手始めに
異世界転生はお好きですか?チートはお好きですか?僕は大嫌いです。
音が聞こえる。
木の葉が擦れ合う乾いた音。甲高い鳥のさえずり。雲の流れる音まで聞こえてくる。
カルルは、そっと目を開けた。始めは視界がボヤけていたが、徐々に景色が鮮明に見えてきた。
青い空に眩しい太陽が浮かんでおり、千切れた綿のように立体的な雲も流れている。
何故か、今のカルルは仰向けに倒れている。背中や臀部から、ヒンヤリとした土の感触が伝わってくる。ボロ布のような服1枚を隔てただけでは、土の冷たさを完全に遮れない。
ゆっくりと上半身を起こし、体や服に付着した土を払うと、カルルは周囲を観察するために首を動かした。
乱立する樹木。要所要所に生えている草花。ゼンマイなどの山菜も見える。
幹から抉れて倒れた樹木もあり、そこからはキノコが無数に生えていた。
どうやら、ここは森の中のようだ。自分以外に人らしき気配はない。
「...おい!」
声が聞こえた。慌てて周囲に目を向けるが、やはり人は何処にもいない。
「どこ見てんだテメェ!ここだよ!ここ!」
声を良く聞き目を凝らすと、声の発信源はすぐに判明した。声は、自分の足の先から聞こえる。
いや、正確に言うと、声の元は伸ばした足のつま先に転がっていた透明な水晶玉からだ。
カルルは、膝を折って上半身を伸ばし、水晶玉を拾った。
よく見ると、水晶には少女の顔が浮かんでいる。白髪赤眼の少女だ。頬杖をついて、こちらを上目遣いで睨んでいる。
この少女は見覚えがある。カルルは額に指を当てて思考を巡らせ、すぐに思い出した。確か、カルルを蘇えらせてくれると言っていた、女神を名乗る少女だ。
この口の悪さは間違いようがない。これまで口の悪い女性と話したのも、この少女が初めてだ。
「ったく、ようやく見つけたか...おい、カルル・カエサル!アタシの声は聞こえてるよな?」
フルネームを呼ばれた。返事はこの水晶に向かってすればいいのだろうか。
「...聞こえてますよ」
「そうか、なら良い。上手く蘇生出来たみてぇで安心した」
「あの...女神...様?」
「なんだ」
「ここは何処なんですか?それと、この水晶は...?」
おずおずと質問するカルルに対し、少女もとい女神は盛大に舌打ちをしてため息をついた。
「もう忘れちまったのか?人間ってのは、マジで想像力もねぇ、記憶力もねぇ、察しも悪ぃしょうもねぇ生き物なんだな」
「察せないことは認めます...でも、何も分からないので教えていただけませんか?」
「わーったよ。1度しか言わねぇからよく聞けよ?」
それから、カルルは女神から話を聞いた。
まず、カルルは女神の力によって生き返った。
肉体と魂の転送先に選ばれたのが、現在カルルがいる森の中だ。カルルが女神に出会う前___つまり死ぬ前まで暮らしていた世界だ。
何故この森に転送したのかと言うと、魔物もほとんど生息していない安全な場所だからだと答えた。
ちなみに、生前に肉体に負った傷は女神の力で完璧に修復したので傷も痛みもない。
そして、この水晶は転送直後にカルルに持たせたという。
女神自身が作った代物で、今のように女神のいる天界と、カルルのいる現実の世界を跨ぎながら、直接会話が出来る優れものだと女神は言っていた。
しかも、会話だけでなくお互いの顔も見える。今も、欠伸混じりに説明をしている女神の顔がしっかりと見えている。
水晶を貰った記憶は全くないが、女神がそう言っており、なおかつカルルはこうして水晶を持っている。この際、途中経過はどうだっていい。
「この水晶を持たせたのは、こうしてくだらねぇ会話をするためだけじゃねぇ。アタシが直々にテメェに指導するためだ」
「指導?」
何のことか分からない。首を傾げるカルルに、女神は眉根を寄せた。
「転生者だ。転生者を討伐するための手順をアタシが教えてやるって言ってんだよ」
ここまで聞いて、カルルはようやく全てを思い出した。
女神は、この世界に存在する転生者の討伐をさせることを目的にカルルを生き返らせた。
当然、カルルも同意の上だ。転生者を嫌うお互いの意見が一致したので、このようにカルルは生き返ったのだ。
そして、転生者達に対抗するために、この口の悪い女神から、とある能力が与えられた。これまでのことを思い出した途端、カルル自身も何かしらの能力を持っている実感が湧いてきた。
「いいか?今からアタシがアンタに与えた能力について説明してやる。言われた通りに動けよ?」
「...わかりました」
拒否をする理由はないし、断ったところでこれからどうすればいいのか分からない。ここは女神の言葉の通りに動いた方が最善だろう。
カルルは、水晶玉を握ったまま立ち上がった。




