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余計で、馬鹿な考え

2024年ですねぇ…

「抱き合っているところ悪いのだが」


その声で、レドははっとして、ドロシィから体を離した。ドロシィも、顔を真っ赤にしている。まじまじと、レドとドロシィを見ていたミリアは、相変わらず剣を抜いたまま、ドロシィに問う。


「ドロシィ嬢、君はどうしてここに?」

「わかりません……選抜大会の練習をしてたら、後ろから頭を殴られて、気付いたらここにいました」


ドロシィは、後頭部をさすっていた。


「だっ、大丈夫なのドロシィ。頭、痛い?」

「うん、ちょっとね。でも、私は平気」


レドの手を借りて、ドロシィは立ち上がった。


「私をここに連れてきて、何がしたかったんだろう、スキル否定派は……」 


それはドロシィの言う通り。ドロシィに成り代わるのでもなく、ただ縛って隠しておくだけなのは、なんだかおかしい。


「考えられるのは、何事かを企んでいて、ドロシィ嬢を囮に使った……ということだが、なにを企んでいるかまではわからないな」


これに関しては、さすがのミリアもお手上げだったようだ。


「とりあえず、集会場に戻ろうか。そこでなら、さっきの続きをしても危なくないから」


その言葉の意味を理解して、レドとドロシィは、再度赤面した。




集会場は、異様な雰囲気に包まれていた。


「ちょっと意味わかんないことが起きててぇ、私今頭ん中整理できてないから聞いてくれる?」


あんなに自信満々だったエリーズが、勝ち誇ったような笑みではなく、自嘲気味な笑みになっている。村人たちを指差した。


「あのね、ここに集まった村の人たちに、それぞれのスキルを披露してもらったの」

「スキルは一人に一つですからね」


ローサが補足するように言う。


「ここに、ホレグ・ラツァがいたとして。成り代わった村人のスキルまでは真似できませんから」

「……でも、みんな本物だった。おかしい」


ローサのそばに控えるセンディが、眉を顰めていた。


「念の為、騎士団にもスキルを披露させたわ。安全性に十分に考慮してね。みんな、本物だった。ここに集まった六十七人、み〜んな!!」


ーーつまり、


レドは、その結論に至って、息を呑んだ。


村人も騎士団もみんな本物。それなのに、敵の数と合わせて、人数が合わないということだ。


「もちろん、そこにいるレド君と、ドロシィちゃんが偽物だってことも考えたわ。特にレド君にはスキルがない。成り代わるにはうってつけだってね……だけど、これもないって、すぐにわかった」

「ドロシィ嬢に関しては、風魔法を操っていたこと。レド少年に関しては。わざわざ、私と行動を共にする必要がない」

「そう。たとえば、監禁されてるドロシィちゃんを助けに行くっていう理由をつけて会場から離れようとしたとして。ハイドレーン騎士団長を連れて行くメリットがどこにもない。現に、今ここに戻ってきてるし」


無謀な行動が自分を救っていたと知って、レドはびっくりするやら、ほっとするやら。ドロシィを救いたい一心で飛び出したが、それが良い方向に働いたらしい。


「それに、それだけじゃない」


一際低い声を出して、エリーズは、地図を見せた。とある部分を指差す。


「ドロシィちゃんが監禁されてた、スウェンの家には、間違いなくスキル否定派の一人が潜伏していたーーそれなのに、ミリアちゃん達が到着したのと同時に、それが消えた」

「……集会場に移動したのでは? スキルからして、考えにくいが」

「それも考えて、数えたよ。でも、地図を見ても、集会場の人数は変わらない。村人は本物だし、騎士団も本物だった。つまり」


村にいたはずのスキル否定派は、村から消え失せた、ということである。






「……それは、喜んで良いやら、悲しんで良いやら」


ミリアが神父に報告に行くと、カシィラ神父は、困ったように笑っていた。


「村人に犠牲者が出なかったことは喜ばしいことです」 


ミリアは生真面目に答えた。これは事実だからだ。


「ですが、我々がスキル否定派に欺かれ、まんまと逃走を許してしまうのは悲しむべきことです」

「それなら、この窮屈な生活も、あと少しと考えて良いでしょうか? 教会は広いですが、一日中一人となると」  

「ですがまだ、スキル否定派の残党が森に潜伏しています」

「その数は?」

「三人です。森に逃げたわけでもないようです」

「なるほど、一つお訊きしたいのですがーー」




床下から発見された遺体は二つ。いずれも、ローブを着た男だった。


「なんてことはない」 


神父から示された一つの結論。それを思い出しながら、ミリアは何と言ったら良いのかわからない、そんな感情に襲われた。 


運び出された遺体には、生々しい刺し傷があり、腐敗具合などを見ると、死んだのは最近だとわかった。


『エリーズさんのスキルは、“探索師”でしたか。風の精霊に働きかけ、そこに人間がいることを知る』

『ええ、そうです』

『それならば』


死んだ人間に、風の精霊は反応するのか。


否、それがわかっていたら、自分達は、ニセモノ探しに躍起になっていなかった。


答えは簡単だった。ホレグ・ラツァは誰も殺しておらず、レドに接触する前、村にいる人間は神父を除いて八十四人だった。レドに接触したのは、誰かを殺して成り代わっていると、勘違いをさせるため。


レドに接触した後、すぐにここで自死をする。ミリア達が村内作戦を確定させたのは、レドの報告を聞いてから。レドに接触した後にすぐに自死をすれば“村人に成り代わっている状態”の完成というわけだ。


エリーズが、遺体を暗い瞳で見ながら言う。


「一人が自殺した段階で私に人数を数えさせて。あとは、ミリアちゃん達が到着した時に自殺すれば……」

「我々を撹乱することができる。スキルという証明をしたとしても、我々は村人を疑わざるを得なくなる。お前の探索スキルを疑わなければならなくなる」


考えるのができたことだった。ミリアは拳を握った。スキル否定派は、他人の命どころか、自分の命さえも蔑ろにする人種だった。


「実際は、お前の探索スキルは非常に優秀だとわかったよ」

「ははは、ありがとー……あんまり、嬉しくないけどね」


らしくないエリーズの言葉。このどちらかが、ホレグ・ラツァの遺体だ。今となっては、もう知る術もないけれど。


ひとつだけ、良かったことは。




「ホレグ・ラツァは、この村では、スウェン・クーパーしか殺していない」


それは、この少年に教えるべきだろう。ふと頭の中に過ぎった、余計な考えは話さないことにした。レドには、目の前の“選抜大会”に集中してもらわなければ。


「……っ」


口を開いては閉じて。嬉しいとも、悲しいとも言えない少年は、ただただ、頭を下げた。




……余計で、馬鹿な考えだ。


ホレグは、最期までレドを利用した。それは真実。だが、あの勧誘の言葉もまた、真実だったのだと。


陽の下に並べられた二つの遺体を見て、ミリアは空を仰ぎ見る。


村人を殺さずに、自分を殺す道を選んだ理由。そこに、レドが関わっていたとしたら。


ーーレド少年が、ホレグの考えを変えた。


良くも悪くも、村人の命を救い、ホレグに自分を殺させた。


ーー詮無いことだ。


軽く頭を振り、ミリアは森の方へと目を向けた。


ーー今、私がしなければならないことは、森にいる残党を狩ることなのだから。

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