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マンティス-7

 中に入るとすでに混雑しており満室なのではないかと心配してしまったブレイドとリアナだったが、ミリエラが受付の奥に入って何やらやり取りをして戻ってくると、一人の女性と共に戻ってきた。


「紹介するよ。こちらは私の母親でミラだ」

「娘がお世話になったようで、本当にありがとうございました」


 深々と頭を下げてきたミラに二人は慌てて手を振りながら恐縮する。


「いえ、あの、ただの通りすがりでしたから」

「そうです! それに、私は何もしていませんから!」

「いえいえ、本当にありがとうございます。お部屋に関してはとっておきのお部屋をご用意しますので、ゆっくりと休まれてくださいね」

「それと母様。アドゥニスや他の冒険者が魔族を追い払った打ち上げをしに、夜に訪れるのだが大丈夫だろうか?」

「うふふ、問題ありませんよ。そちらも、専用のお部屋を用意しておくわね」


 姉妹と言われても納得してしまうかのようなミラの若々しさに驚きながら、ミリエラの案内にそのままついて行く二人。


「驚いただろう?」

「あー、はい」

「お母さん、とっても綺麗ですね!」

「私の自慢の母様なんだ」


 少し照れたように笑い、そしてすぐに真剣な表情へと変わる。


「だからこそ、マンティスを救ってくれたブレイドには感謝してもしきれないんだよ」

「ミリエラさん、その話はもう……」

「いや、ブレイドは本当にすごいことをやってのけたんだ。自慢してもいいと思うんだがな」


 笑いながらそう口にするミリエラに、ブレイドは困ったように頭を掻く。


「誰かを助けるのに理由とかいらないでしょう? 冒険者だったら仲間を見捨てるようなこともしないでしょうし」

「その想いが冒険者の教訓ではあるが、実戦できる者はそうはいない。ブレイドがどれだけ謙虚にしていようとも、私の感謝は変わらないからな」


 話をしながらだったからだろう、与えられた部屋にはすぐに到着した。

 三階建ての最上階なのだが、不思議なことに階段を上ったすぐのところに扉が一つあるだけで左右は壁になっている。

 疑問を感じたままミリエラへ振り返った二人だったが、ミリエラの口からは驚きの言葉が発せられた。


「三階の部屋はフロア全体が部屋になっている。だから扉も一つしかないんだよ」

「へぇー、そうなんですね。……って、フ、フロア全体!?」

「それって、この先全部が私たちの泊まる部屋ってことですか!?」

「ふふふ、その通りだよ」


 してやってりといった感じて笑ったミリエラだったが、二人はそんなことに反応している場合ではなかった。


「ひ、広過ぎますよ!」

「そうですよ! ほ、他に部屋はないんですか?」

「あいにくと満室なんだ。これでもマンティスでは一、二を争う──」

「「それはさっき聞きましたよ!」」

「あはは! 確かにそうだな!」


 とうとう声を出して笑ってしまったミリエラは、笑いながら扉を開けて二人を中へと促す。

 尻込みしてしまう二人だったが、ミリエラが動かないのを見ると諦めて中に入る。

 天井から下がっているシャンデリアが光を受けてキラキラと輝きを放っており、左右の壁には絵画が飾られている。

 床には深紅の絨毯が敷かれており、踏んでしまってもいいのか不安を覚えてしまう。

 入り口でこれだけ豪華なのだから、寝室やリビングはさらに豪華になるのではないかと考えると、ミリエラの説明も耳に入ってこなかった。


「──おい、二人とも?」

「……えっ、なんですか?」

「はぁ。まあ、中は後から確認してくれて構わないよ」

「……ミリエラさん、本当にこんな豪華なお部屋、いいんですか?」


 改めてそう口にするリアナに苦笑しながら、ミリエラははっきりと口にした。


「二人だからいいんだ。二人がいなかったら、私も母様も、この宿屋も無くなっていた。命あることを感謝するなら、これくらい大したことではないだろう?」

「……ミリエラさん、格好いい!」

「いや、普通ではないか?」


 リアナが目を輝かせながら見つめていたことに恥ずかしさを覚えたのか、ミリエラは足早に入り口の方へ戻って行く。


「打ち上げもこちらの部屋で行う。寝室になるところにはちゃんと鍵も付いているから安心してくれて構わないからな」

「分かりました、何から何までありがとうございます」

「本当にありがとうございます! それとお兄ちゃん?」

「なんだ? ……えっと、どうしてそんな怖い顔をしているんだ?」


 こちらを睨みつけてくるリアナに困惑するブレイド。

 ミリエラも何事だと成り行きを見守っている。


「絶対に鍵を掛けて寝ること! それと、絶対にヴァニラさんと二人きりにならないこと! 誘われても断ること! 何かあれば絶対に私に知らせること! いいわね!」

「……はぃ」

「声が小さい!」

「はい!」

「……ふふふ、リアナは本当にブレイドが好きなのだな」

「す、好きとは違いますよ! ただ私はお兄ちゃんのことが心配なだけです!」

「そういうことにしておこう。では私は行くが、打ち上げが始まる前にはまた声を掛けさせてもらうよ」


 扉の外に出たミリエラは、閉める直前まで二人のやり取りが聞こえてきたことに笑いが止まらなかった。

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