

「……は?」

「俺はな、モナリザに恋をしているんだよ! だから! 俺に『男』を期待しても無駄だ。さっきは依存は良くないって言ったけどさ、これも撤回だ。依存も使いようさ。それが努力に繋がるなら悪くない」


 実際、俺はモナリザに依存しているおかげで頑張れているからな。


「ふ、ふふっ」


 アニスが笑った。

 これまでのどこか含みのある笑顔じゃない。心から笑っている感じだ。


「おっかしー! 君、面白いよ! モナリザに恋って……ははっ!」

「そんな笑うか……」

「笑うよ。モナリザかぁ……昔、ある人に見せてもらったことあるけど……アレは確かに良い絵だった」

「お。モナリザの良さがわかるか」

「でも恋っていうのは……ふふっ! 理解できないっ……!」

「いつまで笑ってんだよ……」


 いまいち掴みどころのないやつ。

 今の笑顔が噓じゃないことだけを祈るよ。

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