男は1つくらい秘密がある
「ふー」
体内の息を全て吐きだしていく。
息を吐きながら周囲のビルの中でも一番高いビルの上で空を仰いだ。
澄み切った青空には雲一つない、もう全てを忘れてピクニックでもしたいなんていう欲望に蓋をして下を見る。
手にはサイレンサー付きの遠距離射撃用のライフル銃。
これから、人を殺す。
男はターゲットを100%殺す殺し屋だ。
情報を基にし決めたエリアに、ライフルの照準を合わせる。
照準を合わせると同時に、新鮮な空気を肺がきしむ程に吸い込んでいく。
そうして集中力を限界まで引き上げてその瞬間を待つ。
その瞬間はすぐに訪れた。
ターゲットの車が停まり、中から人が下りてくる。
先に降りてきた人はターゲットの秘書を務める初老の男性だ。
ビル風が強い、少し調整をしなくてはと思ったその瞬間だった。
近くで車のクラクションが鳴り、続いて金属質の破壊音そしてターゲットの車にトラックが突っ込み手品のショーのように派手に火が上がった。
「まさか・・・」
そう呟いて足元に広がる惨状を確認する。
どうやら、数メートル先で起こった事故に誘発されてスピードを出していたトラックがコントロールを失い突っ込んできたと・・・。
そして、ぼんやりとピタゴラスイッチという番組をぼんやりと思い出した。
足元の端末が鳴り、我に返り手に取って応答する。
「私だ」
『素晴らしい!事故に見せかけるなんて!ほんとどうやってやったんだ。もしライフルとかで銃殺なんて証拠の残る殺し方なんてされたらどうしようかと思っていたよ!』
そう言われて、手に持っていた銃を見た。
どこから、どこまでをどうやって確認しているんだろうと無駄に周囲を見回す。
トゥルーマンショーにでも出ている気分になる。
『さすがプロだ。ところで報奨金は確認してくれたかい?』
「あぁこれから確認するよ」
『そうか、少し色を付けさせてもらったよ。またお願いするよ。ミス・ネイバーに宜しく』
言いたいことは以上とばかりに、プツリと端末の通信は切れた。
おそらく、この端末で何かを受信する事はないだろう。
作りも単純で一つの電波しか受信しない仕組みになっている上に、こちらから繋げることもできない。
単純なものだから足もつきにくい、この世界は証拠が残らない事が肝要だ。
ちなみに、ミス・ネイバーは所属する組織の上司のような存在だ。
ミスという名前だが、女性なのか男性なのかは分からない。
というか、組織の他の人間に接触した事がそもそも無い、その手段も必要も無い。
そして、男はまた天を仰いだ。
今は、空にポツリポツリと水玉模様に雲が浮かんでいる。
後味の悪さを体現している様に感じる。
後味はいつだって悪いさ
「だって、一回も殺せたことなんてないんだからさ・・・」
そう、この男は数えきれない依頼を謎のラッキーだけで乗り切る。
殺せない殺し屋だった。




