第5話。闇(討ち)金(属バット)マツヤマくん。
もう5月だと言うのに、未だ肌寒い風を受けながら町内を歩く。
ケータイ番号も実家も知らない霧島を、誰にも居場所が分からない魔王を見つけるなど、雲をつかむ様な話である。
しかも時間は深夜、普通の高校生なら出歩かない。
この事をもしナオに話でもしたら、本格的に頭の心配をされるだろう。
だが俺には確証がある。
奴は今日必ずある場所で何かを行う。
何故なら今日の現国の時間、[今日の2時に、西町公園横の空き地]とノートに書いていたからだ。
目標時間の5分前に着くと、早速バットをケースから取り出し、空き地にあるバラック小屋に身を潜め、霧島が訪れるのを今か今かと待つ。
心臓がバクバクと鼓動する。
残り4分、3分、2分。
緊張がMAXにまで登る。
残り1分。
その瞬間、急に冷静になり、自分の格好を俯瞰した。
これガチモンの犯罪者じゃん。
一度素面に戻るとそこからは早く、ニット帽とグラサン、マスクを取りジャケットの中に入れ、金属バットもケースに入れ直し、土管の上に座って待つ事にした。
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「………、遅い」
時刻はもう2時33分である。
もし俺が金丸ファイヤーズ(小学校野球チーム)の監督なら分数×ケツバットをお見舞いするレベルの大遅刻だ。
手持ち無沙汰でケータイを弄るも、メールの差出人はナオと出会い系ばかりで虚しくなり、現実から目を背ける様にパタリと画面を閉じた。
しょうがないのでバットの素振りでもするかと、ケースを開けて取り出す。
ふとバットに書いてある文字に目が入る。
[金丸小 6-2 霧島]
霧島のじゃんこれ。
ミスったな、気まずい事思い出しちまった。
俺は忘れてたけど、あいつの思い出の品とかだったらどうしよう。
最悪、魔王行為を辞めるよう説き伏せる時に、人の物を借りパクする奴に指図されたく無いと返されたらもうゴメンとしか言いようが無い。
そそくさと再びケースに直し、もう一度土管の上に座り直す。
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もうあれから何分経っただろうか、月を見ながら考える。
もしや全てが俺の幻覚だったんじゃ無いか?
そう思えてくる。
はぁ〜とため息を吐き、自宅に帰ろうと土管を降りたその時、地面の上をモゾモゾと動き回る何かが見えた。
野良犬か?
目を凝らしてもう一度見ると、今度はハッキリとその姿が見える。
しかし今度は自分の目を疑った。
何故なら、
ゲル状の球体が、一箇所に群がり飛び跳ねていたからだ。