~おじさんつくる物語~➇
CP8 つかの間の休息
ヤマタノオロチは征討の翌日、五人は疲れを癒すべく。出雲山近くのミカサ温泉へ湯治に来ていた。
唐突に温泉、何故と思われるかもしれない。しかし長い物語には得てしてサービス会があるものだ。
登場人物にも読者にもそして作者にもご褒美は必要だ。ええ、そこは私もしっかと心得ている。
だがしかし、現実問題、この回におけるサービス要員は壱与に十六夜の二人、まだまだ駒不足なのは否めない。そこはご容赦を。
「はー、気持ちいい」
壱与はその透き通る肌を乳白色の湯に沈め、ぬるりぬるりとした湯のしっとり感を楽しんでいた。湯のほどよい熱波で、顔はほのかに赤みを帯び、浸かる白い肌には薄く朱に染まりつつあった。その小さい幼い身体に成長し始めた小さな胸のふくらみ、彼女はそっと左胸に手を当て生きていることを実感する。
「姫様、のんびり温泉なんか浸かっていてよろしいのですか・・・でも、いいぃ・・・ですね」
十六夜は、巫女にしては珍しい褐色の肌をしていた。若さが躍動し、粘りつく湯をいとも簡単に弾く。その証拠に彼女が立ち上がると、そのシュッとしてキュッとした身体から湯水が逃げていくのだ。熱さを冷まし、また湯へ入念に顔を洗う。少しはソバカスとれるかも、少女はそれから両胸に両手を載せる。
(私の胸・・・小さい)
十六夜は嘆く。だが彼女は気づいていなかった。ゆるやかだが、その桃がたわわに実る結実の時へ一歩目を踏みだしたことを、それに女の子の魅力は決してそこだけじゃない(意味深)ということを。
「今日ぐらいは」
「いいですよね」
しっぽりと二人は湯の魅力に身を任せるのであった。
きゃぴきゃぴとうら若い乙女たちの声がする。
平然を装う男三人。
言わずと知れたミカサの湯は当然混浴である。そんなの当たり前である。決まり事なのである。
大きな岩が湯の中央に鎮座してあり、それがなんとなく男女を隔てている。
(俺が若かったら、覗いたりする展開もアリなんだろうけど・・・はぁ)
尊は自重した。色欲よりも温泉の方が気持ちよく疲れが癒されるのだ。
身体が無上の喜びを感じている年は取りたくないものだ。
「これが噂に聞くミカサの湯。気持ちいいのう」
難升米は、老いてなお筋骨隆々、その身体には無数の戦傷があった。
「難升米様、ご無事で何よりでした。しかし、どのような経緯で」
彌眞はしなやかでほどよくついた肉付きの良い身体をしている。ヤマタイ国で何が起きたのかを尋ねる。
老将は至る経緯を話し始めた。
ヤマタイ国弟王狗呼の裏切り、クナ国との戦、壱与の覚醒。光の道を辿ってここまで来たこと。
道中、イト国を神軍で制圧し、軍をそのまま留めてクニの安定と正常化をはかる。一方、壱与と難升米は早急に尊達の元へ駆けつけたことを告げた。
二人とも思いがけない事態に陥っていることを知らされた。
「壱与は国を追われたってことか」
尊は事実を言う。
「それは・・・狗呼王の謀略にあったからこそ」
彌眞は反論する。
「これより我らは、イト国と合流し狗呼王と対峙することとなるでしょう」
難升米は目を閉じ静かに言った。
「やれやれ一難去ってまた一難か・・・」
そう言うと尊は湯の中へ潜り込む。
「尊殿?」
「尊様?」
二人の視界から尊は消えた。
「まさか・・・」
「仲間同士で争うことになるのですね」
十六夜は小さく呟いた。壱与から経緯を伝えられ思わず嘆きがこぼれる。
「十六夜・・・」
壱与は彼女を慮った。
私の力が至らないばかりに、未熟な自分が許せなかった。
「姫様・・・」
十六夜は微笑んだ。
「これは考えようによっては、国を一つにするまたとない好機です。必ずなし遂げましょう」
「十六夜」
二人は見つめ合った。
ちょうどその時、壱与と十六夜の間、湯の表面からブクブクと泡があがる。
突如、中年の顔が浮き上がった。
二人は驚いて、抱き合った。
「そうそう、なんとかなるさ」
尊は指をサムアップした。
うら若き乙女の裸体。
目の保養とばかりに、尊はまじまじと二人を見比べ顎を撫でると言い放った。
「二人とも、悪くないぞ」
「馬鹿者!」
十六夜の強烈に蹴りが尊の顔面にヒットした。
「あれが・・・見えた」
失われる意識の中、尊はこの世界、二人に平穏を取り戻すことを誓った。
今回は休憩の回です。みんなには少し癒してもらって、引き続きがんばってもらいましょう。
次回、ヤマタイ国編、クライマックス。乞うご期待!な~んて。