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アルマンド 皇(すめらぎ)警部登場 (1)

5


朝草優香あさくさゆうかは運転席から出るとブラックメタリックのドアをバタンと音を立てて勢いよく閉めると、助手席側から出てきた黒いキャップを被った男を冷ややかに見つめた。

「警部、大丈夫ですか」

朝草の声のトーンには心配よりも嫌味が強めだった。

男は右手を上にあげて軽く振った。

「いや、だから運転するっていったのに」

声が弱々しい。

「朝草くんは運転が荒いよ」

「そんなことないですよ。わたしは上司に運転させるなんて出来ないんで」

皇与一すめらぎよいちは辛そうに顔をしかめてポケットからスマホを取り出すと、カメラを開けて赤い録画ボタンに触れた。

「もう録るんですか?」

朝草の問いには答えずすめらぎ与一はぐるりと辺り一帯を撮影した。左前方が現場だ。警察車両とパトカーが停めてあり、制服警官がこちらを向いて立っていた。

「少し急いだ方がいいですよ」

朝草に急かされて、皇与一は少し歩幅を広くした。歩いている間も録画をやめない。

警官の敬礼に軽く手を上げると、開かれたドアからビル内に入り階段の前で止まった。そして再び周囲の撮影を開始した。

朝草優香は苛立ちを表情に乗せて皇を睨みつけていた。1段ずつゆっくり階段を下りる皇与一を睨みつけたまま朝草優香は動かない。皇が階段を降り終わったところで小走りに階段を下りて追いついた。

開かれたドアの先に向かい合ったソファとテーブルがあり、その向こうに受付らしきカウンターテーブルがあったが、誰もいない。左に目を向けると狭い廊下に警官や私服が数人見えた。

皆、皇与一を見つけて次々に敬礼するが本人は撮影をやめない。現場のスタジオを通り越して廊下を進んでいく。

「警部!現場はここですよ!」

またも朝草の言葉を無視して皇は時折立ち止まってぐるりと一回転しながら廊下を進んだ。

「おつかれ、大変だね」

一年先輩に当たる高杉が朝草に声をかけた。

「恐れ入ります」

かしこまって朝草は頭を下げた。高杉に悪気がないことは承知しているが、この状況を見られることは朝草優香にとっては羞恥でしかなかった。癖の強い皇与一とのバディが言い渡された時の驚きと嘆きは形容し難い。皆の同情をひしひしと感じたものだ。

目を皇に戻すと廊下の突き当たりにあるドアに近づいている。

「警部、手袋してください」

朝草の声に皇は反応して白い手袋をポケットから取り出すと手にはめずに右手で掴んだままドアノブを覆うようにしてドアを開けた。左手はスマホを離さない。ドアを出て回転しながら朝草の方にスマホを向けてからまたくるりと半回転して歩き出した。

朝草は走って追いつき、ドアを押さえて自分も外に出た。

そこから上に繋がる階段が見えた。

皇はゆっくりと階段を上がって行く。朝草も従うしかない。2人は直ぐに地上に到着した。

目の前は駐車場だった。スペースは5台分ある。セダンが1台置いてある。見ると『オリオン』はそのうちの2台分を借りていた。車道に出る手前に駐輪場もあった。これも5台くらいは入りそうだ。

皇はひたすらゆっくり回りながらスマホで撮影している。かと思っていたら、すっとスマホをパンツの後ろポケットに仕舞うと颯爽と歩き出した。切り替えと行動がことの他速い。

「は?」

朝草は慌てて後を追った。

向かっているのは先程通過したばかりのビルの入り口だ。制服警官が再び皇に敬礼すると

「お疲れさま」

と初めて会った体で頭を下げて中に入っていった。犯行現場まではスムーズに移動したが、スタジオの入口手前からまた撮影が始まってしまった。

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