作戦と再会
「スキル否定派の残党は、最低でも五人。アディウム村長宅に侵入した三人と、スウェン・クーパーに成り代わっていた一人、そして、スキル否定派を、何らかの方法で村に侵入させた一人」
最後の一人は、おそらく、透明化のスキルか、認識に関するスキルを持った人間だろうとされている。
村長宅。もらった地図を机に広げて、ミリアたち王都からの派遣組は、顔を突き合わせていた。
王都から派遣された“探索師”、エリーズ・フェイディは、軽い態度から一変、納得できないというように、整理した情報を口にした。
大雑把な森の地図には、すでに、彼女が風の精霊に働きかけて得た情報が書き加えられている。人物の位置情報。その点の数は、三。
エリーズが、眉を顰める。
「ミリアちゃんの騎士団が、この村に続く森の入り口を封鎖してある。この村から森に行く警備は緩いけど」
ミリアは、エリーズの言葉に頷いた。
村に行く警備が緩いのは、スウェンに成り代わっていた人物が、既にまた別の人物に成り代わっていた場合、森にいるであろう仲間に会いに行く可能性があるからだ。
スウェン・クーパーを殺した犯人には、騎士団が到着するまでに、空白の時間が与えられている。それまでに、誰かを殺して、村人に成り代わっている、という可能性も否定できないのである。
だからこそ、教皇庁は、“結界術師”を派遣し、村の中に結界を作った。カシィラ神父を、村の中から守るために。
「……成り代わってるのは確定って言っていいかな。はぁ〜、めんどくさっ。村の中に、二人は残党がいるってことじゃん」
エリーズ・フェイディのスキルは、絶対の精度を誇る。
この世に同じスキルは何一つとしてないが、似通ったスキルは存在する。探索系最高峰と言われるエリーズのスキルは、たとえ透明化や、認識阻害のスキルを持っていようとも見抜いてしまう。
それは、視覚に頼るスキルではできないことだ。
どんなに透明化に優れていようと、実体はある。認識阻害は人間にしか効かない。エリーズが操る風の精霊が触れてさえしまえば、その人間は、エリーズの眼前に晒されることになる。
ーー上も、本気らしい。
ミリアの経験では、こんなことは、初めてだ。王都から派遣される人数が、こんなに多いのは。
通常は、王都ではなく、第二、第三の中核都市から術師は派遣される。それだけ、カシィラ神父は重要人物ということだろう。
それが、こんな村……と言っては、レド少年に失礼だが、こんな村にいるとは。
先の達しといい、王家と教皇庁は、一体、何を考えているのか。
ミリアは、浮かんだ疑問を打ち消した。
思うことはあれど、ミリアが任務を全うすることに、変わりはない。
「それなら、三人の方を、早速焼き払いましょう。もし、エリーズ・フェイディの探索が間違っていたとしても、石の下の虫ケラのように、慌てて飛び出してくるはずです」
「あ゛?」
エリーズが、凄んだ顔をして、発言の主を見る。
発言の主は、青い衣服に身を包んだ、美しい女である。ただし、その姿は異様。頭と口元を隠し、目だけが異様に輝いている。
手にしている杖は、先端が尖っていて、あらゆる呪術的な装飾が施されている代物。彼女のスキルは、“杖使い”。あらゆる攻撃系のスキルを、杖を通して倍増させることができる、いわゆる補助系のスキル持ちである。
「ローサ様の言う通り」
そんな彼女の相棒が、もう一人。見た目に反して饒舌で、過激思考を持つローサ・アルマックに黙々と付き従う、ローサとは違った美しさを持つ女。
自身の能力を顕すかのような、炎のような赤色の髪を持つ彼女の名前は、センディ・スニード。
ミリアは常々彼女のいささか露出の多い服装に関しては疑惑を持っているのだが、彼女によると、というか、彼女の代弁者によるローサによれば、「暑いから」らしい。
“熾者”のスキルを持つ彼女は、ぼそぼそとしゃべる。
「私とローサ様がいれば、あとはいらない」
「あらぁ、センディは良い子ですね」
ローサが、センディの頭を引き寄せ、よしよしと撫でる。センディは、少し頬を赤らめるが、ミリアと、エリーズは面白くない。
「はっ、これだから、教皇庁発の罪人は困るんだよねぇ。さすがは異端者って感じ」
同意だ、と心の中で、ミリアは呟いた。エリーズの発言は、デリカシーに欠けるものであったが、こうも輪を乱されては、こちらとしても、作戦に差し障る。
ミリアは、小さく溜息を吐いた。
「森を焼くというのは、無しだ」
「えぇ? どうしてですか?」
ローサが、頬に手を当てながら言う。至極残念そうに。
「外部から、この村を防衛するのに不都合だからだ。教皇庁は、カシィラ神父を王都に返すつもりはなく、この村にとどまらせようとしている」
「はぁ? ばっかじゃないの?」
エリーズの言葉は、もっともである。たしかに、スキル否定派の犯罪が顕在化してきたとはいえ、王都は、この村よりも安全である。それなのに神父の身柄を移さないのは、不可解だ。
騎士団長であるミリアにも、その理由は秘匿されている。ミリアの任務は、神父を、この村で守ること。
「王都でないと、実力を発揮できないか?」
疑問はある。だが、守ることは、正しいことだ。
亡き義父に同意を求めながら、ミリアはあえて、挑発するようなことを言った。
話題の移し替え。
「そんなこと、ひとっことも言ってないんですけど?」
案の定、負けず嫌いのエリーズはそれに乗ってきた。
「今は、ハイドレーン騎士団長の言葉に乗ってさしあげますわ」
「私とローサ様に、できないことなんてない」
ローサは読めない笑みで、センディはミリアを射殺さんばかりに睨みながら。
扱いにくい女たちに、ミリアは前途多難さを覚えながら。それでも、この村で出会った少年の『選抜大会』が邪魔されないで済むと、晴れ晴れとした気持ちになった。
村は、にわかに騒がしかった。それでも、今は二ヶ月を切った『選抜大会』に向かって、レドは走っている。
ーーミリアさんたちが、頑張ってくれてるんだ。
勝手な話だけど、それで、レドは頑張る力をもらっていた。
近頃は、簡単に息が切れなくなってきた。父親のリグが、レドに仕事の手伝いをさせてくれるようになった。
家に篭るか、ドロシィと遊ぶか、ラーシュにいじめられるかだったレドの世界は、ちょっぴり広がった。
いつものコースを走っている時。急に現れた人物に、レドは、足を止めた。時も、一緒に止まったみたいだった。
「……スウェン、さん」
「久しぶりだな、レド」
気だるげな瞳をした、本物のスウェンを殺した男は、緩やかに笑った。




