第8話。厨二フルワンダーランド。
「ちっ、数が多い割に民家が近い。これじゃ疾風斬が使えない」
学生服に身を包んだその少女は、苦々しげに呟く。
後ろから見ても分かるが、こいつ相当の手練れ(末期厨二病患者)だ。
今まで数々の少年漫画を読んできたのだろう。その口調には慣れと陰での音読の努力が感じられる。
「っ、くぅ」
痛みが和らいだ事で身体が自由になった俺は、ゆっくりとだが自分の力で立ち上がる。
それに気付いて、少女も振り返る。
「どうやら、深刻なダメージでは無いようね」
セーラー服にやや茶色の髪、黒いパンプスに白いソックス。
右手に握られた日本刀だけが異質な女子高生。
だがその顔を見て驚いた。
「えっ、お前⁉︎」
何故ならゲル球をぶっ飛ばした目の前の少女は、5組の沢田だったからである。
「なっ⁉︎あんたは!」
ビックリしたのは沢田も同じ様で、目を見開いたまま口をパクパクさせている。
余程の衝撃なのか、二の句が次げない様だ。
まぁ無理もない。
去年一緒のクラスだったからな、俺たち。
1度も話した事無かったけど。
元同クラの奴が、ゲル球にヒャッハーされていたら誰だってショックだろう。
でも俺だってショックだよ。
こんなにボロボロな所を、あんまり関わりが無いとは言え女子に助けられたんだから。
もう穴があったら入りたい。
あ、そういえば1ヶ月前河川敷に大きな穴が出来たんだった。あれなら俺でも入れるかな。
「ゲルゲル!!」
俺たちが距離感が複雑な再会を果たしていると、吹き飛ばされたゲル球達が戻って来た。
心なしか色が緑から赤に変わっている気がする。
気のせいかな、気のせいだろうな。
もしパワーアップとかされたら沢田放っといてエスケープする自信しかない。
そんなゲル球達を見て、沢田がまた何かを口走る。
「そんな、ジョグレスしようとしている?あれはCクラス以上の上級モンスターしか習得しない筈………。
まさか、これも魔王の仕業だって言うの⁉︎」
あぁ、うん。
やっぱ俺帰ろうかな。
ほら、何かヤバそうな雰囲気だし。
それにさ、仲良くないとは言えこれ以上沢田がイタい発言するのは、その、心に来る物がある。
よし、帰ろう。
「なんかごめんな、沢田。見なかった事にするから、お前も頑張れよ。何か悩みあるなら聞くし。じゃあな。」
そう言って歩き出した刹那、いきなり空き地が光で埋め尽くされた。
ギャァァアン!!!
と言うけたたましい音と共に、眩い光が俺の視界を奪う。
「くっそ……。今度は何だよ。」
数秒の後、何とか視力を回復させた俺が見たものは、
「ゲ〜〜ル〜〜」
3mほどに膨れ上がった、赤黒いゲル球だった。