国家騎士-1
ブレイドたちはカーラの子供のことについて話を聞いていた。
「へぇー、料理人をしているんですね」
「きっとカーラさんの料理が美味しかったから、料理人になりたかったんですよ!」
「だといいんだけどねぇ。家に帰ってきたときは私だけで食べるのももったいないから、近所の人にもおすそ分けをするんだよ」
「いいなー、羨ましいー!」
「ラコーニャって都市で料理人をしているから、寄る機会があれば食べていってちょうだいね」
とても楽しい晩ご飯を摂っていた三人だったが、ブレイドが唐突な質問を口にする。
「……カーラさん、国家騎士に知り合いがいたりしますか?」
「国家騎士って、宿屋の人らかい? まさか、いないわよ」
「……そうですか」
「どうしたの、お兄ちゃん?」
ふぅ、と溜息をついたブレイドは立ち上がり二人に声を掛ける。
「ちょっと出てきます」
「こんな夜更けにどうしたんだい?」
「いや、なんだか俺に用事のある人が来ているみたいなんで」
ブレイドがそう口にした直後、家のドアがノックされた。
「……なんだい、大丈夫なんだろうね?」
「大丈夫ですよ、ちょっと話をしてくるだけなので」
「お兄ちゃん……」
「リアナも心配するなよ。あの時も大丈夫だっただろう?」
ブレイドがいうあの時というのは、バルと話し合いをした時のことだ。
リアナもそれが分かっているのか、それ以上は何を言うわけでもなくただ頷いていた。
「それじゃあカーラさん、ちょっと行ってくるのでリアナのことよろしくお願いします」
「……何のことか分からないけど、無茶をするんじゃないよ」
ブレイドは笑いながらカーラに頷いてからドアを開く。
そこに立っていたのは、国家騎士の鎧を身にまとったエリーザだった。
「どういった御用でしょうか?」
「突然の訪問すまない。私は宿屋に泊まっている騎士団の隊長を務めているエリーザというものだ」
「そうですか。それで、どういった御用で?」
ブレイドの態度は国家騎士に対して礼を失しているようにリアナとカーラには見えたので後ろからヒヤヒヤしながら見つめている。
「……話が早そうだ。外で話をしないか? 私と君で」
「……分かりました。それじゃあ行ってくるよ」
ひらひらと手を振りながら、ブレイドはエリーザについて歩き出した。
※※※※
向かう先は宿屋ではなく、カルディフを出て周囲に何もない草原地帯。
「これくらいでいいか」
「こんなところまで連れてきて、本当に何の御用なんでしょうか」
呆れ声で問い掛けたブレイドに振り返ったエリーザは、右手でブレイドが腰に差している七星宝剣を指差した。
「その剣、まさかとは思うが神の遺物ではないのか?」
「これ? これはまあ、そうみたいだな」
「そうみたいだと? お前のものじゃないのか?」
こめかみがピクリと動き、やや睨みつけるような表情に変わる。
「俺のだよ。ただ、神の遺物だって知らなかったんだ」
「なら、どのように知ったのだ」
「魔族を倒した時に聞かされたんだ。それは神の遺物だなーってね」
ブレイドは本当のことを言っているのだが、エリーザにはふざけているようにしか見えなかった。
「……本当に君のなのか?」
「だからそう言ってるじゃないですか」
「……どこかから盗んできたものでは?」
「違いますよ。ってか、それならどこから盗んだものだって言いたいんですか?」
「……その剣、こちらに渡してもらおうか」
最後の言葉を言い終えた直後からエリーザの雰囲気が一変した。
精神が弱い人間なら当てられただけで腰を抜かしてしまうだろう殺気がブレイドに放たれる。
さらに右手を腰に差した細剣に添えることで本当に斬ると思わせているところも抜け目ない。
だが、その程度の殺気で態度が変わるほどブレイドの精神は弱くなかった。
「これは、俺と殺し合いたいってことなんですか?」
「……なんとも思わないのか?」
「さすがに殺気を向けられていい気分はしないですけど」
「……君は面白いやつだね」
「今日はそう言われることが多いなぁ」
頭を掻きながらそうぼやくブレイドを見て、エリーザは苦笑しながら謝罪を口にした。
「すまなかった」
「あれ、俺以外には止めた方がいいですよ? 絶対に倒れると思いますから」
「それを受け止めることができた君は、神の遺物を持つにふさわしい人物だということか」
「あっ! すみません、名乗ってなかったですね。俺の名前はブレイドって言います」
「ブレイドか、いい名前だな」
エリーザはそう口にしながら握手を求めてきたので、ブレイドも握り返す。
「私たちはこの近くに現れた魔窟を封印するためにここに来ているんだ。宿屋に泊まるつもりだったんだろう? こちらもすまなかったな」
「あの時は正直焦りました。カーラさんが泊めてくれなかったら野宿でしたよ」
「ここの住民たちは、優しいのだな」
その口ぶりだけがとても寂しそうにブレイドには感じられた。
「……何かあったんですか?」
「……いや、なんでもない。ブレイドたちはどちらに向かうんだ?」
話題を変えてきたこともあり、触れてほしくないことだったのかも考えて乗っかることにした。
「俺たちはマンティスに向かうので北ですかね」
「そうか、それでは逆だな。私たちは南に向かうんだ」
「南に魔窟が現れたんですね……へぇー……南、に?」
まさか、という思いがブレイドの頭をよぎった。
ブレイドたちは南から北に向かっている。その道中で見つけた魔窟は一つのみで、すでに封印を終えている。
もし、同じ魔窟を目指しているのであればエリーザや国家騎士たちは本当に無駄足を踏むことになってしまう。
「どうしたのだ? もしかして、道中で見つけているのか?」
「へっ? いや、なんでもないですよ! あは、あははー!」
「……? まあいい、付き合わせてしまって悪かったな」
手を離したエリーザは笑みを浮かべて手を振るとその場を去っていった。
「……マジでどうしよう。言った方がよかったかな」
今になってそう思ってしまったブレイドは、満天の星空を見上げながら溜息をつくのだった。




