プロローグ
転生者様、お目覚めください」
気付けば俺は光に包まれた白い世界にいた。
目の前には白いドレスを着た女が立っている。
「あなたは“転生者”に選ばれました」
転生...?なんのことを言っているんだ?
ていうか、俺はさっきまで...
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
俺は獅子王礼央。地元じゃ負け知らずの所謂ヤンキーだ。ついた異名は『不死身の獅子王』。街を歩けば誰もが俺を避ける。
「おい、お前金寄越せよ」
「な、無いです...」
「嘘つくんじゃねえよ!」
学校からの帰り道、俺は路地裏で学生に恐喝するヤンキーを見つけた。俺はそいつに近づいて行き、後ろから肩を掴んで声をかける。
「テメェ、何してんだよ」
「あぁん!?なんだてめぇ」
ヤンキーが振り向いて俺に殴りかかってくる。
俺は間一髪その拳を受け止め、男を睨みつける。
すると、そいつは青くなって小刻みに震えはじめた。
「お...お前は...獅子王!?」
その後すぐに情けない声をあげて男は逃げて行った。俺はその後ろ姿を見送ってから、恐喝されていた学生に声をかける。
「お前、大丈夫か?」
「ご、ごめんなさい!お金はあるんで見逃してください!」
学生は震えて泣きそうな顔をしていた。俺は何も言わないでその場から去り、家へ帰る為に駅へと向かった。
(ただ助けたかっただけなのに。また怖がらせてしまった)
俺はヤンキーと呼ばれているが、自分から喧嘩をしかける事はないし、悪いことはしない。
だけど、いじめられている人を助ける為に喧嘩を重ねているうちに、負け知らずヤンキーと呼ばれ、大層な異名まで貰ってしまった。
『不死身の獅子王』という異名は、俺が集団リンチされていた奴を助けようとして、1人で血だらけになりながらも10人を返り討ちにし、病院送りにしたことが由来らしい。
「はぁ...」
ホームで電車を待っていると、程なくして電車が到着した。
車内は混雑していたが、ちょうど俺が立っている前の席だけ空いていた。俺のすぐ近くに、人混みに潰されて苦しそうな少年がいた。
俺は少年に声を掛けた。
「おい、ここに座るか?」
「えっ…?」
少年はしばらく豆鉄砲を食らったような顔をしていたが、席に座ってくれた。
「あ、ありがとうございます...」
「気にすんな」
俺はそう言って笑った。
「お兄さんって優しいんですね」
今度は俺が豆鉄砲を食らった。
今まで俺のことを優しいって言ってくれた人は初めてだった。
「これ、お礼の飴です」
そう言って、イチゴ柄の三角形の飴を俺に差し出した。
俺はそれをありがたく受け取った。
「ありがとな」
少年ははにかみながら笑った。自分に向けられる笑顔を見るのは久しぶりだった。
だが、俺はこの時まだ知らなかった。
これから訪れる絶望に。
『ドゴォォッ』
電車がもの凄い物音をたて、一瞬にして天地がひっくり返った。俺は頭をどこかにぶつけ、視界は閉ざされた。
目を覚ますと辺りは地獄のような風景が広がっていた。
血だらけの人、電車の下敷きになっている人...あたりは砂埃が待っていて空気が悪い。
周辺の様子から考えると、どうやら電車が脱線して転覆したようだった。
「痛ッ」
俺は痛む腹に目をやると、鉄の棒が刺さっておりシャツからは血が滴り落ちていた。
朦朧とする意識の中、すぐ近くでうめき声が聞こえた。
「うう...いたいよ...」
それは、さっき俺に飴をくれた少年だった。
俺は体を引きずりながら、少年に近づく。
少年の腕からは大量に血が出ていた。
血は明るい赤色。動脈を切ってしまったのだろう。
「おい!」
俺は無我夢中で自分のシャツを割いて、血を止める為に少年の腕に強く巻きつけた。
このままだとコイツは失血死しちまう。
「止まってくれ...!」
しかし、血は流れ続ける。
少年の息はどんどん弱くなっていく。
俺は力尽きて地面に倒れ込んだ。
(俺はコイツを助けられないのか...?俺に人を救う力が...あれば…コイツは…)
俺は空に向かって力なく手を伸ばす。
(不死身なんて嘘じゃねえか)
俺の意識はここで途切れた。
閲覧していただきありがとうございました!
少しでも面白いと思っていただけたら、ブクマ・評価で応援してくださると嬉しいです。