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夢の諦めさせ方

──まだかな、神父様。


『スキル判定の儀』をおこなった教会。周りの子供達に白い目で見られながら、レドは、神父様が出てくるのを待っていた。


今日ばかりは、早朝のランニングも休んだ。


スキルに関することは神聖で、ランニングよりも優先するべきことだからだ。


レドはただでさえ、神様に愛されていないのだから、これ以上そっぽを向かれないように頑張るしかない。


お祈りをする場には、村の子供全員が集まっていた。もちろん、ドロシィもいる。


今から行なわれるのは、“選抜大会”に出場できる子供の発表だ。


すでに出場が決まっているドロシィは、最前列に立っていた。 


「皆さん、よく集まってくれましたね」


いつもの穏やかさをもって、神父様が、お祈りの場に姿を現す。その後ろには、ミリアが控えていた。


「今日は、事前にお知らせしていた通り。来たる“選抜大会”に出場する方を発表したいと思います。これは大変名誉なことですから、名前を呼ばれた方に、大きな拍手を送りましょうね」


はーい! と、子供達が大きな声で返事をする。レドも控えめに声を上げた。


神父様は、そんな子供達の様子を見て、眼鏡の奥の目を細めた。


「それでは発表します。ドロシィ・アディウムさん」

「はい」


ドロシィが返事をして、皆の方に向いた。割れんばかりの拍手が、お祈りの場に響いた。


神父様が、ドロシィの肩に手を置いて、手元の紙を読み上げる。


「ドロシィさんは、“魔法使い”という、とても素晴らしいスキルを持っています。この“魔法使い”というスキルは、一つの魔法だけでなく、複数の魔法を使えるという点で、他のスキルよりも優れています。ドロシィさんは、火の魔法と風の魔法を使えるそうですね?」

「はい。火の魔法はお父さん、風の魔法はお母さんのを見て覚えました」


ドロシィが、はきはきと答える。


神父様は、満足そうに頷いた。


「素晴らしい。この歳でもう二種類の魔法を使えるとは。もっと成長したら、闇の魔法以外の魔法を使えるようになるでしょう。“選抜大会”に出るにふさわしい、素晴らしいスキルです」


ドロシィが、ぺこりと頭を下げて、また最前列に戻った。


「それでは、次の方を発表します。ラーシュ・ニカルメさん」

「はい」


列の中程にいたラーシュが返事をして、さっきのドロシィと同じように、皆の方に向く。 


ラーシュの顔は、自信に満ちていた。


レドだったら縮こまってしまう大きな拍手を、当然のように受け入れていた。


そんなラーシュの肩に手を置き、神父様は、また別の紙を読み上げる。


「ラーシュさんは、“剣聖”というスキルを授かっています。このスキルは、どんな物も名剣に変えるスキルです。たとえば、道端に落ちている棒を振ったとしても、そうですね、普通の剣を振ったぐらいの衝撃を与えられるでしょう」


レドは恐ろしくなった。 


殴られたり、蹴られたりはしているけれど、今のところ、“剣聖”スキルを使われたりはしていない。


ーースキルを使われたら、どうなっちゃうんだろう。


ラーシュの取り巻きの少年は、いろんなものを金属に変えるスキルを持っていた。


強化されたそれをラーシュが持っていたらと思うと、レドは生きた心地がしない。


「“剣聖”のスキルは、国を守る上でとても重要です。ミリアさんによると、似たようなスキルの方々は、騎士団にたくさんいるそうです。そうですよね、ミリアさん?」


神父様がミリアに視線を向ける。ミリアは軽く頷いて、いつもの調子で言った。


「ええ。武器を選ばずに戦える人間というものは、重宝されます。特に、物資が不足している中、最後まで戦える人間は。失礼、話し過ぎました」


教会の空気は重くなった。


ミリアの言っていることは、レドにも理解できなかったが、なにか、気を重くさせるようなことだというのは、神父様の反応でわかった。


ミリアはそんな空気に、ひとつ咳払いをしたのみ。


「先ほど話したことは、最悪の想定です。我が国の騎士団は、我がハイドレーン騎士団を含めて練度が高く、そうそう国内外の敵にやられはしません」


それに、とミリアは続けた。


「武器を選ばないというのは、それだけで、相手を欺くことができる。たいへん貴重なスキルです。我が騎士団も欲してやまない」

「ミリアさん、ありがとうございます。ラーシュさんの成長が楽しみですね」


ミリアから褒められたラーシュは、少し照れた顔をしながら、列に戻っていった。


「それでは、次の方を発表します。皆さんは、これを意外に思われるかもしれませんが、どうか、温かい拍手をしてあげてくださいね」


勿論。レドは、その人に拍手をする気満々だった。両手をすぐに叩ける状態にして、神父様の言葉を待つ。


「レド・ディアさん」


ぱちっ。


反射的に叩いた手が、虚しく鳴った。


「──へ?」




自分で自分に拍手したレドは、戸惑うしかなかった。


レド・ディアは、この村に一人しかいないはずだけど。


「レドさん、どうぞ前へ」


けれど、神父様は確かにその名前を呼んでくる。


「おい、神父様が呼んでるぞ」

「行けよ、グズ」


皆、なんでこいつがという顔をしながら、神父様の言葉には逆らえないから、レドの背中を小突いてくる。


歩くというよりは、押し出されるようにして、レドは、子供達の前に躍り出た。


神父様は、ドロシィや、ラーシュにしたのと同じように、レドの肩に手を置いた。


「あ……」

「レドさんは、“持たざる者”です。この称号は、スキルを持っていない方につけられる称号です。ですが、私はあえて、レドさんに、大会に出場してもらいたいと思っています」


レドの頭は沸騰していた。


神父様の言葉をしっかり聞かなければいけないのに、耳から耳へ、流れていってしまう。


かろうじてわかったのは、レドが“選抜大会”という神様の見ている行事に参加することで、スキルを授かれるかもしれないということだった。


「もしかしたら、神様はレドさんに気付いていないのかもしれません。レドさんは、たいへんな努力家ですから、神様もきっと、素敵なスキルを授けてくださるでしょう」

「あ、あの、僕よりも、相応しい人がきっと」


ドロシィや、ラーシュの次に優秀な子が、きっといるはずなのだ。


それなのに、こんなお情けみたいな理由で、レドが出場枠を奪っていいわけがない。


そろりと顔を上げれば、大半の子供達は、レドのことを睨んでいた。当然だ、レドの枠は死に枠だ。王都に行けるはずもないのに。


「神父様」

「自信を持ってください、レドさん」


けれど、神父様は、そんな周囲の視線には気付かないようで。


「ああ、拍手がまだでしたね。皆さん、レドさんに、大きな拍手を」


しん、と静まり返ってしまうお祈りの場。レドはいたたまれなくなって、もう一度顔を下げた。


ぱち。ぱち。


小さな拍手が聞こえてきて、レドはそちらを向いた。ドロシィだ。


ドロシィが、琥珀色の目でまっすぐに、レドを貫きながら、拍手をしてくれている。


やがて、お情けの拍手は少しずつ増えて、レドはがばっと体を折り曲げて、精一杯の礼をした。


神父様が、神様が決めたことだ。レドに逆らえるわけがない。 




衝撃的な発表の後、レドは家に帰った。


どうやって、そのことを両親に伝えようかと、玄関前で考えあぐねていると。


「レド、おかえり」


いつもは無視を貫く父が、自分から扉を開けて、レドを迎え入れた。


「た、ただい、」

「“選抜大会”にお前を選んでもらうよう、神父様にお心付けをした」

「……!」


坦々と、父は、レドに言った。その瞳は、冷えていた。


「スキル以外に頼れるものはないと、その身で思い知れ」


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