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アルマンド 皇(すめらぎ)警部登場(2)

6


すめらぎ警部の殺人現場での撮影は小1時間続き、2人の警官を残して皆既に引き上げていた。途中までは鑑識の古株である町田が採取した証拠品などを皇にていねいに説明していた。毎度のことなので早めに切りあげるため積極的に町田が対応してくれたともいえる。

満足した表情の皇与一はスタジオ内の受付に立ち寄り中に声をかけた。

「すみませーん」

その声に顔を出したのは40歳前後の薄い口髭のある男性だった。

「はい?」

「こちらのスタッフの方ですか」

「はい。店長をしている飯田といいます」

「わたくし、皇と申します」

皇は手帳を出すと飯田に向けていった。

「すめらぎ… さん、なんでしょう?」

「あのう」

そういって皇のスマホが警察手帳と入れ替えに飯田に向けられた。

「録音させてもらってもよろしいですか?」

「あ、はい」

そう答えた飯田に、頭を軽く下げて皇はスマホをテーブルに置いた。

「いえね、チェロを弾く人はこういうところで練習するのかなと不思議に思いまして、どうなんでしょう?」

「ああ、確かに」

飯田はうなずいて見せた。

「金管とか木管の人なんかはたまにお見えになりますけど、弦の方はあまりいないですかねえ」

「金管というのはラッパとかですか」

「そうです。トランペットやサックスとかですね。結構音出るんで家ではちょっとね」

飯田が左の眉を上げて小刻みに頭を振った。

「チェロを弾く人がここに来るのは珍しいんですね」

「まあ、来ませんね。バイオリンとかビオラの人はカラオケボックスとかも利用するみたいすけど」

「チェロは大きいからカラオケボックスにはあまり行かない?」

皇が飯田の後に被せた。

「まあ、そうっすね」

飯田の口調から警戒感が薄まった。

「でも、弦楽器はそんなに音聞こえないっすよ。マンションの隣の家とかには」

「ほう、ではなぜ西本さんはこちらを利用されていたんでしょうか?」

「ああ、それは家より音響がいいんすよ。特にあの人のよく使うCスタは」

「ほうほう」

皇が頷く。

「ではネットなどで調べて利用されていた?」

「いや、文吾っすね」

皇の黒いキャップを被った頭が大きく右に傾いた。

「ああ、池尻文吾っつう、まあいってみれば西本さんの弟子です。あっ、この子はバンドでギターも弾いてるんで」

黒いキャップが細かく上下に動いた。

「お弟子さんの紹介で師匠の西本さんがご利用になっていたということですね」

今度は飯田が頷いた。

「その池尻さんという方はどんな方なんでしょう?」

「あー。文吾はまあ、なんつーか天才っね」

皇の黒いキャップが少し右に傾いた。

「小さい頃からチェロやっててめっちゃ上手くて芸大入ったんすけど、中学からエレキも始めたら何でも弾けちゃって。パットメセニーやらアラン・ホールズワースやらほんとに有り得ねえつうくらい難しいのをピロピロ弾くんでぶったまげました」

飯田は腕組みして遠い目で上方を向いた。皇はひたすら関心を示すようにうなずいていた。

「なぜそんなに上手なんでしょうか?」

皇が問うと、

「文吾はめちゃくちゃ練習するんです。人の3倍はやりますね。音感もいいし、リズムもいい。加えてもの凄い練習だから、そりゃあ上手くなりますよ」

と飯田が応えた。

「なるほど。その池尻文吾さんは最近こちらに?」

という皇の問いに、

「あっ!」

と飯田は叫んだ。

首が伸びて黒いキャップをかぶった頭が上に2cmくらい浮かび上がるのを朝草優香はその後方から確認した。

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