異常の魔窟-10
メリキュラオスの灰が最深部を覆い隠すように舞い踊ると、そのまま入ってきた通路を抜けて外へと風に乗って流れていく。
その様子を無言のまま見つめていたブレイドだったが、その横にリアナが寄り添ってきたことに気がついて笑みを浮かべた。
「どうだ、大丈夫だっただろう?」
「そうだけど……ねえ、お兄ちゃん」
「……なんだ?」
リアナが言おうとしていることはブレイドにも分かっていた。
その質問に対する答えをブレイドは持っていないが、聞かなければいけないような気がしていた。
「……その……魔族っていったい──」
「ブレイド! 何があったんだ!」
だが、そこに聞こえてきたのは極大魔法が消えたことで自由になったミリエラの声だった。
ブレイドとリアナは顔を見合わせ、そして苦笑しながら振り返る。
聞かなければいけないような気もしていたが、答えなど持っていないのだからお互い気にしないことにした。
「ミリエラさん、終わったんですよ」
「……お、終わった? つまり、ブレイドがあの魔族を倒したのか?」
「まあ、そういうことですね」
「……わ、私の知らないところで! なんてことだ!」
何故だか頭を抱えてしまったミリエラに、ブレイドは困惑顔を浮かべる。
「どうしたんですか?」
「お前の戦い方を見て学ぼうと思っていたのだ……まさか、魔法に包まれて動けなくなるとは!」
そうしたんです、とは言い出せずに苦笑することしかできなかったブレイド。
「……んっ? ところで、お前たちはどうやって魔法の荒波から逃れられたのだ?」
「あー、えっと、それはですねぇ……」
「わ、私が魔法で吹き飛ばしたんです!」
ブレイドがどう言おうか思案していると、リアナが大声で割って入ってきた。
「リアナがか?」
「そ、そうなんです! 魔法に関しては私の方が詳しいですからね、魔族の魔法を吹き飛ばしたんですよ!」
「……そうか、リアナも規格外だったな!」
「うぐっ! ……ま、まあ、お兄ちゃんほどではないですけどね!」
ここまで言ってしまうと後には引けなくなったリアナは、仕方なく自分も規格外だと言われたことを肯定してしまう。
「ならば、私のところの魔法も吹き飛ばしてくれたらよかったのに」
「あ、あの中だとミリエラさんがどこにいるのか分からなかったんですよ! だから、こっちの魔法しか吹き飛ばせなくて」
「そうだったのか……すまんな、力になれなくて」
素直に信じてくれたミリエラに悪い気もしてしまったが、リアナは頬を引きつらせながら笑うしかなかった。
ブレイドは無言のままジェスチャーで謝ってきたが、リアナはギロリと睨むに止める。
「……これは、後が怖そうだな」
頭を掻きながら溜息をついたブレイド。
そして、三人はレアアイテムが眠る奥の部屋へと進んでいった。
※※※※
今回のレアアイテムに関してもブレイドは期待を膨らませていた。
普通のメリキュラオスならばレアアイテムもそこまで期待は持たなかっただろう。
だが、魔素を暴走させて濃い魔素が溢れかえり、さらに謎の進化を遂げた強烈な魔素ならば期待値は急上昇である。
最初に最奥部へやって来たリアナと同じ反応を見せいるミリエラを横目に、ブレイドは段差の上に保管されていたアイテムの前まで移動した。
「……うわー! 綺麗な剣じゃないのよ!」
「……これは、凄いな」
「……これが、今回のレアアイテムかぁ」
三者三様の反応。
剣の美しさに感激しているリアナ。
剣の性能を感じ取り感嘆するミリエラ。
そして、剣だったことに落胆しているブレイド。
「あれ? どうしたの、お兄ちゃん」
「そうだぞ、ブレイド。これほどの剣にはなかなかお目に掛れないぞ!」
「いや、まあ、そうなんだけど……俺の剣は七星宝剣があるからなぁ」
今回のレアアイテム──クラウソラスは確かに名剣の一つに数えられる。
さらに言えば七星宝剣と同じく神の遺物でもあった。
だが、その性能では七星宝剣の方が上であり、クラウソラスを手に入れても使う機会がないと考えていた。
「クラウソラスかぁ……あれ、これって光属性の増幅効果もあるんだな」
「な、なんだと!」
ミリエラの視線がブレイドからクラウソラスに釘付けになってしまう。
両手がわしゃわしゃと動いているところを見ると、クラウソラスが欲しいというのは誰の目から見ても明らかだ。
「……ブ、ブレイド!」
「……なんですか?」
そして、ミリエラは意を決して口を開いた。
「ク、クラウソラスを、私に売ってくれないか!」
「……へっ? う、売る?」
「そうだ! あっ、いや、ブレイドが使うのであればいいんだ、気にしないでくれ。ただ、もし七星宝剣を使ってクラウソラスを使わないのであれば、私に売ってほしい! わ、私の持ち金では足りないのは分かっているが、分割で支払うというのはダメだろうか!」
まるで捲し立てるように言い切ったミリエラ。
ブレイドはポカンとした表情で即答する。
「いや、売りませんよ?」
「あっ! ……そ、そうか、そうだよな」
「あげますよ」
「そうか、あげるのか。そうだよな、普通はそうする……って、へっ?」
「売りません、あげます」
「あ……げる?」
「はい」
「…………はああああああああぁぁっ!?」
最奥部に、ミリエラの悲鳴がこだました。




