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異常の魔窟-9

 四本の腕からなる攻撃と、二本の腕からなる防御。

 手数の多さも気になるところだが、ブレイドが一番気にしているのは堅い防御だった。

 七星宝剣をもってしても両断できない左右の大盾に舌打ちをしながら、地面を抉るほどに重い戦斧と鉄鎚の振り下ろしを半身になり紙一重で躱すと、大剣と大鎌の横薙ぎは飛び上がって回避しつつそのままブレイドも七星宝剣を振り下ろす。

 大盾が突き上げられて弾き返されるが、想定内だったブレイドは勢いを殺すことはせずに大きく距離を取る。

 着地と同時に再び距離を詰めるが、ブレイドが間合いに捉える前に大盾が前面に出されてしまう。


「……お兄ちゃん」


 攻め手を欠いているブレイドを見ながら、リアナは心配そうな声を漏らす。

 メリキュラオスもこのまま押し切ろうと七星宝剣を弾き返しながら一歩、また一歩と前に出て行く。

 どのようにして切り崩すべきか、そんなことを考えながら速度強化を発動してメリキュラオスの後方へと移動するが、三面の内の一面がブレイドを視界に捉えており死角を突くことができない。

 ならばと筋力強化を発動して力押しを試みたが、限界突破(リミットブレイク)から大量の魔素を取り込んで進化したメリキュラオスは魔法師とは思えない膂力を見せて逆にブレイドを押し返してしまう。


「単純な戦い方じゃあジリ貧だな」

『ゴオオオオオオッ!』


 自身の有利を理解しているのだろう、メリキュラオスの三面は全てが不敵な笑みを浮かべてさらなる魔法を発動させた。


「ま、魔法剣!」

「四つの武器全てに発動させたのか」


 大剣には火属性、戦斧には氷属性、鉄鎚には土属性、大鎌には闇属性。

 四つの魔法剣の中で一番警戒するべきは大鎌の闇属性だろう。

 状態異常の付与効果が多い闇属性の攻撃を受けてしまうと、毒や麻痺の効果だったり、視野が制限される暗闇や、スキルの発動が一定時間できなくなるスキルエラーなどもある。

 スキルエラーに陥ってしまうと速度や筋力強化も使えなくなるので、いくらブレイドとはいえ危険に陥る可能性が高くなる。


「それに、大盾にも硬質化の魔法が付与されているな」


 七星宝剣でも斬れなかった大盾だが、さらなる硬質化となれば懐に潜り込まなければダメージを与えることすらできないかもしれない。


魔力消失バニッシュを使えば魔法剣は消せるけど、それだと根本的な解決にはならないんだよなぁ」


 最初の攻防では魔法剣は発動されていなかった。

 単純に攻め切れなければ魔力消失を使っても倒すことができない。


「……まあ、やりようはいくらでもあるんだけどな」


 ぽつりと呟いたブレイドが多くある選択肢の中からメリキュラオスを倒す方法として選んだのは──魔法剣だった。


『ゴガ? ゴガオオオオオオッ!』


 ブレイドが何かを企んでいると感じ取ったのだろうか、メリキュラオスは大盾を前面に構えながら突進してきた。


「シールドバッシュか。性能の高い大盾を持っているなら良い選択だな」


 冷静に分析を交えながらブレイドが選択した魔法剣は、七属性を同時に付与するものだった。

 火、水、木、金、土の五行属性。

 そして風と雷の二属性。

 合計七属性もの魔法剣に耐えられるのも、神の遺物(アーティファクト)である七星宝剣だからこそだ。


「これが本当の力押し……いや、魔法押しになるのか?」


 そんなことをぼやきながら、ブレイドはシールドバッシュで迫ってくるメリキュラオスの大盾めがけて駆け出すと、七星宝剣を背中の後ろまで振りかぶり一気に袈裟斬りを放つ。


 ──ドカンッ!


 硬質化されたはずの二つの大盾は、見るも無残に粉々になっていた。

 鉄壁を誇っていたメリキュラオスの大盾が砕かれ、不敵に笑っていた三面が全て驚愕に彩られる。


「これで、終わりだ」


 神の遺物である七星宝剣による斬撃、そして七属性による追加ダメージが外側だけではなく傷口を介して内側からも与えられる。

 そして突き付けられたのは左手に握られた錫杖──バルブレイブル。


「俺が魔法を使えないと思っているのか?」


 七属性の魔法剣を使えた時点で、ブレイドが魔法を使えることは分かっていた。

 カルディフへの道中では下級魔法を使っていた。

 しかし、今回発動されたのは極大魔法──


「──天雷破砕球(サンダーボルケイノ)!」


 バルブレイブルを媒介することで魔法効果が上方修正された天雷破砕球。

 小さな雷光がメリキュラオスに触れた途端に巨大化、包み込むと球体の中で雷撃の嵐が発生した。


『ギギョオオオオアアアアアアアアッ! ガギャアアアアアアアアアアアアッ!』


 最深部に響き渡るメリキュラオスの大絶叫。

 ミリエラを覆い隠していた六つの極大魔法を維持することもできなくなり霧散すると、メリキュラオスは六つの腕が全て灰となり、膝を折って地面にうつ伏せとなる。


『……ギガッ……ガ、ガガッ……ア、アぁ……ダ、ダーラ、グロロア……」


 死を目前としたメリキュラオスは、不思議なことに意識を取り戻していた。


「……あぁ……愛して、いたわ……ダーラ、グロロア…………」


 そんな呟きを落としたメリキュラオスは、残されていた体が全て灰へと変わった。

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