異常の魔窟-5
三階層からは当然ながらさらに魔素が濃くなっている。
総じて魔族も上級魔族の数も増えてきており、群れによっては上級魔族の方が数を多くしている場合も少なくない。
それでもブレイドを止めるにはあまりにも実力不足だった。
「よっと」
『ゲシャアッ!』
「ほいっ」
『ブギャアッ』
「うーん、こんなもんかぁ」
『ウホアッ!』
あまりに軽々と上級魔族を灰に変えてしまうブレイドの戦い方にミリエラは口を開けたまま固まってしまい、ここまで戦いを見てきたリアナは溜息をついている。
「お兄ちゃん、規格外でしょ?」
「……これは、規格外という一言で済ませていいのか?」
二人の会話を尻目にブレイドの剣はさらに加速していく。
強靭な四肢から駆け回り高速戦闘を得意としているシルバーライガーを上回る速度で進行方向へ先回りして斬り捨てる。
上級魔法を操るミミックマジシャンの魔法を魔力消失で無力化しながら強固な外皮をいとも容易く両断。
先ほどミリエラが倒したシュラコングには力勝負なのか七星宝剣を使うこともなく殴り殺してしまった。
「……シルバーライガーより速いって、えっ?」
「……あのスキルって、魔法師殺しですよねー」
「「……シュラコングを殴り飛ばすとか、ありなの?」」
ブレイドが上級魔族を倒すたびに二人からは溜息混じりの呟きが落とされる。
二階層よりも確実に強い魔族たちはブレイドの規格外な実力によって、二階層よりも短い時間で四階層への階段を見つけることができた。
「なあ、二人とも。どうしてそんな静かなんだ?」
「……分からないのか?」
「……それがお兄ちゃんなのよ」
顔を見合わせながら目の前で溜息をつかれてしまい、ブレイドとしては良い気はしない。
「お、俺の戦いを見たいって言ったのはミリエラさんだろ!」
「そうだな。私が言ってしまったんだ。……うん、あまりに規格外過ぎて参考にならなかったのが残念だよ」
「殴り飛ばすとか、絶対にあり得ないからね?」
「あー、あれは咄嗟にだなぁ」
「「咄嗟にでもあり得ないから!」」
何を言っても言い返されると悟ったブレイドは頭を掻きながら視線を四階層へ向かう階段へと向けた。
「……それなら、四階層は二人が行くか?」
「……それとこれとは話が別だな。ブレイドの目から見て、我々だけでも攻略できそうか?」
一転して真面目な表情を浮かべたミリエラ。
リアナも口を閉ざしてブレイドの見解に耳を傾ける。
「……できるとは思うが、無傷でできるかは分からない」
「それは、前衛の私がということか?」
「はい。もちろん魔族の魔法師もいるのでリアナだって危険ですが、一番危険なのは魔族の群れと直接対峙するミリエラさんです」
「ミリエラさん……」
心配そうな声で名前を呟いたリアナに、ミリエラは笑みを浮かべながらはっきりと口にした。
「私とリアナで行かせてくれ」
「ミリエラさん!」
「……いいんですか?」
ブレイドとしては誰も傷つかせるつもりはなかった。
だが、魔窟封印と合わせてミリエラが魔窟でも十分に戦えるようにすることもブレイドの中では目的の一つになっている。
安全を選ぶか、リスクを負ってミリエラの成長を選ぶか。
「ブレイド。私はお前がいる間でどれだけ成長できるかに、今後の冒険者生活が懸かっていると思っている。ここで大きな怪我を負っても、ブレイドがいれば助かるという安心感を持てているんだ。これは他の仲間たちとでは感じることはできないだろう」
一人ではこれ以上の成長は望めない。
ブレイドやリアナ以外の仲間と共にいても同様だと口にする。
「私の成長を見守ってくれないか?」
「……そこまで言われて、ダメですとは言えませんね」
「……わ、私もミリエラさんを助けます!」
「ありがとう、二人とも」
魔窟にいるとは思えない満面の笑みを浮かべ、ミリエラは大きく深呼吸をする。
そして視線をブレイドが見つめていた四階層へ下りる階段へ向けた。
「私も、規格外になれるだろうか」
「えっ、お兄ちゃんを目指すんですか?」
「ダメか? ブレイドくらい強くなれれば、魔窟の封印も自信を持てそうなんだがな」
冗談交じりの言葉だったのだが、ブレイドは笑いながら断言する。
「ミリエラさんならなれますよ。そのまま俺を超えていけるんじゃないですか?」
「超えるは言い過ぎだろう」
「それだけの素質はあるってことです。まあ、俺も簡単に追い抜かれたりはしませんけどね」
ニヤリと笑ったブレイドの表情には嘘偽りはない。
そのことに気づくことができたミリエラも似た笑みを浮かべて歩き出す。
冒険者人生の中で一番の冒険をするべく、ミリエラは気合を入れた。




