~おじさんつくる物語~⑦
CP7 ヤマタノオロチ征討➁
光の向こうから現れたのは、壱与と難升米だった。
その姿は神々しい。
難升米の後ろ駿馬に跨り、片手は馬から振り落とされないように、もう片手は鏡を掲げ光の効力を発動させている 。
光が照らしだすことによって、ヤマタノオロチの全貌が明らかとなる。
いけないその姿は〇〇〇(自主規制)だ。
すべてがビッグサイズのアメリカンスタイル。
目にした5人は言葉を失う。が、希望はある。
(主役は遅れてやってくるってか)
尊は少しだけホッとし、心の中で悪態をついた。
「姫様!」
十六夜は壱与が無事でいてくれた胸がいっぱいになる。
慈悲深い笑みを浮かべ喜ぶ。そして現状打破の強力な味方がやって来たことを確信した。
「十六夜!」
壱与は、鏡を両手に抱え直すと、馬から飛び降り彼女の元へ駆け寄る。
二人は互いの無事を喜び、抱き合った。
「お二人様」
彌眞は二人に注意を促す。
オロチの八本の首のいずれかが、鎌首をもたげ、身体をしならせ今にも襲いかかろうとしている。
「わかってる」
十六夜は勾玉を天高くかざした。
尊はそれまであった疲労感が抜けていくのを感じた。
(これってホ〇ミ的な、回復系魔法的な)
尊は危機感を感じながらも、らしくなりつつあるなと、この世界に興奮を感じていた。
オロチの首5本が5人それぞれに襲いかかる。
十六夜は勾玉をオロチにむける。
大蛇の攻撃は見えない壁によって阻まれる。
壱与が鏡をオロチへとかざす。
大蛇の動きが止まった。
鏡に映しだされたのは、恐ろしくも醜悪な自らの姿。
ヤマタノオロチは恐怖したのだ。
(メデューサ的な)
尊はおそろしく客観的に見ている。それは映画や動画を見ている感覚に近い。
この機は逃せない。
ヤマタイ国の武人二人が行く。
彌眞は飛び上がり、八本の巨大な首を戈で斬り落とす。
難升米は後ろへ回り、八本の尾を鉾でめった突きする。
ヤマタノオロチは断末魔の叫び声をあげる。
血しぶきが飛び散った。
その血しぶきは、周りの木々を溶かした。
(やった・・・のか)
尊は恐怖の異音で足がすくみ、身体が全く動かせない。
武人二人は、身構え緊を解かない。
壱与はまだなお鏡を掲げ、十六夜は苦悶の表情で勾玉の効力を発動し続けている。
(おわってない・・・)
周りのみんなの様子がそう告げている。
大蛇は恨めしそうにひと吠え。それは長く、恐怖のひととき。
切り落とした大蛇の首が。
突きまくったオロチの尾が少しずつ再生されていく。
再び武人二人は怪物へと駆けだす。
完全なる持久戦となった。
全員に疲労と諦めにも似た感情が沸き立ってくる。
(くそっ、俺は何もしないじゃないか)
尊はとりあえず持っていた折れた剣を握りしめる。
「ん?」
剣が・・・ある。
度重なるオロチへの攻撃で、周り大きな血だまりが出来ていた。
その血だまりに剣を向けて見ると、剣は折れていない。
血だまりから離すとやはり折れている。血だまりに戻す、剣はそこにある。
「見える・・・俺にも見えるぞ」
「尊!」
壱与は叫んだ。
「それは天叢雲剣、剣を掲げよ!」
(やっぱり都合のいい世界だ。)
尊は震える右腕で剣を掲げた。
剣。鏡。勾玉。
三種の神器の力が発動される。
眩い一点の光が、ヤマタノオロチ真ん中右(こっちから向かって)の首、顔のこめかみ部分を指す。
「あそこだ!」
十六夜は叫んだ。
より一撃を確実にする為に、彌眞と難升米は首と尾への攻撃を緩めない。
「尊!」
「ヤマーダ!」
「尊殿!」
「尊様!」
四人の祈りにも似た叫びが尊に響く。
(この世界は楽させてくれないな。そうか、主役は俺だもんな)
(ここで行かなきゃ男じゃない)
呪縛された身体を精神で動かす。
「みんなの為に」
(身体よ!動いてくれ!動いて!動いて!ねぇ動いてよ!)
ドックン、ドックン(笑・・・ちゃいけない)。青白き魂が解放された。
「うおおおおおお!」
尊は駆けだした。無我夢中で走る。
天叢雲剣を構え、光が指し示す方へ。
オロチの首、そして顔面へと。
決死の覚悟で勢いをつけ飛んだ。
オロチの眉間に剣を突き立てた。
オロチは本当の断末魔の悲鳴とともに暴れた。
尊は突き立てた剣を離さない。
絶対に!
その時はついに来た。
怪物の動きが徐々に緩慢に・・・そして。
ヤマタノオロチはその活動を永遠に停止したのだった。
ちょっと自由度足してまいりました。
引き続き、よろしくお願いいたします。