マンティスへの帰還
魔窟から魔法陣で戻ってきた三人は、急いでマンティスへと戻った。
アドゥニスたちがいるとは言ってもあれだけの群れである。この目で確かめなければ安心することはできない。
だが、三人の心配は杞憂に終わった。
「──おぉーっ! ミリエラたちが戻ってきたぞー!」
三人の姿を見つけたアドゥニスが魔獣の群れを倒し、座り込んでいた冒険者たちに声を掛ける。
すると、いたるところから歓声が上がり三人を出迎えてくれた。
「魔窟の封印はどうだったんだ?」
駆け寄ってきたアドゥニスが分かりきっている質問を口にする。
三人が戻ってきた。そして、魔獣の群れが途切れた。
それが最大の答えなのだが、こちらも直接聞きたいという思いが強くあった。
「完璧だ。そして、これを見てくれ!」
笑みを浮かべたミリエラが掲げたのは──クラウソラスだった。
雨は上がり、雲の切れ間から太陽の光が降り注ぎクラウソラスを照らし出す。
その輝きが、美しさが全ての冒険者の視線を奪い取ってしまう。
「……こ、こいつは、まさか!」
「そうだ。これが魔窟の奥に眠るという、レアアイテムだ!」
ミリエラの声が、さらなる歓声を呼び込んだ。
勝利の歓喜がマンティスの隅から隅まで届いていく。
「……す、凄い! これが、本物の冒険者かよ!」
「これだけの歓声が生まれたのは、お兄ちゃんのおかげなんだよ?」
「いや、違うよ」
「そうかしら?」
「あぁ、俺じゃない。この歓声は、マンティスで長年冒険者として活躍してきたミリエラさんやアドゥニスさんがいたからこそ生まれたものなんだ!」
「……そっか、そうだね」
少し離れたところからミリエラと肩を組むアドゥニスの二人を眺めながら、ブレイドは自分もあのようになりたいと心の底から思うのだった。
※※※※
その夜はいたるところで大宴会が行われていた。
家で、酒場で、そして宿屋で。
魔族の群れを倒すために冒険者を統率したアドゥニスと、魔窟の封印を行ったミリエラの二人は一番大きな酒場に半ば強引に連れて行かれてしまった。
そこにはヴァニラ、ヒューズ、グレイズの三人もおり、冒険者ギルドからはミアサも顔を出している。
当然ながらブレイドとリアナもいる――のかと思いきや、二人はミリエラの実家の宿屋でゆっくりと休んでいた。
「酒場に行かなくてよかったの? ミリエラさんたち、寂しそうだったよ?」
「ミリエラさんたちはそうだろうけど、他の冒険者は俺たちのことを単なるFランク冒険者としか見ていないからな。むしろ、なんでいたんだ? って思っているんじゃないかな」
「そうかなぁ。そうでもなかった気がしたんだけど」
「あー、それはあれだな」
ブレイドは言い難そうにしていたのだが、リアナがじーっと見てくるので仕方なく理由を口にした。
「あれはリアナのことを見ていたんだよ」
「わ、私?」
「お前の場合は南門で上級魔法をぶっ放していただろう。あれで、あいつは誰だー! ってなってるんじゃないのか?」
南門ではリアナが魔獣の群れを魔法で一掃し、ブレイドは黙って魔窟の場所を探していた。
パッと見では活躍しているリアナと、何もしていないブレイドの構図なのだ。
「というわけで、明日からリアナには多くの冒険者からお声が掛かるんじゃないのかな」
「い、嫌だよ! 私はお兄ちゃんとパーティを組んでいるんだからね!」
「あはは、分かってるよ。……それにしても、賑やかだな」
「……そうだね。午前中は、魔窟に潜っていたんだよね」
窓の外に目をやると、夜だというのに都市の明かりが差し込んできており、老若男女かかわらず多くの声が聞こえてくる。
魔窟の封印がマンティスを守ることにつながった。そう考えると充実感に包まれていく。
これからの冒険者生活でも同じようなことが起こるのかと思うと、期待感も膨らんでいく。
「……ねえ、お兄ちゃん」
「どうした?」
普段と変わらない声音で呼び掛けられ、ブレイドも普段通りに返事をする。
「お兄ちゃんは、本当に……」
「本当に?」
しかし、リアナはそこから口を閉ざしてしまう。
どうしたのだろうかと、ブレイドは次の言葉を待っていたのだが……。
「……本当に、異界の英雄なんだね」
「なんだ、またその話か」
「だってー! 上級魔族を何回も倒してたら、そりゃあそうなんだなーって納得しちゃうわよ!」
「そうなのかどうかは分からないんだって」
本当に言いたいことは違っただろう。
だが、ブレイドから追求することはしなかった。
いつの日か、腹を割って話せる日が来ると信じているから。




