マンティス-8
内装に驚きながらも、寝室に向かうとふかふかのベッドにリアナは歓喜の声を上げていた。
すぐに飛び込みたい思いを押さえ、一度体を流してくるとお風呂に一番乗りで行ってしまう。
ブレイドはこちらもふかふかのソファに腰掛けて今までのことを思い返していた。
「……魔窟の封印もできたし、まずまずの出だしじゃないのか?」
この世界に転生して数日、エボルカリウスの討伐から魔窟の封印。その時には五魔将で人族と魔族の混血であるバルバラッドと出会うこともできた。
そして、腐敗していると言われているものの真っ当な国家騎士であるエリーザとダルリアンとも顔を繋ぐことができている。
「混血の村には一度足を運んでみたいな。城には……まあ、エリーザたちが国家騎士を立て直してくれていたら行ってみてもいいかも」
今後の展望に意識を広げながらも、目の前の問題についても考える。
「リアナは大丈夫だとして、ミリエラさんはどうだろうな。光属性を持っているけど、太陽の光かぁ」
魔法には様々な条件が付く場合は時折ある。
しかし、条件が付くものは同時に強力な魔法である証拠でもある。
ミリエラの光魔法は日中で晴れている日、それも太陽の光を遮らない見通しの良い場所という稀に見る条件の多い魔法なので、その威力も期待できるものだ。
ただ、魔窟を封印するとなればその威力は大幅に下がってしまうことを考えると連れて行くことにな色を示してしまう者も多いだろう。
「……まあ、なんとかなるだろう。条件を変えることができれば、魔窟でも十分通用するだろうし」
MSOでは変えることのできた魔法の条件を変えるということがこの世界でできるのかは分からないが、それが可能であれば貴重な属性である。
ブレイドはできることは全て試してみようと心に決めていた。
「俺ができること……ミリエラさんには魔法の条件を変えることだろ? 最終目標は魔王の魔窟を封印することだけど、他にも何かないかな」
そんなことを考えていると、意識がだんだんと遠のいていく。
カルディアから走ってきて、マンティスに到着早々でダーラグロロアとの戦闘をこなしている。
位階の英雄と呼ばれているブレイドであっても、疲労は溜まるのだ。
「……あー……一度、寝るかぁ」
そのままソファに横になったブレイドは、数秒後には心地よい寝息を立てていた。
※※※※
その夜、アドゥニスたちが宿屋を訪れると賑やかな打ち上げが始まった。
高級お肉に季節の野菜、さらにはお菓子まで持ち込まれてブレイドもリアナもここぞとばかりに頬張っていた。
ヴァニラは宣言通りにお酒を持ってきていたのだが、ブレイドに近づけないようにミリエラが目を光らせている。
アドゥニス、ヒューズ、グレイズの男性三人はお酒を飲みかわしながら機嫌よく話をしていた。
「こんな雰囲気もいいね、お兄ちゃん」
「あぁ。ソリダ村を出る前日の宴会を思い出すな」
「確かに。楽しかったなぁ」
宴会を思い出すかのように視線を斜め上に向けているリアナ。
そんなリアナを見つめながら、ブレイドはこんな質問を口にした。
「……俺についてきたことを後悔していないか?」
「してないよ」
リアナはブレイドの質問に即答でそう答えた。
「私が選んでお兄ちゃんについてきたんだよ? 後悔してるわけないじゃない」
「……そうか」
「それよりも、もっと食べようよ! これなんて甘くて美味しいよ!」
「いや、俺は甘いのはちょっと」
「ブレイドく~ん! こっちにはもっと甘い果実があるわよ~!」
「へっ?」
「み、見ちゃダメ! お兄ちゃん!」
「ヴァニラ! お前は何をしているのだ! 男ども、こっちを見るなよ!」
「「「……ごくり」」」
「「絶対に見るな!」」
「「「「はい!」」」」
男性陣の声が揃ったところでリアナとミリエラが、酔っぱらいみだらな姿になっていたヴァニラを別の部屋へ連れて行く。
扉が閉まる音が聞こえてくると、男性陣は顔を見合わせて苦笑しながらも大笑い。
こんな生活も悪くない。これが冒険者なのか。
ブレイドはそんなことを思いながら打ち上げを楽しんでいた。
※※※※
──ダーラグロロアが倒されてから数時間が経ったとある魔窟では、魔族の咆哮が響いていた。
「ああああああぁぁっ! ああああああああああぁぁっ!」
咆哮を上げている魔族はダーラグロロアのことを好いていた女性魔族。
魔族とは不思議なもので、関係の深い魔族が殺されてしまうとその死を感じ取ることができてしまう。
「……絶対に、殺してやる! 聞いていたぞ、お前のことを聞いていたぞ――異界の英雄!」
魔窟の最深部からは女性魔族の魔素が上層へ流れ込んでいく。
通常ならばここまで濃くなることはないのだが、女性魔族の怒りが自然と魔素を濃く、その量も多くなっている。
比例して上層で跋扈している魔族にも変化が出ていた。
下級魔族が中級魔族へ、中級魔族は知識を持たない上級魔族へと進化している。
「許さない、絶対に殺す!」
大量の濃い魔素は、自らの体にも変化をもたらしていた。
「ふふふ……ふフフ……ゲヒャ、ゲギャギャギャギャギャ!』
知識を、意思を持っていた女性魔族は、異界の英雄を殺すために暴力に特化した意思を持たない、破壊だけを目的とした魔族へと変貌していった。




