第6話。青春のカタルシス。
「おいおいおい」
マッハで土管の裏に隠れた俺は、小声でつぶやく。
いくら何でもファンタジー過ぎるだろ。
もしやあれか?
今日霧島が錬成してたあれか?
紙ヤスリとローションからあんなのを作ったんならノーベル賞もんだぞ。
紫のオーラ出してる時点でノーベル賞どころじゃ無いけどな。
霧島の才能に震えながらも、息を潜め、事の次第を見守る。
どうやらあいつらは俺の存在に気付いていない様で、ひたすら一箇所に集まって飛び跳ねていた。
発見から数分が経ったが、気のせいかゲル球(ゲル状の球体)が増えている気がする。
そして先程よりも激しく飛び跳ねている。
一体何にそんな群がっているのかと凝視するが、ゲル球に埋め尽くされているのと、真っ暗である為判別が出来ない。
それからまた数分が経つと、この不思議な現象にも慣れ、流石の俺も飽きて来た。
ただ飛び跳ねてるだけだし。
気づけばもう3時を回ってる。
明日は1時間目から現国が入っているから早く寝たい。
授業中に寝たらゴリ松に殺されるからな。
隙をついて帰ろう考え、立ち上がったその時、「パキッ」と言う音と共に足元の枯れ木が折れた。
「ゲルゲル⁉︎」
「ゲゲル⁉︎」
その音に気付いたゲル球達が一斉にこちらを振り向く。
「やべっ」
作戦を変更し、一目散に空き地の出口に向かって走る。
「「「ゲゲルゲル!!」」」
すぐに後ろから猛然とゲル球達が追いかけてきた。
くっそ!
思ったより早えぞあいつら。
ここ1年体育以外でマトモに運動してなかったのが悔やまれる。
やっぱ部活入っときゃ良かった。
そしたら友達も出来ただろうし。
あぁ、やっぱ去年ナオの誘いに乗るべきだったのかなぁ。
リアルの厳しさに少し感じ落ち込んだものの、空き地の中途半端な広さが功を奏し、すぐに出口が見える。
「っしゃ!ってうぉおお!!」
だが喜んだのも束の間、出口を出てすぐの所にもゲル球がおり、俺の声に反応して飛びかかってきた。
「どっひゃあ」
何とか横に転がり衝突を避ける。
すぐ隣を数匹のゲル球が中々のスピードで通り抜ける。
あっぶねぇ〜!
いくらゲルでもあれ食らったら青アザが出来そうだぞ。
ってかどっひゃあなんて初めて言ったぜ。
精神的にも追い詰められてるな俺。
立ち上がりながら冷静な分析をしていると、ゲル球に周りを囲まれている事に気付く。
綺麗に等間隔で並んでおり、ジリジリと距離を詰めてくる。
ゲル球に目や口は無いが、心なしか笑っているように見える。
だって小刻みにプルプルしてるもん。
こりゃあアレだな。
舐められてるな俺。
そりゃそうだ、姿を見た瞬間に一目散に逃げたんだ、無理もない。
俺だって馬鹿にするよ、あいつ俺らの事ビビってね?って。
だが、
だがゲル球よ、
「こっちにはバットがあんだぞコラッ!!!掛かって来いや!!!!」
俺はケースからバットを取り出し振り被る。
が、
「へぶっ!」
全方向から激突され、悲痛な声が漏れる。
痛えぇ………。
地味に痛えぇ…………。
クラスで1番わんぱくな男子からドッチボールで当てられるぐらい痛え。
耐えられない訳では無いが、鼻とかに当たったらすんなり泣けそう。
「うぅっ、オラッ!」
「ひぐっ」
「このヤロ!」
「ぐへぇ」
ガムシャラにバットを振るうが全て軽やかに避けられ、一方的にボコられる。
くそぉ………。
狩場1でスライムに負ける勇者ってこんな気持ちなのか…。
悔しいが攻撃を当てられない為、ゲル球に視界を塞がれながらもバットを振りつつ闇雲に走り回る。
「はぁっ、はぁっ、」
帰宅部四年目の身体には突発的な無酸素運動は厳しく、早くも息がきれる。
「マジかよ。ふべっ!もうバテそうだ。てふっ!」
執拗にテンプルを狙ってくるゲル球を避けながら、己の不摂生を呪う。
意識が朦朧とする中、一筋の光が見えた。
出口にゲル球が居ないのだ。
どうやら全てのゲル球が俺をボコりに来てるらしく、先程までの様にジャンピングしてる奴は居ないようだ。
「これが最後のチャンス!!!」
残り少なくなったエネルギーを使って、全力で駈け出す。
突然のダッシュに反応が遅れたのか、ゲル球達は付いてこれない。
やった。
とりあえずここから出て、すぐ近くの民家に助けを呼ぼう。
数人がかりで戦えば、こいつらにも勝てるかもしれない。
そんで帰ったら結婚するんだ。
相手居ないけど。
眩しくも輝きに満ちたビジョンが見えた時、
グキッ!!!!
「あれ?」
ズシャァア!!!!
俺は十二年ぶりに盛大にコケた。