おにぎりさん
あ、やっと思い出してくれましたね?嬉しいです!
そうです、ずっとここにおりましたとも。
ええ、このカバンの中です。
上からノートパソコンを突っ込まれたときに、少しつぶれてしまいましたけど・・・、ご安心を!味には何の影響もありませんので。
今日は気温も低かったので、腐ってもいませんよ。どうぞ安心して召し上がってください!
お昼は忙しかったようですね?一度も席に帰っていらっしゃらなかった。
会議だったんですか?それともどこか外へ出られていたとか?
作業?ずっとですか?1Fの作業場で?
〆切りに・・・そうですか・・・間に合わなかったら大変ですもんね。
でも、もう、管理職の方は、そんなに現場に出なくてもいいんじゃないですか?基本的にはデスクワークだとお聞きしてましたけど・・・。
ああ、部下の方が・・・お休みで・・・・、急遽、間に合わないことがわかったと・・・・、それは大変でした・・・。
部下の方はお風邪か何かですか?
・・・ああ、・・・・そういう・・・今は多いみたいですね・・・・その・・・・メンタル的な理由で・・・・っていうのが・・・。そうなると、無理して出てこいとは、今のご時世、言えませんもんね・・・・。
それで、自ら現場へ出て、作業に入られてたんですね・・・。ご苦労様でした・・・。え?では、お昼ご飯が今ってことですか?もう、19時過ぎですけど・・・・。
そうでしたか・・・。よかったです。思い出してくださって。かやこさんも喜ぶと思いますよ。
今朝はまたずいぶん電車が混んでいましたね。
休業要請が出ているからと言って、そうそう休める方ばかりじゃないですもんね。
結局、こうして、出社している人が、経済を動かしてるわけですもんね。そりゃ、満員電車になりますよ・・・。
そのせいで、また少しつぶれてしまっていますけど・・・。でも、しつこいようですが、味には何の問題もありませんので。どうぞ、召し上がってください。
え?ワタクシですか?ニュースのことですか?
ああ、そうですね。だいたいのことはわかっているつもりです。
かやこさんににぎって頂いてるので。
にぎってくださった方の持っている情報は、その手を通じて、ワタクシの方にも込められます。
ですから、ニュースで得た情報もそのままこちらに入るわけです。
もちろん、愛情もですよ。
かやこさんのあなた様への愛情は、ワタクシにふんだんに込められております。
ですから、ワタクシも、責任もって、それをあなた様にお伝えしないとと。
愛情はそのまま旨味になりますので、それが損なわれないうちに、どうぞ、お召し上がりください。
あ、いえ、損なわれる、というのは、あくまでも時間的な意味合いでして、別に、愛情が減っていくわけではありません。
かやこさんはワタクシをにぎる際に、それはそれは、あなた様のことを心配し、慈しんでおられました。
それはそれは、もう、悲痛なくらいに・・・。
ええ、ワタクシには、かやこさんの手を通じて、かやこさんの情報は全て込められております。かやこさんの知っている情報も、全てです。
ええ、かやこさんは知っておられます。
最近、あなた様の帰りが遅い理由も。
もちろん、ほとんどが仕事のためだということも理解しておられます。
しかし、週末の、特に土曜日に出掛けるのが、仕事のためでないことも、ちゃんとかやこさんはご存じです。
さきほど話されていたのは総務の方ですか?
声だけでしたが、若くて利発そうなのがわかりました。
あなた様も、その方とお話しされているときだけは、声にこう・・・ハリがありました。
それでわかったのです。その方が、あなた様の・・・お相手だなと・・・。
私には、かやこさんの情報が込められております。
しかし、私が知り得た情報をかやこさんが知る術はありません。
ですから、ご安心ください。安心して、どうぞワタクシめをお召し上がりください。せめて、残さず、召し上がることで、かやこさんの想いに応えてあげてください。
朝6時に起きて、毎朝、かやこさんはにぎっているのです。
想いはどんどん強くなり、多くのものが込められるようになり、ついに、ワタクシは声を出せるようにもなりました。
これ以上想いが強くなったら、どうなることやら・・・。
召し上がってください。すっかり冷めてしまっていますが、美味しいですよ。想いがたくさん込められています。
最後の一粒まで召し上がっていただけたら、ワタクシも本望です。
あれ?また彼女ですね・・・・・。
外に出られるんですか・・・。
召し上がらずに・・・・。
飲食店なんかどこも開いてませんよ。
飲食店ではないのですか?・・・彼女の家ですか・・・?
そうですか・・。召し上がっていただけませんか・・・・。
いってらっしゃいませ・・・。
先ほど、ワタクシ一つだけ、ウソを申しておりまして・・・。
私の知り得た情報は、そのままかやこさんにも伝わるのです・・・。
かやこさんは、ワタクシをにぎった後に、それを二つに割って、片方を召し上がられたんです。
ワタクシの半分はかやこさんの中にあります。
かやこさんは常日頃、そうやって、いろいろなことを知っていくのです・・・。