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ドロシィとの約束、レドとの…

「私、王都に行かなきゃいけなくなるかも」


静かな森の中。小川のせせらぎに耳を傾けていたレドは、ドロシィの沈んだ声に、はっとなった。


そして、返事に詰まった。


レドが行きたくても行けない王都。知識を身に付け、使う場所。


本来なら喜ぶべきことだが、ドロシィは憂鬱そうだ。なんと答えていいものか。


「そうなんだ」


結局、レドは当たり障りのない反応をした。


「それにしては、行きたくなさそうだね」

「当然だよ。だって私、レドと離れたくないもん」


切り株に座りながら。


ドロシィは、立てた両膝に顔を埋めた。


「王都に行けば、たくさんのことが学べて、お金もいっぱい稼ぐことができるんだって。“魔法使い”のスキルは貴重だから、お城勤めもできるだろうって、お父さんが」

「とっても良いことだと、思うけど……」


スキルに見合ったものを得るのは、ごく自然なことだと、レドは思う。


ドロシィは、スキル判定の儀の日から、その天才ぶりを発揮してきた。


この前だって、大人三人相手に、ドロシィは炎の魔法や、風の魔法を使って、立ち向かうことができたのだ。


この先スキルを磨いていけば、もっともっと、ドロシィはすごい存在になるだろう。


王国中の人がその名前を知っているような存在にだって、なれるはずだ。


それなのに、ドロシィは王都に行きたくないと言って、レドと森の中にいる。森は、スウェンのなきがらがあったところだ。


危ないと言っても森に行ってしまうので、レドはこうしてついてきた。


「ドロシィが、僕と離れたくないって言ってくれることは嬉しいけど。僕は、君に王都に行ってもらいたいな」

「…………どうして」

「もったいないからだよ。王都に出ればきっと、ドロシィはすごくすごく成長すると思う。そうしたら、たくさんの困ってる人を、スキルで助けられる」

「…………私は、たくさんの人じゃなくて、レドだけを助けたいのに」

「それもこれも、僕が頼りないせいだよね……」


レドは、恥ずかしくなって、口元をむぐむぐさせた。


最近は、走ることも苦ではなくなってきて、体力もついてきて、ついでにちょっとだけ自信もついてきたと思ったけれど。


ドロシィの目から見れば、レドはまだまだで、いつまでも構ってやらなければならない存在なのだ。


ドロシィを村に繋ぎ止めて、王都に行けなくしているのは、ひとえに、レドが頼りないせいだ。


「ごめんね、僕もっと、強くなるから。ドロシィが安心できるくらいに」

「…………うん」

「ら、ラーシュにだって、勝ってみせるから!」

「…………勝てるの」

「か、勝てるよ。最近、体力がついてきたんだ。が、頑張って、“剣聖”に勝ってみせるから。そうすればさ、ドロシィが安心して、王都に行けるでしょ?」


スキル無しが、スキル持ちに勝てるのだろうか。


そんな不安がよぎったが、レドは、ドロシィを安心させようと必死だった。


意味もなく手を動かして、大して使わない顔の筋肉を使って、ドロシィの顔を上げさせようとした。


「…………いいよ」


ようやく顔を上げたドロシィは、琥珀色の目にだんだんと光を灯していって、最後には、レドに笑顔を向けてくれた。


「レドがラーシュに勝ったら、私は王都に行く」


レドはホッとした。ドロシィの才能が、レドのために潰されないことに。


それは、レドにとっては約束で。


ドロシィにとっては。




「レド少年。ドロシィ嬢を一人にしなかったことは良いが、子供二人で森の中に行くのは、些か危なくはないだろうか」


無表情の騎士団長は、レドとドロシィを見るなりそう言った。


村の入り口で待っていた彼女は、腕組みをして、いつもよりひんやりとした目で、二人を見た。


「うっ、ごめんなさい……」

「ごめんなさい。私が悪いの。どうしても、森に行きたくて」

「森は視界が悪いし、スキル否定派の残党……逃げた者たちがいるかもしれない。内緒話をするのには、適しているかもしれないが」


ミリアにはすべて筒抜けだったらしい。レドは顔を赤らめた。


「二人が森に行ったおかげで、神父様を連れてこねばならなくなった」


そう言うミリアの後ろには、優しい笑みを浮かべた神父様が立っていた。


スキル判定の儀の日、レドがスキルを授かっていないことを告げた時のように。


「……」


別に、神父様が悪いわけじゃないけれど、レドは神父様が苦手だった。


ただでさえ自分に自信がなかったのに、他人からも自分は無能なのだと、あの日に烙印を押されたからだ。


神父様は、レドにとって、顔を背けたい存在だった。


「やあ、レドさん、ドロシィさん。こんにちは」


膝を折って、神父様は、子供であるレド達に目線を合わせてくれる。


レドは、失礼だと思いつつも、黙礼だけにとどめた。声が震えてしまいそうだったからだ。


「こんにちは!」


反対に、ドロシィは元気よく返事をした。


神父様は、小さく頷いて、ミリアの方を見た。


「二人が見つかって良かったですね、ミリアさん」 

「ええ、すみません。こんなところまでご足労をいただいて。初めはあなたのことを部下に任せようと思いましたが、あなたも教会にばかりいては体が鈍ってしまうと思い、こうしてお誘いしたのです」

「別に、私も四六時中教会にいるわけではありませんが……」


この年齢不詳の神父様は、ミリアの冗談ともつかない言葉に、苦笑いを浮かべた。


そうして、また、レドに向き直った。


「レドさん、落ち込んだりしていませんか。スキルが無いのはとても辛いことですが、大丈夫。神様は、あなたを決して見捨てませんから。きっと、“持たざる者”という不名誉な称号からも、脱することができますよ」

「神父様、ありがとうございます」


意外にも、レドに無能の烙印を押した神父様は、村人や……レドの両親と違って、レドに優しく接してくれるのだ。


「こんな僕にも、温かい言葉をかけていただいて……」

「自分を卑下してはいけませんよ、レドさん。君のその、驕らない心は、とても良いものと言えますが」

「はい……」


神父様の言葉に、レドは元気付けられた。元気付けられて、はたと目を見張った。


「ドロシィ?」

「なぁに?」


隣で何かを考え込んでいる、というより、何かに集中しているかのようなドロシィは、小首を傾げた。


「どうしたの? ぼうっとして」

「なんでもないよ」


そう言って、ドロシィは笑うけれど、レドの胸には不安が残った。


幼馴染の少女は、綺麗に微笑んでいたけれど、それがあんまりにも綺麗すぎるものだから、余計にレドの不安を煽ったのである。


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